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第12話 影なしの里へ

霜月が白龍の家から出て来た。霜月は瞬を見つけると手を振ってこちらへ来るように促す。瞬が霜月の元へ来ると、ニッコリした。



「瞬、白龍殿が話したいことがあるみたいだから行っておいで。諒は僕と一緒にいよう。」

「にゃん。」

「ふふ、だてまき。」



瞬は急いで白龍の元へ向かった。

瞬は部屋に通されると、白龍と目があった。そして白龍は瞬を見ると右手を出してきた。瞬は白龍の目の前に膝をつき、そっと両手で触れる。

白龍はそれを見ると話し始めた。ゴツゴツした手はいろんなタコや瘤、傷跡があり苦労した年月を物語っている手をしていた。



「俺はなあ、霜月に玄磨の事を頼んだ時から玄磨の首だけ戻ってくる覚悟でいた。里を逃げた者を亡き者にすることも当たり前じゃからな。それにあいつもそう判断すると思っていた。

それが玄磨だけではなく仲間の三人も生きて戻ってきた。」



瞬はまだ手を見ている。白龍は気にせずに独り言のように話し続ける。



「お前さんが霜月を変えたんじゃないかと思ってる。

目的に向かって周りも見ずに突っ走りすぎるところもあるし、あいつはあんなやつじゃが悪いやつじゃない。霜月のことをよろしくな。」



瞬は顔をあげた。白龍は優しい目をしている。そして瞬は手を離した。

すると白龍は立ち上がると少し後ろへ下がり腰を折り頭を下げた。



「瞬、諒を助けてくれて仲間になってくれて心より感謝する。お前さんも諒と一緒ならいつでも助けるから、これからも諒と共にいてほしい。」

「わかりました!」



瞬は白龍からの言葉をしっかり受け取ると元気よく返事した。




霜月、瞬、諒は白龍と烏斗に挨拶をすると白龍の里をあとにした。山道に入ってしばらく進むと霜月が手を森の方へ出す。周りにもやがかかった。霜月の幻術だろう。

霜月は諒を見た。



「諒、脱里おめでとう。影屋敷も歓迎するよ。さてどこから話そうか⋯⋯この諒い靄みたいなのも気になってるよね?これは僕の暗器、幻術の力だよ。」



霜月は一歩下がって両手を広げると諒を見た。諒は以前、霜月が使っていたから予想はしていたが実際に聞くと驚いた。

諒はしげしげと景色を見ている。



「霜月さんは幻術使いなんだ。」

「そう、主にこうやって気配を消したり、身体がうまく動かなくさせたりするよ。」



それを聞くとすぐに諒は身体が動かなくなりぺたっと地面に座った。霜月が諒の脇の下に手を入れて起こした。すぐに身体が動かせるようになった。諒は自分の手を見て開いたり閉じたりしている。霜月は瞬の方を見た。



「瞬は手のこと諒に伝える?もう話してもいいよ。」



霜月から許可が出ると、諒は瞬の方に向き直りじっと目の奥を見てくる。霜月の手を握って記憶を見た時はものすごく怒られた。諒の記憶はかなり見てしまったから怒らないわけないよなと考えると話すのを躊躇してしまう。諒はじとっと瞬を見ると聞いた。



「また僕に隠し事?」

「違う!いや、違わないけど⋯⋯」



瞬は両手を上げて慌てて口走った。

それをじっと諒が見ている。瞬は困ったまま良い案も浮かばず正直に話し始めた。



「諒、本当にごめん⋯⋯俺は⋯⋯記憶が見える。」



諒はきょとんとした。



「えっそれはどういう事?」

「だから、諒の小さい頃の記憶とか見ちゃったんだ。俺の力は人の記憶が見えるらしい。」



瞬は怒られると思って目をつむった。



沈黙が流れる。



諒のやつ相当怒ってるよなと瞬は目をつむりながら思う。

諒はまだ沈黙している。

そろそろ諒から怒鳴られるか叩かれても良いのに何も起きない。変に思って瞬が薄目を開けた。

諒は両手で顔を覆っている。

やばい、諒を泣かせてしまったと瞬は直感した。



「諒、ごめんな!俺も手を握ると記憶が見えるなんて知らなかったから⋯⋯」



しばらくすると諒は少しだけ両手を下げて瞬をちらっと見た。そしてしゃがむと声を上げた。



「やだぁーもぉー!剛たちにいじめられてボコボコになってたのとか見たんでしょ?恥ずかしいじゃん!」



よく見ると諒は顔を真っ赤にしていた。

諒は瞬にこれから隠し事はしないと約束させると許してくれた。



「そう言えば、瞬みたいな力って一般的なの?手を握られたらその力持ってる人にみんなバレちゃうじゃん。」

「僕は瞬以外にこの力を持ってる人は知らないよ。」

「じゃあ瞬の力ってバレたら危ないんじゃない?」

「諒、正解だ。瞬は間違いなく狙われる。忍にとって情報は時に命を上回る。

そのために強くならなきゃいけないし、この力が周りに知られてはいけない。瞬、この力について分かったことは?」



瞬は首を後ろ手で少し掻くと歯切れの悪い言い方だった。



「見える記憶は人によってまちまちなんだ。もしかするとその人の能力とか心の開き具合とかで変わるのかもしれない。⋯⋯諒と烏斗さんの記憶はかなり見れた。玄磨はそこそこ見れた。

⋯⋯霜月さんは⋯⋯白龍殿と諒の脱里の条件付の部分だけ見れた。」



瞬は霜月の方を下から自信なさそうに見る。



「暗器の力を発揮すると瞬の力の抑止力になって記憶が読み取られないようだ。⋯⋯白龍殿のは?」



霜月に逃げ道を塞がれる。



「白龍殿は⋯⋯途切れ途切れだった。じいちゃんと仲が良かったみたいだ。名前で呼び合っていた。でも最近のはかなり抜けている。繋ぎ合わせても抜けているところがかなりあると思う。」



瞬はぽそりと言うと霜月が顔を近づけた。



「それは後で詳しく聞こうか」

「霜月さん、白龍殿は霜月さんを大事に思ってるよ。ずっと気にかけてる⋯ふごっ!」



霜月は話してる最中の瞬の口を手で無理矢理塞いだ。

霜月さんの目は怒ってる?⋯⋯いや、必死になってる目なのか。と瞬は思った。



「⋯⋯腐れ縁なだけだ⋯⋯」



聞くんじゃなかったと霜月は口を動かした。霜月はふいっとそっぽを向いたが耳が赤くなっているのに瞬は気がついた。それを見た瞬は自然と口角をあげた。



しばらくしてから、霜月は口元に手を当てて口を開いた。



「白龍の里の件も片付いたから、これから影なしの里へ向かうぞ。瞬も脱里しよう。

諒、影なしの里について知ってることは?」



諒は空をちらりと見て答えた。



「任務不履行の者や逃げ出すなど里から認められていない脱里をした者を始末する里。」

「影なしの里では始末する対象は忍だ。つまり暗殺や殺戮さつりくがほとんどの任務がそうだ。他の里とは全然違う。つまり里に近づいたら油断はするな。」



これまでの山道とは全然違っていた。ゴツゴツとした岩肌が多いし突然崖になっている場所もある。里に行くだけで良い訓練になりそうだ。瞬は少しずつ口数が減ってきた。里に近づいている。僕がそうだったように瞬も緊張しているのかな?と諒は思った。そうしているうちに影なしの里が近づいてきた。諒は警戒する。里の入口には誰かが立っている。

少年だった。瞬が声をかける。



さとる、黒兎の里の霜月さんと諒だ。春樹殿はいるか?」




悟は瞬、霜月、諒の順番に見た。霜月はじろじろと悟を見ていた。

奥でシュッと黒い人影が見えた。陽炎のところへ話をつけに行ってくれたのだろう。入口の男は霜月を見ている。

瞬は諒を見るとこう説明した。



「春樹殿って陽炎殿のことなんだけど、少し変わってて育ての親みたいな感じだから”陽炎なんて呼ぶな、春樹と呼べ”って言うもんだから、春樹殿って呼んでいるんだ。」

「ふーん、そうなんだ。」



しばらく待つと里の中へ促される。諒の里とは全然違う殺伐とした雰囲気だ。瞬もここでずっと暮らしていたんだと諒は思うとキョロキョロ里の中を観察した。里の中に人は居るが気配をなるべく消してこちらを伺っているようだった。



影なしの里長・陽炎の家は物々しかった。入口には門があり牢屋のような鉄格子の扉が閉まっている。鍵で開けると鉄格子の扉は音を立てて開いた。通された部屋は窓も仕掛けもない部屋だった。三人は部屋の中で陽炎を待った。霜月は入口の近くで待機する。瞬と諒は部屋の奥に入るように霜月に言われた。何が始まるのだろう。瞬は閉口したままだった。見慣れた里のはずなのに慌ただしかった数ヶ月の内に里は自分の一部ではなくなりはじめていた。

霜月は人影が視界に入ると口を緩めた。



「お久しぶりです⋯⋯、陽炎殿。霜月です。」



音もなく入口に現れた男にそう声をかけた。部屋に入った陽炎は瞬の事を見て霜月を見ながら笑顔を見せた。



「⋯⋯霜月か。久しぶりじゃねえか。たくましくなったな。

あれっ猫、名前なんだったっけ?用は部屋の中で話を聞こう。」

「この子はだてまきです。影屋敷に行ったときから一緒にいます。」

「そうだ!だてまきを用意してなかった。」

「にゃーん」

「だてまき、悪かったって。」



諒は入口で親しそうに話す陽炎を見た。背が高く全身に筋肉がついたその男は白龍より若い。

二人が部屋の中央にやってくると皆は座った。

瞬と諒を順に見ると陽炎は霜月を見た。だてまきは陽炎の横に座った。



「霜月、部屋を幻術で囲め。」



右手を入口の方に出して幻術を使った。盗聴、侵入防止なのだろう。幻術がかかるのを確認すると陽炎は霜月を見た。



「影屋敷が絡んでるのだな?」

「はい。端的に申し上げると、瞬の脱里を認めてほしいのです。瞬を影屋敷に引き入れたい。」



諒は同じ里長でも白龍とは全然違うと感じていた。白龍殿は威厳があってちょっと怖いけど陽炎殿は読めない。たぶん強いだろうし色んなところを見て気を張っているけど、そんな素振りも感じない。

⋯⋯あっ霜月さんと似ているのかと諒は感じていた。



「瞬、陽炎殿に用件を説明してくれ。」



瞬は霜月を見ると頷いた。



「春樹殿、俺は霜月さんに命を助けてもらった。その恩を返したいんだ。

だからこのまま影屋敷へついていきたい。脱里の許可をお願いします。」



陽炎は優しい目で霜月を見た後、瞬を見た。



「脱里の許可は出してもいい。」

「えっ?いい⋯⋯んですか?」



瞬は拍子抜けした。諒のこともあったので何か条件を出されるかと身構えていたのだ。



「本人が希望するなら離里の許可を出してほしいと先代陽炎の言伝を受け取っている。」



霜月は陽炎を見るとちらちらと視線を送っていた。



「何かあったんですか?」

「霜月は黒獅子の里について知ってるだろう?あれのおかげで任務が激増してるんだ。」

「つまり今抜けられると戦力が減ってしまうと言うことですか?」

「⋯⋯あぁしかも黒獅子に行く者に限ってそこそこ腕が立つ。うちも使えるやつが減っていて困ってるんだ。」



お互い手詰まりになった。解決の糸口をお互い探っていた。声をかけたのは瞬だった。



「あの、俺や諒は黒獅子の里に行きそうな若いやつじゃないですか。探ってくるのはどうか?」

「黒獅子についてはお願いになるが、やってくれるなら先代陽炎から預かっている物を渡そう。」

「君のじいちゃんの手紙だ。」

「やる。」



陽炎は懐から手紙を取り出して聞くと、瞬は間髪入れずに返事した。



「陽炎殿、まずは脱里を認めてください。影屋敷の登録を急ぎたいのです。

その後、特別任務の実行で良いですよね?」

「分かった。瞬の脱里を認めよう。

もう一つのは条件付き任務とする。任務を完了できなかった場合は褒賞はなしとする。」



瞬は別れの時を感じていた。瞬は陽炎と目が合う。いつも優しく時には厳しく稽古をつけてくれた。陽炎は瞬と目が合うと微笑んだ。二人は別れの時を肌で感じていた。

すると陽炎は瞬を引き寄せた。



「瞬、行くんだね。黒獅子の件もあるし、報告に来てくれ。何か困ったことがればいつでも来い。お前は秋実殿から預かった大切な宝だ。」



瞬は口をぎゅっと閉めて拳を強く握った。霜月はその様子を静かに見ていた。

陽炎は霜月を見るとこう言った。



「残務調整と情報共有がある。霜月は残れ。⋯⋯だてまきも残るか?」

「にゃーん」

お読み頂きありがとうございます!

次回は瞬、諒、霜月がバラバラになってしまいます。何が起きるんだろう?

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「瞬、そのじいちゃんを殺したやつは⋯⋯」

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