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第16話 赤龍の里長・赤龍と霜月の交渉

赤龍の家のある一室では里長の赤龍と力也がいた。赤龍は長身にライオンの毛並みのように生えた髪はそのまま髭と繋がっている。

着席を促され力也は座った。赤龍は力也の折れた腕を見ている。



「誰にやられた?」



力也はさっぱりした顔をして答える。



「黒兎の里の霜月と言う者です。」

「黒兎か⋯⋯。それで?」



赤龍は思い出すように遠い目をしたが、その後力也の目を捉えた。



「霜月には力也の帰還条件と希望条件があるようです。

私の帰還条件は未許可の脱里者四人の罰の免除、希望条件は瑛真の脱里許可です。」



赤龍は静かに座っている。思案しているようだ。

沈黙が流れる。

少しすると赤龍は口を開いた。



「霜月はどんな男だ?」

「私と同じくらいの身長で体格もよく武器無しで戦いました。」

「武器無しで?お前を素手で負かしたのか⋯⋯。」



赤龍は少し驚いて口を開ける。

力也は頷くと話を続けた。



「勘も鋭く頭も切れる者です。最後に腕を絞められたのですが肘関節の骨折は避けてくれました。

⋯⋯代わりに腕の骨をぼきりとやられましたが。

それから⋯⋯個人的に里へ勧誘しました。しかしきっぱり断られてしまいました。」



赤龍は意外だった。戦ったあとの配慮までして、力也が里へ勧誘するなんて⋯⋯こいつは腕っぷししか考えていなかったのに、力也をこんなに骨抜きにした霜月は一体どんな男なのだろう。赤龍は霜月に興味を持ち始める。

そして赤龍は手を上げて力也に指示した。



「分かった。霜月をここへ呼べ。」




しばらくすると霜月がやってきたようだ。



「入れ」



赤龍は入室を促す。

霜月は部屋に一歩だけ入ると立ったまま声をかけた。



「黒兎の里の霜月です。不躾で申し訳ありませんが、ここですぐに力也の帰還条件を同意してもらえますか?」



霜月はまっすぐ赤龍を見ると返事を待つ。



「同意する。」

「それではすぐに三人が里の外で待っているので里に入れてくれませんか?」

「力也!あいつらを里に入れさせろ!罪は免除だ!」



赤龍は怒鳴った。風を感じるほどの迫力だった。

霜月は感謝を告げると赤龍に近づいた。



「座れ」



赤龍は着席を促して霜月が座るのを待った。赤龍は霜月の後ろから部屋に入ってきただてまきを見ている。



「その猫は⋯⋯?」

「だてまきです。僕の付属品とでも思ってください。」

「にゃーん。」

「ふむ。」

「次に瑛真の件ですが⋯⋯」



赤龍は手を上げて話を静止させた。



「先に聞きたいことがある。なぜ力也の腕を肘関節から腕の骨折に変えた?

なぜ未許可の脱里者の罪の免除をわざわざ求めた?」



それを聞いた霜月は下を向いて何か考えている。すっと顔を上げると赤龍を見ながら説明を始めた。



「私は瑛真を仲間にしたいのです。瑛真を除く三人と共に里を離れ、つまり未許可の脱里を行った。瑛真に会った時に瑛真にとってあの三人はどういう存在なのか聞きました。」



霜月は手を広げて瑛真の赤龍の首飾りを見せた。



「これを私に預けるほどの覚悟と同じだと言ったんです。彼らが戻るほうが利があると踏みました。しかし、もしあの三人が戻ってもこの件で軋轢が生まれてしまえば彼らは今度こそ自分の意思で脱里するかもしれない。そこで私の意思を引き継いで目をかけてくれる存在が必要だった。


力也は頑丈で強かったです。でも肘関節を骨折させてしまえば力也は使い物にならなくなる。腕の骨折はきれいに折れば折るほどきれいに早く治る。もし少しでも恩を感じてくれれば力也があの三人に目をかけてくれるかもしれない。その可能性にかけたんです。それに加えて純粋に里まで逃げない且つ攻撃されない程度の怪我をしてもらう必要があった。それが理由です。」



言葉をここで切った。

一瞬迷ったような素振りをしたが霜月はまた口を開いた。



「補足ですが、今力也が三人を里の中に連れて来ているでしょう。それを目にした里の者は罰の免除を目の当たりにするはずです。軋轢も生まれにくいかと思います。」



霜月は口を閉じた。

そして赤龍は霜月をまっすぐ見る。

5秒ほど霜月の真っすぐな目を見続けた。そして身体を仰け反らせて腹の底から赤龍が笑い始めた。



「力也が骨抜きにされるわけだ!瑛真の件は条件付きで認めてやろう。瑛真は脱里したら霜月たちと一緒に行くのだろう?」

「ありがとうございます。私たちと一緒に行きます。それで条件の内容とは?」

「この里の腕に立つものと武器無しで戦ってほしい。」



霜月はやっぱりかと思った。武闘派な赤龍なら必ず手合せさせるだろうと思っていた。赤龍は下唇をちろりと舐めるとこうこぼす。



「それか霜月が赤龍の里に入るのでもいいぞ。」



こちらが本音じゃないといいなと願い、霜月は赤龍を見るとニッコリとしてきっぱりと返事した。



「手合せいたします。」

「⋯⋯ただし手合せは黒兎の瞬が行う。」


赤龍は口をへの字に曲げたがすぐに口角を上げて伝えた。

霜月は目を見開いた。



「⋯⋯瞬とはもうお会いになったんですね⋯⋯。」

「あぁ、瞬は瑛真と里の者たちと手合せしてるぞ。」



瞬たちを赤龍の里に向かわせたことを後悔した。何とかこちらも良い条件で話を固めたい。



「そうですか。しかし瞬では⋯」



赤龍は霜月の言葉を遮った。



「可愛い愛弟子の瞬では赤龍の里の者には勝てないと思うのか?里の皆にそう宣言するのを瑛真の脱里条件にしてもの良いんだぞ?」



霜月は食えないジジイめと心の中で悪態をつき平然を装い交渉を続ける。



「⋯⋯瞬に手合わせさせます。ただしこちらも条件をつけさせてもらいますよ。」

「条件はなんだ?」

「瞬に会ってからお伝えします。」



霜月は少しでも時間稼ぎするしかないと思った。出来る限りこちらが有利になるようにしたいと考えたが、まだ良い案は浮かんでこない。



「ところで瞬たちは?」

「武道場だ。」



赤龍を先頭に霜月たちは武道場にやって来た。赤龍を見つけた里の者たちは動きを止め直立している。その様子を見た瞬たちも視線の先を追って赤龍を見つけると背筋が伸びた。

その後霜月を見つけると嬉しそうにした。しかし瞬は霜月と目があったがものすごく不機嫌な顔をしているのが心配だった。

赤龍はよく通る声で皆に伝えた。



「黒兎の瞬と諒は皆すでに会っているが、こっちは黒兎の霜月だ。力也を素手で負かした手練れだ。力也の腕の骨折はやつの仕業だ。」



皆がざわついた。そのまま赤龍は続ける。



「俺は霜月のことが気に入った。その弟子である瞬と諒も里に引き入れたいと伝えたが断られてしまった。」



すうっと空気が変わった。

いきなり敵地に来たような雰囲気だった。赤龍に主導権を握られてしまったのだ。この空気感を肌で感じると霜月はやられたと思った。瞬は突然やってきた不穏な空気に霜月を見ると苦虫を噛み潰したような顔をしていた。霜月さんが出し抜かれるなんてと瞬は意外に思った。



「だが話し合った結果、条件によっては霜月は里に来ても良いと言ってくれた。

皆、条件を聞け。」



里の者たちは赤龍と霜月を交互に見ている。赤龍は瞬を指差した。



「霜月の愛弟子の瞬に勝てば霜月は里に来る。対戦希望者は?」



赤龍は見渡して里の皆に聞く。瞬は目を丸くした。ゴリゴリの武闘派である赤龍の忍びと俺がタイマン張るのか?と焦った瞬は霜月を見る。霜月の目は完全に怒っていた。瞬は赤龍が勝手に話を進めているのだろうと推測した。そこにすっと手が上がったのはなんと霜月だった。皆が視線を向ける。



「盛り上がっているところ申し訳ないが、こちらの条件も合わせて伝えたい。」



霜月は一瞬赤龍をぎっと睨むと平然を装って説明する。



「こちらが出す条件は三つ⋯と言っても些細なことです。

一つ目は力也の骨折が治るまで対戦の延期⋯⋯とは言いすぎなので6週間⋯⋯いえ、1ヶ月後とすること。

二つ目は先に対戦者が誰であるかこの場で知ること。

三つ目はその対戦までの間、対戦者の詳細を含むアドバイスを力也からもらうことです。」



それからもう一押し。



「赤龍殿も日頃、任務は準備と気合と話されているはずです。準備を重要視する赤龍殿ならこの条件は些細なことですよね?」



にこりとしながら霜月は赤龍に問う。このくだりは帰路で力也から聞いたものだった。赤龍はふんと鼻を鳴らした。



「もちろんだ。」



瞬は霜月がほっと息をつくのを見逃さなかった。

今度は赤龍が口を開く。



「実は瑛真が脱里を希望している。

霜月に付いていきたいようだが、俺は許可を出そうと思っている。」



そう言うと赤龍は瑛真へ近づく。



「瑛真、今もその気持ちは変わらないか?」

「はい、赤龍の首飾りに誓って。」



瑛真は胸に拳を当てながら赤龍に真っすぐな目で宣言する。

赤龍はじっと瑛真を見つめると頷き、霜月の方へ向き直った。



「せっかくだから勝敗は許可と関係ないが、同日に対戦させようと思う。どうだ?」



瞬は赤龍を見ると霜月を見て口角を上げた。カウンターパンチを繰り出したと言ったところかと瞬は思った。

これは辞退出来ない、霜月さんはどうするのだろうと瞬は見守った。

霜月は精一杯のパンチを繰り出した。



「それなら対戦相手は力也が当日指名と言うことでどうでしょうか?

盛り上がりますよ。」

「そうしよう。どの者が選ばれても良いように皆精進せい。」



赤龍はこれを最後に閉口してくるりと向き直ると行ってしまった。

瞬は霜月が心の中でなんと叫んだのだろうかと気になった。

お読み頂きありがとうございます!

次回は決闘の準備回ですね。この決闘の準備の話は力を入れて書きました。それにしても霜月はビンタって⋯どうなるのでしょうね?

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「それとね⋯⋯、瞬の身体にその攻撃を確実に覚え込ませたいから失敗したらその都度ビンタしてもいいかな?」

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