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エピローグ

 瞬は諒の目の前に満足そうに立っている。


「諒、おめでとう」

「瞬、ありがとう」


「瞬、終わったら横へズレてくれないか?」


 瞬が諒の正面に居座っていた。


「そりゃあ諒の最側近の俺が一番でいいだろ? まだ話は終わっていない」


 瞬は真面目な顔をして霜月を見た。

 霜月はため息をついた。


「これからもずっと諒の隣にいるからな」

「ふふ、心強いね。僕の隣は瞬に預ける!」


 ようやく瞬が正面から退けると霜月や瑛真、橙次が諒をお祝いした。




 瞬たちはようやく影屋敷へ帰ってきた。

 今日、表では白若に天下が渡る。



「表では白若がちゃんとやってくれるから僕はやることがないね」



 諒はふうと息をついた。



 瞬はそれを見て今までのことを思い出していた。




 五百蔵城は裏御殿をはじめ壊れた建物の修復に追われていた。


 そこへある一報が入った。



 五百蔵の御臨終だ。



 骸骨から腹に受けた傷がどうやら原因のようだ。剣についていた錆から傷が化膿して全身に回ってしまったらしい。一心も軽い傷だと思って動き回っていたので全身に菌が回るのが早かったようだ。


 熊坂によると、戦いが落ち着いた頃念の為一心が手紙をしたためたのだ。熊坂が代筆したものだ。


 それは天下を誰に渡すかの移譲書だった。


 そこへなんと諒を指名したのだ。


 熊坂によると仲間思いで堂々とした姿勢を評価していたが洒落頭の襲撃の際、真っ先に日松の身を案じ動いてくれたことが決め手となったようだ。



 そして日松の後継人となることも一緒に書かれていた。



 その号外は瞬く間に国中に知れ渡った。



 この餓者髑髏の出来事は将来、架空の昔話として餓者髑髏の襲撃という名前で語り継がれる。



 霜月は全身打撲と両腕の骨のヒビですんだ。まだ腕には包帯がグルグル巻きになっている。瞬は霜月を見たあとその横の人物へ視線を向けた。


 こちらも両腕をグルグル巻きにして、腹にも包帯をしていた。


「結局、橙次さんが一番怪我してたな」



 霜月は橙次を見てニコリとする。

「僕とおそろいだね」


 諒と瑛真は噴き出してむせている。


 瞬は霜月の前にやってくるとにかっと笑った。

「白狼の描いた未来に近づいてきたな」

「あー! 瞬の隣は僕だよ」



 諒が走ってくる。


 橙次は諒を見て感心する。

「諒は本当に瞬が好きだな」


「そんなこと言って、白狼が大好きな橙次さんに言われたくない」

 諒はあっかんべーをした。


 今度は瞬と瑛真が肩を震わせて笑う。


 それが落ち着くと瑛真は襟元を正した。

「俺も影屋敷の外から見守ってるよ」

「本当に今日行くのか? 準備は大丈夫か?」


 瞬は瑛真を見ると目が合った。


「あぁ、俺の準備はあんまりないんだが、赤龍の里のほうがうるさいんだよ。早く帰ってこいって」

 瞬は瑛真を見ると照れ隠しをしているように見えた。



 最後の戦いで先代赤龍から託されて瑛真は赤龍の里長になることになった。



 今日は赤龍の里へ移動する。



「俺たち、また赤龍の里へ会いに行っていいか?」

「もちろん! 毎日でも来てくれ」

 それを聞くと皆は笑った。


 瑛真は霜月の方を見るとこう言った。

「白狼のためにいつでもお茶と香の物を用意しておくよ」

 霜月は嬉しそうな顔をした。


 瞬は立ち上がった。


「赤龍の里へは時間もかかるしそろそろ出発するか?」

「影屋敷の左殿へ行って⋯⋯登録解除をしなくちゃいけないね⋯⋯」


 霜月の言う登録解除とは瑛真が黒兎所属として影屋敷に登録したことを指している。


 皆で左殿へ行くと受付の者は瑛真と霜月と橙次を見た。


「瑛真殿は影屋敷の登録解除ですね。所属長である霜月殿も同席お願いいたします」



 霜月は懐から紙を取り出して受付の男へ提出する。

「追加で影屋敷の順位の更新をお願いします。橙次、豪と私が話し合って決めました。全員の血判も押しています。もし不服がある場合はその者と対戦を受けます」



 一行は影屋敷に帰ってくると洒落頭と一心がいなくなり八傑の順位が大きく変わった。


 繰り上がりだと長月、霜月、橙次の順なのだが霜月は不服を申し立てた。そこで三人は顔を突き合わせて話し合った。


「僕は橙次に殺されるところだった。ボコボコになぶり殺されるところだったんだよ。こんなやつのほうが順位が下なんて無理」


「それはお前がそうしてくれって言うから⋯⋯」

 橙次は困った顔をしている。


 長月は大声で笑った。

「わっはっはっ、俺も異論はない。橙次は1位に据えよう」


「それから次は豪だよ。雷で殺されかねない」

 霜月はじろりと長月を見た。

 長月は口を尖らせた。


 そこへ橙次が口を開く。

「客観的に見てもそれがいいと思う。豪は2位だ。なにするかわからないって言う点では白狼が一番危険だけどな」


「なんでよ?」

「俺に2回もかけようとしただろ。地獄牢」

「うぐ⋯⋯1回目なんてかなり前じゃん」


「それじゃあその順番で血判を書こう」

 長月は笑って紙を取り出した。




 受付の男はそれを受け取ると橙次を見た。


「瑛真殿と霜月殿、橙次殿は別々にご案内いたします。長月殿は⋯⋯?」

「後で受付に寄越します」



 瑛真と霜月は別室へ通されていった。



 諒が受付の近くへ行くと受付の者が声をかける。


「天下統一おめでとうございます」

 諒はお辞儀をした。


 慌ただしい足音が近づいてくる。


 瞬と諒と橙次は呆れたような顔をする。


 長月が左殿の入り口を勢いよく開けて二人を見ると大声で聞いた。

「瑛真はまだいるか?」



 諒は呆れたまま長月を見る。

「いる。というか一番瑛真離れ出来てないのって豪殿だよね」


「うぐっ」

 長月はギクッとした顔をする。


 瞬が受付の横の廊下へ視線を向ける。


 瑛真と霜月が歩いてくる。

「豪殿の声、別室まで聞こえてきましたよ。豪殿に挨拶もしないで行くわけないじゃないですか」



 長月は嬉しそうな顔を瑛真へ向ける。

「なぁ、皆で赤龍の里へ行くんだろ! 俺も交ぜろ!」


 霜月は悪態をつく。

「嫌だって言っても勝手についてくるくせに」

 

 橙次も突き放す。

「早く豪を受付に突き出して行こうぜ」


「ふふっ豪殿、白狼さんと橙次殿といつから仲良しになったんですか?」


 長月は口を尖らす。

「ふん、それは瑛真の気のせいだ」


 そこへ瞬は長月の肩に手をぽんと置いた。

「豪殿、俺たちここで待ってるからな」


 皆は長月の方を見ると笑った。

 皆で左殿を出ると大通りを走ってくる。


 ぴょんと瞬の腕の中へ飛んできた。

「だてまき!」



 そのまま真っすぐ影屋敷の空間の出入口に来た。


 瑛真は振り返った。少し景色を見ると深くお辞儀をした。



 皆は出入口から出た。



 諒は提案する。

「ねぇ、赤龍の里へは日帰りなの? 泊まって他の里も寄ろうよ」


 瞬は笑った。

「いきなり行ったら他の里長に怒られるぞ」


 霜月も笑う。

「じゃあこれから鳩とカラスを飛ばそう」


 瑛真は振り返って口を開く。

「俺の就任の挨拶で他の里も回るから一緒にくるか?」


 諒はぴょんぴょんと飛んで喜んだ。

「行く!」


 長月はつぶやく。

「俺も行こうかな」


 霜月と橙次は同時に言う。

「何の挨拶だよ!」


 それを聞いた瞬、諒、瑛真は口を開けて笑う。


 そこへ瞬はこう告げる。

「じゃあ皆で行こうぜ!」


 皆は頷いた。


 諒は瑛真に聞く。

「そういえば茜に買った簪持ってきた?」


「あぁ。瞬も伊万里ちゃんへの簪こっそり持ってきたんだよな?」

「見てたのか⋯⋯持ってきたぞ」


「ふふっ、伊万里ちゃんにも会いに行こうね」



 瞬は空を見上げる。高い空は澄んだ青色をしている。雲が風が吹いて動いていく。

 あれから誰も洒落頭しゃれこうべであり、餓者髑髏がしゃどくろとなった神無月終の話をしない。



 覚えているのは俺だけだろうか。

 終は一と会えただろうか。



 そんな思いを馳せる。



 皆の呼ぶ声がする。

 瞬は皆の方へ向いた。



 諒はニッコリ笑っている。

「瞬、一緒に行こう」



 瑛真は左手を震わせながら上げる。

「瞬、落ち着いたらまた手合せしような」

 皆は目を丸くした。

「瑛真! 左腕が動いてる!!」



 長月は大きな口を開ける。

「瞬、行こうぜ」



 橙次は口角を上げた。

「瞬、行くぞ」



 白狼は温かで優しい顔で瞬を見つめるとニッコリした。

「瞬、これからも僕たちは一緒だよ」



「にゃーん」

 だてまきは瞬の懐に飛び込んだ。



 瞬は、にかっと笑う。



「おう!」



(おしまい)

私が物語を書こうと思ったきっかけになった大事な大事なお話がようやく終わることが出来ました。

皆さまにはここまでお付き合いいただきありがとうございました。


個人的にお礼を言わせてください。

初めにこのお話に評価をくださった方、長い間私の心の支えとなりました。

その後に評価をしていただきました皆さまは私の背中を何度も押してくださいました。


この感謝の気持ちと熱い気持ちを持ちながら、もっと楽しんでいただけるお話を目指してこれからもいろんなお話を書いていきたいので、良かったらこの先に書くお話も読んでいただけると幸いです。


このお話はこんなに長いエピソードになるとは思っていませんでしたが、ここに無事終わることが出来て良かったです。


拙い文章もたくさんあったと思いますが、ここまで読んでいただいた皆さまに心から感謝申し上げます!


瞬たちと共にいろんなことに心を傾け、泣いて笑って必死に戦ってきました。そしてようやくお話を終わることが出来て感無量です!


このお話を読んでくださいましたすべての皆さまありがとうございました!

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