表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/137

第1話-1 通り名・暗殺の瞬は刀の少年・諒と出会う(前編)

 この物語は戦乱の世に忍の間で知らない者はいないといわれる暗殺の瞬が名を捨てるまでのお話である。


 それは表舞台で華々しい歴史が作られている同じ時、裏の世界では一人の少年が過酷な現実を突きつけられていた⋯⋯。


 この少年は一体どうやって生きていくのであろうか⋯⋯。


 時は戦乱の世、忍の里に生きる水無月瞬みなづきしゅんは両親をほとんど知らないで育った。


 暗殺の瞬と呼ばれるようになる人生最大の転機が訪れた。


 それは瞬がちょうど物心が付き始めた8歳になる頃、育ての親として世話になったじいちゃんの死に目にあったのだ。


 いつもより少し帰りが遅くなり薄暗い夜道を走って帰ると、なんだかいつもと違う感じがした。なぜかわからないが少しも寒くないのに全身にざわっと鳥肌が立つ。


 そして家の前まで帰ってくると正面から入らず、音を立てないように裏手に回り縁側からそっと中の様子を覗き込んだ。覗き込むことは容易かったのだ。


 それは障子がほとんど開け放たれていたからだ。部屋の中は闇に飲み込まれていた。それに物音一つしない。


 直感がいつもと違うと告げてくる。すると身体が強ばりはじめた。それでも自分自身を偽り、大丈夫だと言い聞かせるように胸の奥まで息を吸ってゆっくりと吐く。


 そっと中を覗き込むとそのまま瞬は勢いよく部屋の中に飛び入った。その時、縁側に足の甲を派手にぶつけたがそんなことは気にしていられなかった。


 急げ、急げ!!全身が瞬に伝えてくる。


 部屋の中へ勢いよく入ったものの、目の前に広がる光景に全身の血が逆流したように息が苦しく身体が石のように動かなくなった。


 嫌なのに目が離せない⋯⋯。じいちゃんは床の上にあぐらを少し崩しながら座り胸の真ん中あたりに刀が刺さっていた。


 じいちゃんの胸を貫き背中から飛び出た刃先は濡れているようだった。


 それを見た瞬の目は左右に細かく揺れる。

 目の前で起きていることは嘘だ。幻だ。全身がそう思うことに賛成している。目を閉じたら目の前から幻は消えるかもしれない。


 しかし目は自分から切り離された存在のように見開いている。


 自分の目はしっかりじいちゃんの様子を観察してどうなっているのか状況を掴もうとしている。


 こんな状況になっても“じいちゃん”と声をかければ“なんだ”と返ってくると自分自身は信じたがっていた。


「じいちゃん⋯⋯」


 すがるように瞬の口から言葉がこぼれ落ちる。じいちゃんのまなこは分厚い鉄の扉を下から開けるように開き、瞬を捉えた。


 するとじいちゃんは口をもごもごと動かす。


 瞬は全身の神経を目と耳に集めるように集中させる。それを見てじいちゃんはもう声が出ないのだと瞬は悟った。


 瞬はじいちゃんの唇の動きを一時も逃さないように見つめる。その唇の動きは多分こうだった。


 誰よりも強くなれ


 それがじいちゃんから受け取った最期の言葉だった。


 それから毎晩じいちゃんは瞬の夢に出てきた。いつも胸に刃を刺している。触れることも出来ない刃。手を伸ばしてもいつも届かない。


 なぜじいちゃんが死ななければならなかったんだろう。僕の手のひらには何も残っていない。なんの為に強くなるのか。


 瞬はじいちゃんの亡霊を頭から追い出すように生活の全てを任務にあてた。


 瞬は暗殺の才能をめきめきと伸ばした。

 瞬を見た者はいないと言われるくらいの速さで依頼の標的を殺していった。


 そのうち瞬は周りの人からこう呼ばれるようになった。


 ”暗殺の瞬“”


 通り名がついた頃からようやくじいちゃんの亡霊は瞬の夢から出ていったのだった。


 ここで瞬の生きる忍の世界の話をしておこう。


 この国にはいくつもの忍の里が存在するが代表する大きな里は赤龍の里、緑龍の里、黄龍の里、白龍の里そして影なしの里だ。忍の里では通常、表舞台からの依頼をこなす。


 依頼は諜報活動、護衛、身代わりなどだ。ある里を除いて。 その里こそ瞬のいる影なしの里である。


 影なしの里は一体何をするところなのか。


 忍の里はある共通のルールを基に活動している。共通の絶対ルールは任務を遂行することだ。


 任務中の死や大怪我を除いて逃げ出すなど抜け忍と呼ばれる未許可の脱里や任務が完了できなかった者、つまり任務不履行を行った者は消さなければならない。


 それを行うのが影なしの里はである。よって影なしの里に来る依頼はほとんど暗殺である。


 瞬は体躯の良い185cmを少し超える大きな体はまだ15歳だと言うのに大人かと多くの人を勘違いさせる大人びた容姿をしている。


 暗殺の時、瞬を見て生き残っている者がいないため、どんな見た目をしているのかさえ知らない。髪を結わえているが髪がとても硬いため結わえた髪が三座の山のように分かれている。


 瞬には影なしの里より依頼が来るので暗殺の依頼しか行ったことはなかった。


 しかしある時変な依頼が来た。


 影屋敷からだ。


 影屋敷と言うのはおとぎ話のような架空の組織で忍の間で恐れられている組織として知られている。


 つまり誰も知らないし見たこともない組織なのだ。その影屋敷からの依頼である。


 普段であれば依頼内容も聞かずに即刻断るだが、この時ばかりは昨日さくじつ久しぶりにじいちゃんの亡霊が瞬の夢に出てきたこともあり、頭からじいちゃんを追い出すためどんな依頼なのか知ることとなった。


 そして瞬は依頼の内容を知ると異邦人にでもあったかのような驚きと呆れと疑念が入り混じったような顔になった。


「護衛? 俺のことちゃんと知ってんのかよ。間違いなんじゃないか?」


 暗殺の瞬へ架空の組織・影屋敷から護衛の依頼が来ているのである。瞬はとんだ茶番だと呆れていると、ある影が視界の端を捉えた。


 ふと木の下を見ると、この世のものとは思えないふわふわして可愛い天使のようなものがトコトコ歩いていた。


 三角の耳が生えていて頭に黒い三本の縦線の柄がある。可愛らしい四本足をとことこと動かしている。


 ふわふわの毛並みは尻尾まで続いており気ままにゆらゆらと動いている。


 昼の明るい時間帯は人の見えるような地面にはあまり降りずに鬱蒼うっそうと茂っている木の上にいることが多いが、このときばかりは違った。もっとよく見たい。その衝動が身体を勝手に動かし、木から降りて近づいた。


 この時まで瞬は猫というものをみたことがなかった。心臓が何かに貫かれたのかというくらい自分の身体が操り人形のようになり制御出来なくなってしまった。


 あまりの衝撃から周りに気を配るのも忘れてしまったせいで、背後から来た何かがぶつかってきた。


 ドシン!


 大きい身体をもつ瞬に勢いよくぶつかり跳ね返ってどてっと足を空へ投げ出して地面を転がるのは、光に当たると銀色に輝く髪を一つに結わえた小さな男児だった。


 よく見ると長い袖を外に折り曲げ肩の部分で紐を結わえた和装をしていた。瞬にとってその男児はとても小さかったので心の中でちびすけと呼ぶことにした。このちびすけにどうするべきか困っていた。


 こんなとき任務の標的なら首を掻っ切るか胸を一突き、いや、後頭部を叩いて気絶させてから急所をと考えんがえたところで頭を横にぶんぶんと振ると我に返った。


 今は助けるという行為が必要だと考えた。助けるというのは一般行動手引きの256項目にあった手を差し出して握手をして引っ張って起こすというのが妥当だろうと判断した。


 ”相手がどんな者か分からない場合に身体の接触で一番相手と距離と取ることが出来てかつ双方で誤解の生まれにくい方法”だと書いてあった。


 じいちゃんからはそういう方法も世の中にはあるが手には流行り病の原因になったり、呪いをもらったりするから絶対に触るなと言われていた。


 しかしいつだったか村の子どもが置き忘れていった一般行動手引きを盗み読みした際じいちゃんに聞かされたこととは大きく異なっていたのだ。


 村の子どもが誰かの手を触るところを見たこともあったが流行り病になどなった者もいなかった。


 それについて直接じいちゃんに聞くことは出来なかったが、じいちゃんに言われているようなことにはならないと軽く考えていた。


 そしてちびすけの手をつかんで起こそうと思い、ちびすけの手をつかむと現実にはない、いくつもの幻が目の前に広がった。


 夢の中に引き込まれたようにそこには居ない感覚になった。


 幻は目の前にいたはずのちびすけがさらに幼子おさなごとなってその父親らしき人物と風呂に入ったり遊んだりご飯を食べたりしていた。


 それだけじゃない。そのあと誰かにちょっかいをかけられたり目の前で悪口を言われたり殴られたり誰かからいじめられにいるような光景が⋯⋯ちょうどちびすけの記憶のように⋯⋯。


 はっと現実に戻ってきた。


 目の前には先程より大きいちびすけがいる。


「さっきのちびすけは⋯⋯」

「ちびって言ったなぁ! 僕はりょうだ。そしてちびではない。成長が遅い方なだけだ!」


 諒が大声できっぱり言うと言い切るのが先か後かというタイミングで諒のお腹が返事をした、ぐうううう。


「あっちにある神社で握り飯やるよ。成長が遅いだけだもんな」

「⋯⋯そうだ」


 考えればこの時から諒と昔の自分を重ねはじめていたのだ。そう気がついたのはずっと後のことだった。

初めまして二角にすみゆうです。

読んでいただきありがとうございます。


もし「続きを読んでも良いよ」という方がいましたら、ブクマの追加と広告の下の【☆☆☆☆☆】に星★〜★★★★★をいれていただけると作者にすみは泣いて喜びます!

応援どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ