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第19話 瞬の特訓(後編)

お昼前になると瞬と諒は霜月と瑛真の元へ戻っていた。瞬は霜月を見つけると意を決して声をかける。それを諒と瑛真は少し離れて静かに見ていた。



「霜月さん、ちょっと良いか?」



霜月は瞬の方を見ると真顔だった。感情が読み取れない。

瞬は心臓がドクドクした。



「さっき俺がじいちゃんの最期の時に思い出したことがあったんだ。その時霜月さんが背中をポンポン叩いてくれただろ。⋯⋯あの時、霜月さんの心臓バクバクしてたんだけど、どうして?」



瞬は霜月の目を捉えたまま聞いた。霜月の目の奥がゆらっと揺れた。それでも霜月は閉口している。瞬は霜月が口を開くのを待った。そして霜月は下に視線を少し外して、また瞬を見ると口を開いた。



「実は瞬のじいちゃんは⋯⋯知り合いなんだ。」

「えっ?そうなの?」



瞬は意外な答えにぽかんとした。思わず言葉をこぼす。



沈黙が流れる。



諒は瞬と霜月を交互に見るとえいやっと聞いた。



「霜月さん、知り合いよりももっと親しかったんじゃないの?」



霜月は諒を凝視すると諒は霜月を見返した。すると霜月は瞬に視線を戻すと瞬と目が合う。お互いの奥底にある感情を読み取ろうとするが読み取れない。

そこへ霜月は口を開いた。



「⋯⋯そうだよ。君のじいちゃんとは少なくとも話をして手合いをするくらいの間柄だった。」



瞬は霜月を見ていると霜月は少し寂しそうな目をしているように見える。その時、瞬はある思いが心の中に降りてきた。



「霜月さん、もしかしてじいちゃんの最期を知らなかったの?」

「⋯⋯いや、知っていたよ。ただ君の口から聞くことになるとは思わなかったし⋯⋯何ていうか驚いたんだ。」



霜月は感情を抑えてゆっくりと答える。

それを瞬は霜月を見ている。噓を言っているようには見えない。

すると瞬は緊張を解いて霜月にぶつけた。



「そっか、霜月さんはじいちゃんのこと知ってる人なんだ。なんでもっと前に言ってくれなかったんだよ。」

「この話をしようってタイミングになったら言おうと思ってたんだ。」



瞬は口を緩ませると大きな口を開けて霜月にねだる。



「そうなんだ!霜月さん秘密主義だなぁ。もっとじいちゃんのこと聞きたい!」



それを聞いた霜月は弱々しく口角を上げると壁を作るように心を閉ざした目をした。



「時が来たら僕が知ってること全部話すからそれまで待っててくれるか?」



もしこの時、瞬が霜月に抱きついていたら霜月の心臓は爆発するくらい大きな鼓動をしているのに気がついたのだろうが、瞬は疑念が晴れたので、そんなことには少しも気が付かなかった。



午後になると力也は来なかった用事が出来たようだ。



「少し訓練したら僕も里に下りるから瞬と瑛真、この後の訓練について話すよ。諒は木登りの練習をしておいてね。」



諒はビョンと飛び上がると近くの木を登り始めた。諒は戦い方としてどうしても間合いを取ることが必要になる。相手の攻撃を受けずに攻撃するためには木に登ったり間合いを広く取ったりすることがいる為、木登りの特訓中なのだ。



「瑛真は参考になると思うから近くで見ていてね。

瞬、昨日は攻撃の威力を上げる練習をしたね。あの動きは常に行うよう意識してね。それ以外に瞬に必要なのはカウンターと急所突き。大ぶりになった攻撃を受けるのと同時にこちらも攻撃を合わせて出す。自分の動きだけじゃなく相手がこちらに動いてきているからキレイに当たれば自分の攻撃の数倍の威力になる。それから急所突き。」



霜月は自分の顔や身体を指さして説明する。

瞬はこの前瑛真にやってみせた霜月のカウンターパンチを思い出していた。



「急所は色々あるけど今回は顔の急所、顎に集中しよう。顔は急所だらけ。目、こめかみ、耳、狙えるところはどこでも狙って。それから鼻と口の間の部分。ここはあまり知られていないけど急所だよ。他よりも狙いやすいから常に意識してね。それから顎。とにかく顎に攻撃を当てて脳震とうを起こすのが大事だよ。ここで少しやるから手合いの時に必ず意識してね。」



しばらくすると諒が戻ってきた。瞬が座って霜月と瑛真の手合せを見ていた。諒は瞬を見ると顔がまた腫れて変になっている気がした。そして諒が瞬の目を覗いてくる。



「瞬⋯⋯大丈夫?」

「おう!」



瞬は元気に答えた。

しばらくすると二人の手合せが終わったので四人で赤龍の里に降りると力也に会った。四人が武道場に入ると霜月を見た里の者が霜月を取り囲む。彼らは手合いを申し込んているようだ。霜月は少し考えて良いよと言って次々に相手していく。力也は霜月の動きを見ている。



「里の奴ら盛り上がっているな。瞬と瑛真も手合い始めようか。」

「おう!」

「はい!」



武道場では任務のない者が武闘訓練をするのに使う。瞬たちは初日に霜月のいない間にここで手合いをしたのでどんな動きをするのかは里の者にバレている。それなら経験値をつけるのにこちらも利用するしかない、というのが霜月の考えだった。瞬に協力してくれる人も少しずつ増えている。

瑛真には兄弟子が何人かいて変わり代わりにやってきた。



瞬は霜月との訓練以外はずっと手合せの訓練をしている。諒は似たような背丈の者と手合せをしたり木に登ったり霜月に言われた訓練を続けている。



夕方になり瞬、諒、霜月は山に戻ってきた。瑛真は赤龍の里の自分の家へと帰った。夕餉を食べて、さあ寝ようと言う時瞬と霜月は攻防戦を繰り広げていた。

瞬は霜月の持っている茶を見つけると、それを指さし力強く主張した。



「俺、それはいらないと思うんだ。子どもじゃないからちゃんと寝れるし!」

「瞬は諒みたいに良い子でちゃんと寝れないから飲ませるんだよ。決闘まで毎日飲むと言っただろう?」



霜月は黒い笑みを貼り付けて瞬に言いながら迫る。諒はそのやり取りをみて無邪気に聞いた。



「霜月さんは瞬に何飲ませようとしてるの?」



怒った瞬とニッコリした霜月は諒を見ると同時に言った。



「睡眠導入剤」



諒はそれを聞いて驚き瞬に抱きつきながら提案する。



「僕、一緒に寝るよ!」

「瞬、良かったね。これ飲んで諒に添い寝してもらって。」



霜月は強めに言ったが瞬はまだ抵抗している。仕掛けたのは霜月だった。霜月は素早く瞬の後ろに回って首を両腕で締め付ける。



「んぐっ。」



瞬はカクンと頭を下げて意識を失った。

目をまん丸にした諒が霜月に視線を投げかけると霜月は説明した。



「バックチョーク。

瞬の首を絞めおとしただけ。」



そう言うと懐から出した丸いものを瞬の口の中にぐいっと突っ込んだ。諒はじいっとその仕草を見ている。霜月は諒を見るとさらに説明した。



「さっきお茶の飲なかったから、その葉を乾燥させた薬丸だよ。」



諒は口を開かなかったが心配そうな目で霜月を見ているのでこう付け加えた。



「瞬は暗殺をずっとやってきただろう?

暗殺の任務は夜通し行ったり、夜に活動することが多いんだ。すぐに起きれるように寝ても気を張り続けないといけない。 だから瞬は気を抜いて寝たことがない。

可哀想に見えるかもしれないけどしっかり疲れを取るには、瞬にはちゃんと寝てほしいからね。」



諒はコクンと頷いたが、まだ動こうとしない。諒は霜月を覗き込む。



「霜月さん、あのさ⋯⋯瞬のじいちゃん⋯⋯いや、霜月さんは欺いたりしていないよね?瞬に本当と違うことは言ってないんだよね?」



諒は霜月の方を向くと霜月は諒の目の前に移動してきた。霜月は真面目な顔をして諒を見た。



「瞬と君に嘘は一つも話していない。」



諒はそう言った霜月の手が微かに震えているように見えた。



「分かった。」



そう言うと瞬の方へ向き直り、諒は瞬の隣に横になった。



次の日、瞬は目をパチっと開けた。



「はっ!朝だ。くそ、なにかやられた!」



瞬はガバっと起きた。諒が駆け寄ってくる。



「霜月さん、瞬が起きたよ。」



諒が霜月に伝えている。瞬は朝から不満そうな顔をした。諒はそれを見ると瞬に念を押した。



「瞬、ちゃんと寝ることに慣れなきゃだよ。」

「諒、お前はいつから霜月さんの味方になったんだ?俺の味方じゃなかったのか?」



瞬はじとっと諒を見ると不満を漏らした。それを聞いた諒はプイッとそっぽを向くとはっきり言った。



「これについては霜月さんの味方なの!」



瞬は遠くにいる霜月を見るとこちらに背を向けて肩を上下に震わせていた。

霜月さんまた笑ってるなと思った。



そうして1週間が過ぎた頃、里の者も随分瞬たちの接し方が変わっていた。武道場では任務のない者が毎日のように来ては瞬たちの手合いをした。だてまきは武道場の邪魔にならない端のほうで座っている。

手合せした者がアドバイスをくれるようになった。



「瞬、さっきのは良かったぞ。しかしその前の部分はこっちからこうの方がいい。」

「しっかし、霜月さんもやり手だよな。瞬と瑛真の手合せを積極的にやってくれるやつを優先に自分と手合せさせるなんて。」



力也はそう言葉をこぼした。里の者たちは突然現れた霜月に不審な目を向けていたのは始めだけで実力が分かると手の平を返したように手合せを希望した。今では里の者は霜月を見つけるとすぐに取り囲むようになった。そこに赤龍が姿を現した。霜月は赤龍の姿を見ると睨みつけた。赤龍は近づくと霜月が口を出す前にさっさと用件を伝えてくる。



「霜月、すまん。護堂に指名の任務が入ってしまった。決闘相手を変更したい。相手は高継たかつぐにしようと思うがどうかな?」

「高継⋯⋯それはどんな者ですか?」



霜月がそう問うと赤龍の後ろからひょっこり姿を現した。体格は瞬より少し小さい。見る限りこちらが不利とは思えない。霜月はちらりと力也を見る。力也は小さく頷いているので異論は無いようだ。

それを見ると霜月は承諾した。



「承知しました。」

「では当日待ってるぞ。」



赤龍が行ってしまうと霜月は力也に高継について聞いた。念の為、幻術を周りにかける。力也は空を見たり下を向いたりしてる。



「⋯⋯そんなに強いイメージは無いんだよな。何ていうか平均的だ。基礎がきっちりしている模範的な動きをするやつだな。」

「得意技とか戦いの傾向は分かるかな?」

「うーん、強いて言えば我流は少ないから突拍子もない動きも少ないだろうし、着実に上手くなるタイプだと思う。」

「そうか、とりあえず現状の訓練をするか。あ!

そうそう、瞬。今回はキック無しでよろしくね。」

「えっ?いや、俺キック得意なんだけど⋯⋯」



瞬は主張した。



「瞬は絞め技得意かな?」

「⋯⋯あんまりやったこと無いな。」



瞬を見ると目だけは食い下がっている。



「キックした時の脚を相手にもたれたらバランスを崩して倒れる。倒されたら地面に近い攻防戦になるから相手は必ず締め技使ってくるよ。そしたら一貫の終わりだよ。」



瞬のわずかな思いもノックアウトされた。



それから毎晩、瞬は霜月と睡眠導入剤を飲む飲まない攻防戦を行い、霜月に瞬は首を絞め落とされ続けた。


急所、急所、急所


瞬の眠りを邪魔してくる。


急所、急所、急所、呪のようだ


瞬の目の前には大きくなった霜月が近づいてきて瞬はわあー!と悲鳴を上げる。



「はっ朝だ!最悪な寝起きだ!」



瞬は、がばっと起きた。

決闘当日の朝だった。

諒はいつものように駆け寄ってくる。



「霜月さん、瞬が起きたよ!」



【おまけの後日談】

瑛真が固い決意を話した後日、パンパンに頬が腫れた瞬を見て瑛真は瞬に聞いた。



「特訓っていつもそんなにすごいのか?」

「まぁ、手加減ないよな。」

「たまにチョー怖い時あるよね。」



瞬の隣に諒がやってくる。瑛真も思い当たったような顔をした。瞬と諒は瑛真を見ている。瑛真は二人を見るとぶっきらぼうに言った。



「そういえばその前の日に俺が霜月さんの地雷を盛大に踏んじゃって、”使えねーやつは殺すぞ”みたいなこと言われた。」

「えっ?⋯⋯霜月さん、そんな事言ったの?」



諒がため息をつきながら聞いた。



「大体そんな感じのこと言われたよ。

俺もムカついたから言い返したけど、後で思い出したら怖くて震えたよ。」

「待て、霜月さんに言い返したのか?⋯⋯瑛真はすごいな。」

「うん、勢いって怖いよ。」

「あーでも霜月さんそういうところあるかも。怖いんだよね。前に黒獅子の里に行った時、僕と霜月さんがそれぞれ幻術にかかったの。それで幻と勘違いして僕に幻術をかけて殺そうとしてきたもん。」



そこで諒は両目の端を指で外に引っ張ると霜月の真似をした。



「しかも僕が幻と見分けるのに悪態ついてたから”諒は身体で覚えさせないとダメなのかな?”とか言ってきてすごく怖かったよ。その後ムカついたから霜月さんの服で鼻かんでやったもん。」



諒は口を尖らせて文句をもらした。

瑛真と瞬は大笑いしている。



「はははっそんなことがあったのか??それにしても瑛真もだけど諒のそう言うところすごいよな。しかも⋯⋯ははっ鼻かむとか俺は絶対無理だな。」



瞬は諒のことを感心している。



「瞬が瑛真と初めて会って戦ってた時に僕も幻術の幻と戦ってたんだよ。

そういう瞬の方が結構あるんじゃない?」



諒は聞くと瞬は空をちらりと見てこう答えた。



「諒と組手した時」

「あの時は瞬、ごめんね。」

「いや、それは良いんだ。

霜月さんに”諒の為に心が砕かせてね”とか言われてボッコボコにされたんだ。しかもやめてくれないし、心じゃなくて心臓を砕かれるかと思ったぜ。容赦なさすぎるだろって!」



瞬は二人に訴えた。



「あはは!瞬、霜月さんの真似上手い!

もう一回やって!」



瑛真が大笑いしながら瞬にねだる。

それを見た諒も笑い始める。

瞬は笑いながらまた霜月の真似をした。



その後、小一時間霜月の話で盛り上がった。

お読み頂きありがとうございます!

次回はようやく準備してきた瞬が決闘を行います。どんな熱い決闘になるんでしょうか?

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「これじゃあ護堂と同じ、いや護堂を超える筋肉だぞ!」

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