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第15話 瑛真の決意

霜月は木に立つと向こうからぴょんぴょんと木から木へ移って近づいてくる大柄な男が見える。服の上からでも筋肉が盛り上がっているのが分かる。その男は霜月に気がつくと木の上で立ち止まる。霜月はその男を見て問う。



「君は?」



赤龍の里は仲間思いが強い反面、はみ出し物には容赦ない鉄槌を下す。瑛真ほどの少年四人に対してこんな屈強な男を送り出すのは赤龍らしかった。



「悪いが時間がない。任務中なんでね。」



男はそう言って立ち去ろうとしてる。

霜月は飄々(ひょうひょう)としている。



「僕は君に用事があるんだ。赤龍の者だよね。未許可の脱里した者に鉄槌を下しに行くんでしょ?」

「お前、誰だ?痛い目に合うぞ。」



その男はピクリと反応すると霜月をギロッと睨んだ。



「僕は黒兎の里の霜月だよ。こっちも急いでるからちゃっちゃと終わらせようよ。」

「黒兎?聞いたことねえなあ。俺は赤龍の里の力也だ。」



挨拶はそれで終わり戦いが始まった。

相手が飛びかかってくる。

力也はブンと腕を振り上げ勢いよく落としてくる。霜月はその拳にそっと手を添えると拳の軌道を変えた。さすがは赤龍の豪腕だ。拳の重みが違う。相手が先に地面に到着する。そこに合わせ霜月が上からかかと落としを繰り出す。相手が腕でガードする。



「いってーお前の脚は金槌か?」



力也は顔を歪ませている。あれをガードされるなんて霜月は意外だった。霜月は間合いを取りながらハイキックを出す。これも力也にガードされる。

反対の脚でミドルキックをリキヤの脇腹にねじ込む。当たったがびくともしない。

力也は蹴りが脇腹に当たったが直後に霜月を両手で掌底打ちして吹っ飛ばす。



「いちいち攻撃が重てーなあ。」

「君もかなり頑丈だね。大木みたいでびくともしない。」



霜月が体勢を整えた。

しょうがないなと霜月は手裏剣を取り出す。それを見た力也がすかさず口を開く。



「あっお前、武器なんて卑怯だぞ。」

「卑怯も何も忍ってそういうものじゃない?」

「せっかく体術が強いんだから武器無しでやろうぜ。」



力也も根っからの武闘派のようだ。霜月は仕方なく言って手裏剣をしまった。



「はぁ、これだから脳筋は疲れる。君が望む通りにボコボコにしてあげるよ。」



霜月は間合いを取りながら力也の背後に周りを首を閉める⋯⋯首が太い。絞め落とせない。距離を取ろうとすると力也が霜月の腕を掴んだ。

そのままぐいっと引っ張ると霜月は力也の方へ引き寄せられて霜月のみぞおちにパンチが入る。



「ぐっ」



さすがに霜月も痛がる。その距離のまま身体をねじって肘を力也の顎に入れそのねじった勢いを使って後ろ蹴りをみぞおちに入れる。力也はすぐに立ち上がり距離を縮めるとまた腕を掴みにきた。霜月は横に交わすと反動をつけてアッパーをみぞおちに入れると直撃した。力也は痛みに少し屈んだ。そこに後ろ蹴りを喉元へときれいに当たった。



力也は苦しそうにげほげほっと咳をしながら立ち上がると構えた。霜月は間合いに入り蹴りを脇腹へ入れる。すると力也は少し後ろに下がり足を掴むそのまま霜月は倒された。霜月はこのままマウントを取られれば力也が圧倒的に有利だ。霜月は地面に倒れ込むとそのままをごろごろと横に動いた。力也は霜月を追いかけ腕を伸ばす。力也の腕を霜月は両手で掴むと足を巻き付け腕十字固めで締める。霜月は力いっぱい締める。



「負けを宣言しろ!腕が使い物にならなくなるぞ!」



力也の腕はミシミシと鳴っている。

力也の負けは明らかだった。しかし苦痛の顔のまま大声を上げる。



「赤龍の男は死んでも負けは宣言しない。」



このままだと本当に力也の肘の関節部が折れる。霜月は力也に幻術をかけて動かなくした。霜月は力也の腕の端を持った。




森の中にゴキンという音が響いた。




力也が目を覚ますと横に寝させられていた。縄で縛られてはいない。

ズキン!腕に激痛が走る。

誰かの足音が近づいてくる。霜月が水を持ってきた。それから木の枝や布もだ。何か準備を始める。それをぼんやり見ていると霜月から声をかけられた。



「気がついた?本当に君が頑丈で困っちゃった。肘関節折っちゃうと後で使い物にならなくなるから⋯⋯」



そこで木の枝と布を持って力也の隣に座る。霜月は激痛の走っているであろう力也の腕をそっと持ち上げると木で固定してその木と腕を布できゅっと縛り上げた。

力也は痛みに顔を歪めて身をよじる。脂汗をかいているが声は上げなかった。

そして霜月は力也を見てにこりと言った。



「腕折っちゃった。できる限りきれいに折ったから安静にしてればすぐにくっつくよ。

僕はね、君と交渉したいんだ。」

「はぁ⋯⋯、内容を聞く。」

「内容は赤龍の未許可脱里者四名の罰の免除。これは希望だけど瑛真の脱里許可。」



力也はそれを聞くとはぁと息を吐くとこう返した。



「あんなにきれいに負けたんだ。そちらの協力はする。赤龍の未許可脱里者四名の罰の免除は出来るだけ俺からも促そう。

それから瑛真の件は赤龍殿次第だから何とも言えねえ。だが俺が取り次ごう。」



それを聞いた霜月は満足そうな顔をした。



「力也は怪我してるからこのまま休んでて。これから彼らを連れてくる。」

「霜月、お前が赤龍の里まで俺が同行出来るように腕をきれいに折ったんだろう、この策士め。」



力也は霜月に悪態をついた。

霜月は力也から離れると瑛真に教えてもらった目的の建物に近づいた。幻術で自分を見えにくくすると木の上から静かに観察し始めた。三人の内の一人は頬に大きなホクロがあると瑛真から聞いている。建物を出入りするのは話に聞いた通りだった。



霜月はぎょっとした。諒より小さい子どもまでいる。その子どもの近くにいた男の子で頬に大きなホクロを持っている子を見つけた。見た目はまだ10歳前後だった。少し観察してるとよく話しているのは二人だった。あの三人なのだろう。



三人の近くに木の実を投げてみる。一人が木の実に気づき拾っている。すると木の実を二人に見せて何かを言っている。霜月はもう少し遠くへまた木の実を投げた。三人は降ってきた木の実を追いかけて森に入った。他の人から三人を遠ざけると周りに幻術をかけて邪魔されないようにした。するとさすがに三人は警戒し始めた。

そこへ霜月は三人の目の前に姿を現すと目をまん丸にさせて驚いている。

霜月はにこりとしながらこう告げた。



「僕は黒兎の里の霜月。赤龍の里の子たちだよね?瑛真が大変な目にあっているんだ。君たちも協力してくれるかい?」

「瑛真はどこなの?」



その内の一人が霜月に聞いた。

霜月は少し慌てたような声を出す。



「瑛真は力也と一緒に誰か敵と戦ってるんだ。急いでいかないと。」



三人とも心配そうな顔で見合っている。そして三人はそれぞれコクリと頷いた。

霜月は小走りで力也の元へ戻り始めた。三人も遅れないように一生懸命走ってついてきた。三人の内の一人が力也を見つけると指を差した。



「あっ力也さん!」

「瑛真はどこ?」



力也は何が起きているのか分からず四人を見ながら混乱している。

霜月は白々しく声をあげる。



「あっ、力也が怪我してる。誰にやられたんだろう?」



力也は口を開いた。

てめーがやったんだろうが!⋯⋯声が出ない。あれっ身体が動かない。

力也は霜月の幻術で動かなくなった。

三人は心配そうな顔をお互いに向ける。

そのうちの一人が大きな声を上げる。



「力也さんが怪我してるなんてすっごく強い敵だよ!」



霜月は意味ありげにしゃがむと何か拾うような素振りをして手に持っているものを見せた。



「皆これ⋯⋯?」



例の瑛真から預かった赤龍の首飾りだった。三人は青ざめる。



「とにかく力也も怪我してるしすぐに里に戻ろう。その後で僕が瑛真を探しに行くよ。皆戻れるかな?」



三人はお互い見合うとしっかりと頷いた。



「瑛真の為に急いで帰ろう!」



力也は呆れて見始めていたが霜月のやり取りを見続けていると、だんだん鮮やかな掌握術に感心し始めていた。

力也は幻術を解いても本当の事は言わなかった。腕を怪我しているのと熱が出ているので力也と三人と同じくらいのスピードだった。夜になると三人は寝息を立て始めた。その横で力也の目の前に霜月は何かを差し出した。



「解熱、鎮痛剤だけど飲む?」



力也は素直に受け取る。霜月はその様子を見ている。力也はそれに気がつくとこう返した。



「今お前が俺を殺しても何の利もない。素直にいただくぜ。」



力也は霜月からもらったものを飲んだ。

それを見た霜月は首を傾げた。



「仲間を想う気持ちを利用されて僕を怒らないの?」

「良い気持ちはしねえ。ただ霜月のやってることがあんまり悪いとも思わないんだ。そもそも未許可の脱里なんて殺されて当然だ。俺はむしろそれを助ける理由が聞きたいね。」



それを聞いた力也はそっぽ向いてこう言う放った。

霜月はじっと力也を見るとこう伝える。



「僕はね、瑛真を仲間にしたいんだ。

その瑛真はあの三人を命と同じくらい大事だと言って、この赤龍の大事な首飾りを預けてくれた。それに瑛真以外の三人は洗脳で黒獅子の里の長である黒獅子への忠誠心も高めていた。」

「ふん、あいつらの心を利用された可能性もあるってことか。」

「それに瑛真が言うには幻術がかかったみたいで一度ここへ入ったら出口がなくて帰れなかったみたい。君に話す内容じゃないけど、これは里長会議にかけたほうが良い。」



霜月は真面目な顔で言った。

力也はそれを聞き終わると霜月に熱のこもった勧誘をした。



「何度も言うが、俺が出来ることは協力する。

なぁ、霜月。赤龍の里に来ないか?⋯⋯お前が来れば赤龍の力が底上げできる。しかも頭も切れるから重宝されるぞ!赤龍の里でお前のやりたいことをやったらどうだ?」

「行かないよ。僕のやりたいことは黒兎の里でしか出来ないんだ。」



霜月は冷ややかな目で力也を見た。





次の日の明け方に出発の支度が整うと赤龍の里へ出発した。予定よりは遅くなったが昼過ぎに赤龍の里に到着した。

するとどこからかやってきただてまきは霜月の肩にぴょんと乗った。それを見た霜月は口を緩めた。



「だてまきの方が早く着いてたんだね。」

「にゃ。」



霜月は顔をだてまきにつけた。

里の中から二人が駆け寄ってくる。そして二人は力也の腕を見て目を丸くした。



「力也、お前どうしたんだ?」

「あれっお前たち未許可の脱里者じゃないか!」



一人が力也ではない赤龍の里の三人に気がついた。

そこで里の二人は霜月を見て警戒する。



「どうも黒兎の里の霜月です。赤龍殿に話を取り次いで。」

「霜月、俺が直接、赤龍殿に取り次ぐ。」



それを聞いた力也も口を開いた。里の二人は意外な顔をしたが頷いた。

そこへ霜月が力也を遮った。



「悪いけど力也、瑛真と黒兎の里と名乗る者を連れてきてくれないか?先に確認することがあるんだ。」

「⋯⋯分かった、待ってろ。」



しばらく待っていると、まわりを気にしながら力也に連れられて瑛真、瞬、諒がやってくるのが見えた。三人は霜月の姿を見るとホッとしている。霜月は周りに幻術をかけた。

力也は少し驚いて周りを見たが気にせず霜月にこう告げた。



「俺は赤龍殿に取り次いできて良いよな?」

「あっ、一つ先に聞いてもいいかな?」

「なんだ?」

「僕が赤龍殿との交渉次第で必要になったら、力也は協力してくれる?」



霜月は口角を上げているがピリピリと殺気が漏れている。力也は呆れ顔になった。



「そんなに殺気を飛ばさなくても俺はどうせ死に損ないだ。協力してやるよ。代わりに腕が治ったら手合せしてくれ。」

「分かった、助かる。それじゃあ赤龍殿への取り次ぎお願いね。」



霜月はニッコリと返す。そして力也が取り次ぎに里の奥へ進んで行った。

それを見た瑛真は恐る恐る霜月に聞いた。



「力也さんのあの腕、霜月さんがやったの?」

「うん、きれいに折ったからすぐに直すと思うよ。

さて、赤龍殿と話をする前に瑛真の気持ちをちゃんと聞いておきたくてね。今話せるかい?」



瑛真は瞬、諒、霜月を順に見ると頷いて話し始めた。



「俺が強くなってやりたいことがあるって言ったのは覚えているよな?

俺は知っての通り赤龍の里で生まれた。早くに母親が亡くなって近くの人が母親代わりに世話を焼いてくれた。俺の親父は根っからの武闘派で赤龍の里でも強い方だったんだ。

1年前あの出来事があるまでは⋯⋯。

親父はその日任務に出た。その任務はどっかのお侍さんの用心棒だと、そう聞かされていたのに、戦場に親父は駆り出されていたんだ。

そこである武将と接触したらしい。

親父は負けたよ。それで俺は思ったんだ。強くならなきゃってそれで黒獅子の里に辿り着いたんだ。」



瑛真は一旦口を閉じる。



「瑛真の目的は親父さんの仇討ち?」



沈黙が流れる。



瑛真の感情が読み取れない。

瑛真は目線を下げてそのまま目をつむり眉間に皺を寄せた。瞬は瑛真をじっと見ていると何かを考えているのか思い出しているのかと感じた。

すると瑛真は肩を上下させて呼吸をし始めた。



しばらくすると目を開け霜月を捉えると真っすぐ見据えて口を開いた。



「親父を殺したのは武将の影武者だったんだ。半年前その影武者は俺に会いに来た。そして⋯⋯」



瑛真は言葉に詰まり震える手を見た。



「血は乾いてはいたが血痕がべっとりついた親父の赤龍の首飾りを見せたんだ。」



瑛真は震える手を力強く握りしめた。

瑛真の目には怒りと悲しみが溢れている。



「なんて言ったと思う?

あいつは⋯⋯あいつは悔しかったらこれを取りに来いって言った。手の甲の傷を触りながらこれは親父のもんだって言うんだ。

その時俺は無我夢中で相手に攻撃しに行ったよ。⋯⋯でも大人と子どもが相撲を取るようなもんだった。なんにも手も足も出なかった。

⋯⋯俺はどんな条件でもいい。親父の仇をこの手で討ちたい!

霜月さん、死ぬ気でやるからさ、俺を強くしてほしいんだ。」



そう話していた瑛真は炎と風を纏っていた。霜月は少しも目をそらさず見ていた。



「ありがとう瑛真、よく話してくれたね。

本気で仲間になるなら僕も全力で協力する。もう一度、確認させて。

僕らの仲間になるかい?」

「よろしくお願いします!」



瑛真の目には固い決意を感じた。

それを見た霜月は真剣な顔をした。そして瑛真の首飾りを見せるとこう告げた。



「これ借りていっていいかい?」

「あっはい。」

「後は僕に任せて。」



霜月は力也の帰りを待った。

お読み頂きありがとうございます!

次回は白龍殿との交渉に引き続き、赤龍殿との交渉です。霜月は上手く出来るのでしょうか?

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「それか霜月が赤龍の里に入るのでもいいぞ。」

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