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第13話 赤龍の里の瑛真

瞬、霜月、諒、だてまきは影なしの里を出た。岩山に入って2時間ほど移動したところで休憩した。意外なことに霜月は怒っている様子はなかったので、瞬は変に思って聞いた。



「霜月さん、怒っていないのか?」

「何に怒るんだ?」

「その⋯⋯余計な任務を請け負ったって怒ると思ってた。諒の時に余計な条件を出されて怒ってたから。」

「陽炎殿にはお世話になっている。それに出来る範囲で良いと言われている。」



瞬はそれを聞いてホッと息をついた。



「良かった。任務の件だけど、霜月さん変だと思わないか?霜月さんほどの力があるのに黒獅子はまだ捕まってもないし、面も割れていない。」

「僕も調査してるが巧みにかわされている気がするんだ。相手は幻術使いなのかもしれない。」

「それならどのみち強いやつだよ。黒獅子の里に良い人材を引き抜いて他の里を潰そうとしているのかも。」

「それぞれの持っている里の情報、技術は財産だ。それの良いところを持っていかれて昔からある里は良しとしない。また滅獅子の大戦のような争いを起こす気なのか⋯⋯。」



瞬と諒は難しそうな顔をしている。

そこへ霜月はニコリとして声をかけた。



「それはそうと霜月と諒、君たちは影屋敷の一員だ。正式な登録は影屋敷に行ってから行うよ。これからは黒兎の里と名乗るように。」



二人はワクワクした顔でお互いを見合った。



「まず影屋敷で二人の登録を行う。

それから影屋敷の任務の前に黒獅子について調査しよう。」



諒はちらちらと瞬を見る。目が合いそうになるとスッと視線を外した。



「諒、俺に何か聞きたいことでもあるのか?」



諒はうーんと悩んで瞬を見た。



「瞬は誰に育てられたのかなって思って。陽炎殿が親しげに話してたし⋯⋯瞬のおじいちゃんの話もしてたから気になって⋯⋯。話せる範囲でいいんだけど、聞いてもいいかな?」



瞬は諒と目が合うと頷いた。

瞬はもう隠し事はしないと心の中で決めていたのだ。だてまきは霜月の肩に乗った。



「諒、俺の生い立ちを聞いてくれるか?

俺は5歳のころ両親が滅獅子の大戦で亡くなったんだ。俺の父さんは影なしの里の里長・陽炎でさ、大戦には率先して参加したんだってじいちゃんが言ってた。父さんは亡くなる前から里長としての任務で忙しかったみたいで家に全然いなかった。代わりに育ての親になってくれた人がいるんだけど、その人がじいちゃん。でもそれも3年くらいしか続かなかった。

その後春樹殿、今の陽炎殿が親代わりをしてくれたんだけど、じいちゃんの遺言でさ、人の手を触るなとか、部屋の中は暗くなっても明かりを灯さないとかいろんなとこを教えてくれた。今思えばじいちゃんは俺の力を知ってたのかもしれない。」



瞬は言葉を区切るとふーっと息を吐いて少し吸うと遠くを見て話し始めた。



「俺はじいちゃんが大好きだったんだ。でも8歳のある夜じいちゃんは殺された。」



瞬は口を閉じた。沈黙は少しの間だったが諒にとってはとても長く感じた。

瞬は話を続ける。



「影なしの里では一人前になるためにやることがある。それは身内を一人殺すか他人を三人殺す。他人は里の外の者でも表の者でも良い。」



諒は愕然とした。聞く覚悟は出来ていたと思ったのは浅はかだった。なんて厳しい環境なんだろう。



「一人前になれなかった者は里からいなくなるからどうなるのかは知らない。俺はじいちゃんの死ぬ直前に居合わせてじいちゃんの死を身内を一人殺すこととして認めてもらった。始めは春樹殿に任務について教えてもらった。それからすぐに単発で暗殺の任務をこなすようになって7年がだった。」



瞬は心が痛いのか悲しいのか落ち込んでいるような顔で話した。諒はその話を聞いて涙をポロポロこぼし始めた。それを見た瞬は諒の背中をポンポンと叩くと声をかけた。



「なんで諒が泣いているんだよ。」

「瞬が泣がないがら、ぼぐが瞬のがわりに泣いでるの!」



がらがらの声で諒は答える。

どんな理屈だと思ったが、瞬はその気持ちが嬉しくて言葉が出てこなかった。



「瞬、そのじいちゃんを殺したやつは⋯⋯」



霜月が口を開いた。



「⋯⋯まだ何も掴めていない。

ただ、じいちゃんを殺したやつが見つかったら必ず殺してやる!」



瞬は霜月を見ると怒りに満ちた目をしていた。

それを見た霜月は目を伏せて静かに呟いた。



「そうか⋯⋯。」



その話が終わると三人は移動した。

諒は聞いた。



「そういえばだてまきはどこに行っちゃったの?」

「たまにいなくなるんだ。そのうち帰ってくるから大丈夫だよ。」




森を駆けていると、三人は不思議な感覚に見舞われた。いつもと空気が違う?

瞬は立ち止まろうとしたがその感覚はすぐに無くなった。

しかし諒と霜月がいない。



「俺迷子になったのか?」



見渡しても二人の気配さえない。辺りを捜索してみることにした。誰かの気配がある。気配の方を見ると向こうもこちらに気がついたようだ。

⋯⋯敵なのか?瞬は様子を伺う。そうすると向こうから声を掛けられた。



「ねぇ、黒獅子の里の人?」



瞬はこんなに面と向かって黒獅子の名前を出されたことはない。しかし名前が出ている以上ここは黒獅子の里と関係のある場所らしい。黒獅子の里の者だった場合、里の者ではないと言うのも一悶着あると困るので話を合わせることにする。



「最近来たばっかりなんだ。君も黒獅子の人?」



足音が近づいてくる。黒獅子の者で間違いない。



「俺はちょっと前にきた赤龍の里の瑛真えいしんだ。お前は?」



瑛真はツンツンと立つ黒髪の身体の締まった細見の良い男の子だった。瞬より10センチほど背が低いが瑛真も筋力があり身体を鍛えているのが見てわかる。

二人の距離は間合いに入った。



「俺は黒兎の里の瞬だ。」

「この時間にこんなところに入るってことは集まりに行ってないな、怠け者め。

って俺もそうだけど。」



瑛真は無邪気に言う。

集まりとは何なのか瞬は分からなかった。



「⋯⋯ここに来たばかりで道に迷ったんだ。」



迷子なのは嘘ではない。

瑛真は瞬を上から下まで見ると口を開いた。



「集まりでは黒獅子が説法みたいなのを説くんだけど、皆うっとりした顔してるから気持ち悪いんだよね。今日は黒獅子もいないようだったから俺は抜けてきちゃったんだ。確かにすごい良い話っぽいんだけど俺は手っ取り早く強いやつと戦いたいみたいな感じなんだわ。」



話を聞くと集まりというのは洗脳をするためのものみたいだった。こいつは洗脳にかかっていないのか。



「今から行っても遅いからここで時間潰そうぜ、瞬。それにしても身体デカいなぁ。筋肉あるし良いねえ、俺と手合わせしようぜ。」



瑛真は諒とはまた違った人懐っこさがある。手合わせの方が本音のようだ。赤龍の里は武闘派の者が多い。護衛や身代わりなんかの依頼を多くこなす大里の一つ。瞬は頭の中で赤龍の里の情報を引き出す。

瞬は瑛真に提案した。



「怪我したらまずいから武器なしで相手が倒れるか負けを宣言するまで戦うのはどうだ?」

「話が早くていいねえ。やろうぜ。」



二人は少し距離を取ると手合いを始めた。ここ最近は霜月にみっちり組手をしてもらっているため少し動けるようになってきた。それでもまだ霜月に攻撃はほとんど当たらないのだが。

瑛真は真っすぐパンチを繰り出す。瞬は両手で顔をガードしてミドルキックを瑛真の脇腹に繰り出す。

瑛真はぴょんと横に飛ぶので瞬は一歩踏み込んでみぞおちに右手でパンチを食らわす。瑛真は右手でみぞおちをガードすると少し咳き込みながら左手で瞬の脇腹にフックを繰り出すとすぐに後ろに跳ねて間合いを取る。瑛真は出合せが楽しいのか嬉しそうに声を上げる。




「アッパーの威力強すぎだよ。ガードしてるのに痛い。しかも瞬、お前の腹固すぎ。」

「瑛真もフットワークが軽くて見た目よりすばしっこいなぁ。これならどうだ?」



瞬は間合いを少し詰めて得意なハイキックを出す。

瑛真はキックの間合いが遠すぎる。

俺には当たらないと思った時、頬に衝撃が来た。重たいハイキックだ。思わず瑛真は地面に片膝付く。瞬は瑛真が立つのを待っていた。瞬は久しぶりに何も考えずに手合い出来るのが楽しかった。



「うわっ瞬、足長すぎだろ!あの距離で蹴りが当たるものなのか。」

「はは、そうだろ?」



瑛真は蹴られた痛みよりも感心していた。

瞬は気を抜くと瑛真は一気に間合いを詰めて飛ぶと回し蹴りを繰り出した。

瞬に当たり後ろにふっ飛ばさせる。



「おぶっ!」

「へへ、さっきのお返し。思ったより速かっただろ?」

「本当だな。」



お互い探り合いながら攻撃と防御をした。二人とも今のところ互角のようだった。

お互い気を許し始めたところで瞬は聞いた。



「そういえば瑛真は暗器なのか?ここではそういう者が多いって聞いたんだけど。」

「赤龍にも暗器のやつ居るよ。俺は違うけど。もしかして瞬は暗器なのか?」



瞬は相手の記憶が見える暗器ではあるが、手合いでは役にたたないので違うと答える。



「焦った。こんなに体つきいいのに暗器だったら絶対皆知ってるよな。通り名とかついてたりしてな。」



瑛真は無邪気な目を向けてくる。



(まぁ、ある意味、暗殺の瞬の通り名はついているけど自分から言う必要はないな。)



霜月さんなんて背も高くてガタイがいいのに顔も整っていて幻術使いだから、瑛真が会ったらずるいと言いそうだなと思った。いや、顔の良し悪しは関係ないかと考えていると瑛真の膝蹴りをもろに食らってしまった。



「おいおい手合せ中に考え事なんて野暮だぞ。」

「悪い、こっから飛ばすぞ。」



そろそろ瞬は勝ちたくなってきた。回し蹴りを食らわすと瑛真がバランスを崩した。そこへ畳み掛ける。手合せ中に何度も瑛真にローキックを当ててきたおかげで瑛真の動きは遅くなってきた。足にダメージが溜まり始めてきたのだろう。その後もローキックは定期的に当て続ける。



瑛真のパンチはキレが良い。先ほど瑛真からパンチをもらってしまった。しかし瞬は攻める。瞬は間合いに入ってローキックもう一度間合いに入る。瑛真は焦れて攻撃したくなるはずだ。思惑通り瑛真も少し焦れてきた。ローキックと見せかけて顔にパンチを繰り出す。瑛真の顔に少し当たる。瞬は距離を取る。



瑛真は追ってくる。焦れて迫って来たところで間合いを詰める。案の定瑛真からパンチが飛んできた。今度は避けない。代わりにぐっと間合いを縮めおでこで受けて衝撃を緩和させる。そのまま瑛真の体勢が崩れたところで瞬も正面からパンチを繰り出すと直撃した。瑛真は悔しくてしょうがないだろうと瞬は思った。瑛真は熱くなりすぎていた。



いや、瞬は実際に熱さを感じていた。

瑛真はパンチを構えていた。拳から若干の炎のようなものが見える。

瞬は思わず両腕で顔をガードした。

瑛真の攻撃が当たる。

瞬は我慢できず声を上げる。



「あつっ!」



瑛真はそこで我に返った。

自分の手を見つめている。



「あっあれ?俺何したんだ?」

「いってー!」



そう言いながら瞬は周りを見た。そうすると自分の周りが少し焦げてるように見える。瞬はムッとした顔で瑛真に文句を言う。



「あっ服が少し焦げてる。というかお前暗器じゃねーか!」



瞬は声を上げた。

瑛真は手を見ていたが顔を上げて瞬を見るとポカンとしていた。



「あっ俺⋯⋯ごめん⋯⋯これ暗器の力なのか?」



瑛真はどうやらかなり困惑しているようだった。

お読み頂きありがとうございます!

次回はバラバラになった諒と霜月の方の話に続きます。二人に待ち受けているのは何でしょうか?

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「何かあればその陽炎殿と白龍殿の尊助の札を見せろ、そして黒兎の霜月が後ほどやってくると伝えろ。」

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