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最終回 暗殺の瞬は名を捨てた

 橙次は餓者髑髏がしゃどくろの手に押しつぶされそう荷なって悲痛な声を上げていたその時、瞬は空を見上げていた。



 炎の龍がこちらに泳ぐように近づいてくる。



 ボゴォォン! 餓者髑髏へ直撃する。



 餓者髑髏は後へ倒れた。瞬は走って橙次を助けに行く。橙次は力なく地面に倒れ込んでいたが瞬が肩を貸してなんとか立ち上がる。

 餓者髑髏は近くの木をなぎ倒していく。



「橙次さん、しっかり! これじゃあ隠れられない。建物に隠れよう」

「悪いな、でも俺一人ならどこかに隠れられる。瞬、無理はするな」



 橙次は痛みも相まって息が上がっている。

 裏御殿の壁沿いに着いた。



 ガシャーン!! 餓者髑髏は裏御殿の屋根を軽々と壊していく。



「瞬、俺はここでいい。やっと巡ってきたチャンスだ。逃すな!」

「でも⋯⋯」



 餓者髑髏が瞬たちに迫ってくる。



 その時、地面を轟かせる音と衝撃で瞬と橙次は吹っ飛んだ。


 瞬は慌てて周りを見渡すと餓者髑髏が倒れていた。反射的に立ち上がった。


「橙次さん、俺行きます!」

「頼んだぞ」


 瞬は餓者髑髏の方へ走っていく。



 瞬はいろんな人の記憶を手に込めていた。滅獅子の大戦、阿道派と五百蔵派の大戦おおいくさによって大切な人を無くした悲しく苦しい記憶を孕んでいる。



 洒落頭によって起こった悲劇によってたくさんの人が涙をのんだ。もうその人はいない、でも未来は続いている。そんな悲劇をもう起こしたくない。



 今日、俺は終わらせるんだ!



 餓者髑髏の足元まで来た。瞬は力を込めて剣で切りつける。餓者髑髏はくぐもった声を上げながら肘をついて立ち上がろうとしている。



 瞬は走って餓者髑髏の胸の方を目指す。



 足から股関節まで来る間にたくさん切りつけてきた。その度にたくさんの人がいろんな思いをしてきた、体験してきたことを手から水が溢れていくように忘れていく。



 だが何度だってやってやる。餓者髑髏を倒すまで、俺の命が尽きるまで戦うんだ!



 その時餓者髑髏の手に瞬の背中をつままれて宙に投げ出された。

「くそう、あともう少しなのに⋯⋯」


 瞬は近くの木を探した。



「やばい、さっき餓者髑髏に木はなぎ倒されたんだ。地面に叩きつけられるぞ!」



 瞬は着地の姿勢をとった。



風綿かぜわた



 瞬は弾力のある空気の上を少し跳ねると着地した。


 瞬は後ろを振り向いた。



「瑛真、長月殿! ⋯⋯諒も!」

「間に合ってよかった」



 瞬は瑛真の方を向く。



「瑛真! 今の風で俺を餓者髑髏の胸まで飛ばしてくれないか?」

「⋯⋯さすがにあの高さは無理だな」



 瑛真は立ち上った餓者髑髏を見てこめかみから汗をかいた。


 長月は諒の方を見た。


「諒、俺と餓者髑髏の膝を折らねえか? 瑛真はおそらくあと一回しか火龍は出せねぇだろう?」

「⋯⋯そうだな⋯⋯悪いがあと一度だけだ」


 白は長月の方を見て刃を浮かせている。


「僕が刃を飛ばしてそこに雷を飛ばしたら威力が上がるかな?」

「とにかくやってみようぜ!」



 長月は口角を上げると手に雷の玉を作り始めた。

 諒は懐から大きな布を取り出した。切り刻むと構えた。


「郡矢・超」


 おびただしい数の刃が集まって餓者髑髏を目指す。


 長月は手に作った雷の玉を前へ突き出す。


「雷槌・超」


 圧縮した雷の玉は威力を上げる。前へ突き出すと反応するように雷は白の郡矢に向かって柱のように伸びていく。そのまま進んでいくと餓者髑髏の脚に直撃した。


 餓者髑髏はバランスを崩して膝を着いた。


 瞬は急いで餓者髑髏の登り始める。肋骨に手をかけた。瞬は剣を肋骨めがけて振り落とす。




 あと残っているのは白狼と橙次の記憶だけだ。




 その時グラッと餓者髑髏は揺れる。瞬は必死にしがみつく。

「ぐっ⋯⋯絶対に離しはしない⋯⋯」



「振り落とされるな!」



 橙次が震える手を前に突き出した。

 肩が上下に動いている。



「瞬、絶対に落ちるなよ! 餓者髑髏を足止めする!」

「ぐっ⋯⋯絶対に落ちないぞ!」


 橙次は大きな口を開けて叫ぶ。

「地獄沼!!」



 ゴポゴポと音を立てて餓者髑髏の立っている周りの地面一帯が黒い沼と化していく。

 その時沼は上の方へ上がってくるが膝の上の方までしか伸びない。



 瞬は大声を上げる。



「次できめるぞ! 諒、瑛真、長月殿、やってくれ! 俺は無効化で防ぐから俺ごと攻撃してくれ!」

「分かった!」


 三人は口を揃えて返事をした。


 瑛真は右手を空に上げて長月と諒を見た。


「俺と諒は同じタイミングで攻撃を出そう。ちょっと遅れて豪殿の雷を出してもらう。いくぞ、諒!」

「瑛真、やろう!」



 諒は布を切り刻み始めた。


 空へ上げた瑛真の右手が大きく震え始める。


 瑛真の手から炎が吹き上がり始める。



「刃龍!」

「火龍!」

 二人は同時に叫んだ。



 刃の束は龍のように動き始めた。

 刃龍の横を泳ぐように火龍が進む。



 長月が手を上げる。手からバチバチと雷の割れるような音がし始める。


「雷龍!」


 長月の手から雷龍が飛び出した。刃龍に向かってスピードをぐんぐんあげる。



 あっという間に刃龍を飲み込んだ。雷龍に巻き付くように火龍が身体を捻り始める。



 瑛真の右手はガタガタと震えている。

 瑛真は苦しそうに顔を歪めて堪える。

「くっ⋯⋯俺の力⋯⋯保ってくれ!」





 瞬はその間に餓者髑髏に落とされまいとしがみつきながら肩まで登った。



 大切な人のかけがえのない記憶を剣に込め始める。



 瞬は剣を振り上げた。




 そこへ引き寄せられるように龍たちが泳いできた。



 はじめは瞬の横へふわふわとやってくると瞬の剣に力を込める。


 一は優しくつぶやく。



しゅう、一緒に行こう」



 瞬は叫ぶ。

魂送こんそう!!」



 瞬の剣は龍と一の力を宿しまばゆい光を放つ。餓者髑髏の顔の方から剣を振り下ろしながら、瞬は餓者髑髏の肩から飛び降りた。



 剣は顔、首、胸を次々に切っていった。



 そうすると強い風が餓者髑髏の周りを吹き荒れる。


 その風に乗って瞬は地面へと降りた。



 また竜巻のように風が吹き上げる。それを打ち消すように光が辺り一面をまぶしく照らす。



 そこにいた誰もが目を開けられなくなった。







 光が消えると餓者髑髏もいなくなった。




 地面には一人の少年が立っていた。




 160センチほどの身長で短い黒髪。華奢な身体に大きめの羽織を着ている。



 瞬は終を見て、口を開いた。



「俺は暗殺の瞬だ。ある少年から暗殺の依頼を受けている。


 その少年の名は神無月終。


 少しでも痛みが少ないように確実な二撃で殺ろうと思う」



 瞬は真剣な顔を終に向ける。



「昼間の明るい時間に目の前から殺るのなんて暗殺じゃないだろって言うのは無しだぜ。

 最後の依頼だからな」



 それを聞いた少年は満足そうな顔を瞬に向けた。



「ありがとう、暗殺の瞬」



 そして少年はまた口を動かした。

 瞬の目には“ようやく逝ける”と動かしたように見えた。




 君のような人にもっと前に会えていたら、ずっと違う人生があったかもしれない。



 しかしそれが叶わない今、僕に気にかけてくれた優しい君の手で逝きたい。



 一、君に会いにいくよ。




 瞬は剣を持って少年に向かって走り始めた。



 少年と瞬の目が合う。



 瞬は少年が満足そうな顔をしているのを目に焼き付けた。



 少年が最期に見たのは目の前にいる優しい男の子が涙を流して剣を構えている姿だった。



 少年の喉元から血しぶきが飛ぶ。







 後ろにゆっくり倒れていく。






 少年は空を見たままそっと地面に倒れ込むと、瞬は短剣を胸に突き立てた。





 それが終わると瞬はその場に立ち尽くし、長い長い合掌をしたのだった。




 その日、暗殺の瞬は名を捨てた。

お読みいただきありがとうございました。

このお話は私が物語を書くきっかけになったお話でもあります。

拙い文章もたくさんあったと思いますが、ここまで読んでいただいた皆さまに心から感謝申し上げます!

瞬たちと共にいろんなことに心を傾け、泣いて笑って必死に戦ってきました。そしてようやくお話を終わることが出来て感無量です!


最後にエピローグで終了になります!

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