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第64話 最後の決戦(前編)

 霜月と橙次、諒たち、瑛真と長月たちがそれぞれ四方へ散っていった。


 洒落頭しゃれこうべは瞬を見てニッコリする。


「裏御殿の後ろの広間までおいで。そこにいる誰かを倒したら僕が直接戦ってあげる。瞬は相手が父親だったらいや? それともじいちゃん?」


 瞬は努めて顔に出さないようにした。

 洒落頭はほくそ笑んだ。


「ははっ、瞬は分かりやすいな。でも僕はいいこと思いついちゃったよ」


 そう言うと本丸の屋根に軽々と登り始めた。瞬は口を尖らせたが洒落頭の言う通りにするしかなかった。


「裏御殿の後ろか」


 瞬は走り出した。目の前に来た骸骨に手をついて足払いすると倒れた骸骨から剣を奪った。


 本丸から裏御殿の後へは左側の道を行くほうが近い。力まかせに剣を振り回し骸骨をなぎ倒していく。裏御殿の裏へ着くと人影があった。


 瞬はその誰かはじいちゃんだと思っていた。しかし違っていた。その誰かを見ると明らかに不機嫌になった。


「くそ⋯⋯生きている人間も幻術で出してくるんだな⋯⋯」


 瞬ははっきりと感じていた。その一番戦いたくない相手は白狼だということを⋯⋯


 そして白狼は近づいてくる。瞬は構えた。


 前回戦ったときのことを思い出していた。無効化を上手く使って戦うしかないな。前より上手く使えるはずだ。


 白狼に近づき力まかせにハイキックを繰り出す。瞬は白狼の首に自分の脚が当たる感覚がすると少し弾力があった。その勢いのまま蹴ると人と同じように重たい。


 白狼は地面に倒れ込む。


「あっ⋯⋯」


 瞬は脚に伝わる感覚が全身へと伝わってくる⋯⋯身体がその感覚を拒絶する。

 すると瞬は全身が震え始めていた⋯⋯


(白狼とは手合わせだって何度もやったのに身体が動かない⋯⋯さっき白狼を蹴った感覚がしっかりとあった。怖い⋯⋯大切な人を攻撃したくない⋯⋯でもこのままだとまた一方的に攻撃されてしまう)


 瞬は無効化の力を手に込める。その手を白狼に向けた。幻術ならば姿が少しでも解かれるはずだ。


 しかし白狼には何も起こらなかった。


 すると白狼のパンチが迫るので瞬は両腕で顔をガードした。腕にパンチが当たる。幻のはずの白狼のパンチは瞬の腕にめり込んだ。


「結構痛いじゃん」


 洒落頭は本丸の上に座って上機嫌で霜月と橙次の戦いを見ていた。橙次は顔を歪めて苦しそうに霜月と対峙している。霜月は橙次に怒鳴っている。その後、霜月の腹にパンチが入る。痛みに耐えかねて霜月はくぐもった声を出していた。


 二人の様子を遠くから眺めていた洒落頭の口が緩む。


「そうか、一発で殺る以外にもじわじわ痛めつけるのもいいなぁ。はぁ、橙次ばっかり羨ましいなぁ。僕も参加したい。

 瞬はまだ始まったばかりだもんなぁ。一方的にボコボコにされるとしてももうちょっとかかるなぁ」


 洒落頭は独り言を始めた。


 洒落頭はしばらく霜月と橙次の戦いを見て楽しんだ後、振り返ると瑛真と長月はせっかく用意した大きな骸骨兵を倒していた。


 それを見て口を尖らせた。


「なんだよ、僕がせっかく用意したんだからもっと楽しんでもらわないとね」


 洒落頭は力ない手を瑛真と長月の方へ出した。すると先ほどより大きい骸骨兵が3体も現れた。


「ちゃんと苦しんで魂を燃やしてね。僕は魂を燃やしているところが一番好きなんだ。

 そう、今みたいなのが一番好き。あぁ、ずっと続けばいいのになぁ」


 洒落頭はうっとりしながら瑛真と長月を見ていた。



 ■



 瞬は手に無効化の力を込めた。


「直接触ってみるか」


 瞬は白狼を見て構えると右フックを繰り出し直前に拳から指を伸ばすと頬を叩いた。


 白狼の顔はただ歪んだだけだった。白狼の顔がスローモーションのように歪む姿を瞬はありありと見てしまい震えあがる。


「ひい! ごめん、白狼⋯⋯」


 手に白狼の頬に触れた感覚が残る。それは少し弾力があって叩くと顔の皮膚が少し歪んだ感覚だった。瞬は幻のはずの白狼に触れた手を隠すように反対側の手で覆うと手を震わせた。


 瞬は考える時間が必要だったので。間合いを取った。


「もう打つ手がない⋯⋯?」


 手に無効化の力をためてみた。


「どこにどうやったらいいんだ?」


 瞬は手の平を見つめていると何かに押し倒された。


「にゃーん」


 だてまきは瞬を押し倒した。


「どわっ、だてまき?」


 だてまきは顔を近づけてくる。口からよだれが垂れているのが見えた。


「だてまき! それはだめだ!!」


 だてまきは瞬の目によだれを垂らしてきた。瞬は両手でガードした。


「頼む⋯⋯顔から降りてくれ⋯⋯」


 だてまきは素直に降りた。

 瞬は慌てて上体を起こすと辺りを見た。


「あれっ? 白狼がいない⋯⋯」


 近くにいたのは白い人形だった。

 瞬はピンときた。


「そうか、術をかけられていたのは俺の目の方だったのか! それなら話が早い!」


 瞬は人形に目がけて走っていく。


 ワンツー。瞬はストレートパンチを人形に浴びせる。後ろに吹っ飛ぶ。そのまま追いかけた。人形は立ち上がろうとしている。瞬はしゃがんで地面に手をつけると人形に足払いをした。


 そして走って落とした剣を取りに行った。

 人形が立ち上がって近づいてくる。瞬は両手で剣を持つと人形に近づき腹めがけて刀を前へ突き出した。


 刀に鈍い感覚が伝わり、人形に剣が刺さり背中から刃が突き出た。

 洒落頭は瞬の方を見ると、瞬はちょうど白い人形に剣を突き立てていたところだった。


 それを不満そうな顔をしながら瞬に近づいてきた。


「あれ、幻術がかかってるのが目だって気づいちゃったんだ! つまんないの。

 まぁ、約束だし僕と遊ぼう」


 次の瞬間、洒落頭は瞬の脇腹に飛び蹴りを繰り出した。


 瞬は横へ吹っ飛んでいった。

 洒落頭は瞬の横へ来るとささやいた。


「やっぱり生きてる人間は良いね。あたたかい」


 瞬は急いで両腕で顔をガードする。

 パンチが正面から来た。ガードしたが後10メートルほどの足が地面を滑った。


 瞬は体制を整えるとすぐに間合いを詰めハイキックを出した。

 洒落頭はひょいっと後ろに避ける。


 瞬は距離を取る。


 その時頭に直接聞こえるような声が聞こえる。



 “無効化の力を使いながら戦って”



 瞬は周りをキョロキョロと見た。洒落頭は反応していない。


「気のせいか⋯⋯?」


 瞬は無効化の力を使う。洒落頭がパンチを繰り出すのをなんとか首を右へ倒して避けると右手でカウンターパンチを放った。


 パァン! 洒落頭は後ろに弾かれたような衝撃を感じた。

 洒落頭は目を丸くしている。


「今のはなんだ?」


 瞬はそのまま前へ詰めると足に無効化の力を溜めてミドルキックを脇腹へねじり込む。


 洒落頭はその衝撃に上下に身体を揺らした。

 洒落頭は下を向いた。


 肩を上下に震わす。


「瞬、良い」


 洒落頭は顔を上げると頬を上気させた。


「楽しくなってきたね」


 洒落頭は蹴りを瞬のみぞおちに当てるとそのまま力まかせに脚を前へ出して蹴り飛ばす。


 瞬は蹴られる瞬間にみぞおちに力を使った。

 今度は5メートルくらい後ろに下がっただけだった。


 瞬は洒落頭へ走る。その勢いを使って回し蹴りする。洒落頭はガードしたが後ろに下がった。

 瞬は間合いを詰めてアッパーを繰り出す。洒落頭のあごの先をかすめていく。


 ゾクゾクッ、洒落頭は内側から震え上がる感覚がした。そしてうっとりした顔をした。


「瞬、やっぱり君は僕の一番のお気に入りだ」


 瞬は洒落頭に怖い顔をした。


「俺はお前を必ず倒す。お前が白狼にしたことは絶対に許さない」


 瞬はフックを繰り出す。ガードさせる。

 洒落頭はすぐにミドルキックを出した。瞬の脇腹に当たる。


「大丈夫。君たちはバラバラにしないから。死んでもなお一緒だよ」


 瞬は深く踏み込みアッパーを洒落頭のみぞおちに繰り出す。洒落頭はガードしたが、ガードの上から衝撃があった。


「ぐっ⋯⋯もうこれ以上大切な人を奪わせない!」


 洒落頭は瞬から距離をとった。

 冷ややかな目を向けてくる。


「なんでそんな目をするの?」



 そこへ瞬の耳に霜月の大声が聞こえる。

「何でお前のほうが痛い顔してんだよ!」

 瞬は声のする方へ顔を向けた。



「瞬、どこ見てるの? 戦っているのは僕だよ!」


 それを見た洒落頭は怒りに手を震わせる。

「⋯⋯瞬、こっちを見ろ!!」



 その言葉に瞬は顔を元に戻すと、洒落頭の両手は霜月の腹を貫通させた時のように大きくなっていく。そしてだんだんと肉がなくなり骸骨の巨大な手へと変貌する。


「どうして皆誰かの元へ行ってしまうの? 白狼もそうだ。秋実ばっかりに懐いて、僕と同じ独りだったのに⋯⋯君もそうだ、秋実が死んで春樹が君に手をかけて白狼も戻ってきた。

 どうして誰も僕のそばからいなくなってしまうの?」


 洒落頭の目は漆黒の闇のようだ。


 次の瞬間、洒落頭は瞬に飛びかかった。瞬は腰に着けていた短剣を取り出し無効化の力を込める。


 洒落頭の右手は瞬を狙ってきた。

 左手を短剣のみねに添えて洒落頭の右手を防ぐ。

 先ほどより圧倒的に強い力で瞬は吹っ飛んだ。そのまま地面を滑り木に背中を強く打ちつけてようやく止まった。


「ごほっ」

「ふふっ瞬、君は僕が目一杯手をかけて姿が分からなくなるほどグチャグチャにしてあげる。僕の気持ちのすべてが君に伝わるようにね。でも死んだ後は違う身体を使ってあげるから安心して」


 洒落頭が目の前まで迫っている。


 瞬は短剣を目の前に出してガードするしかなかった。


 その時誰かが瞬と洒落頭の間に入る。



 橙次だ。

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