第63話 瑛真と長月の協力戦
瑛真は長月を見た。
「豪殿、骸骨を蹴散らしましょう!」
「あぁ、派手にやろうぜ!」
すぐさま骸骨たちが増えていく。瑛真は骸骨たちをじっと見ている。瑛真は右手を出来る限り後ろに引く。
「炎風棒」
右肩を左前にねじ込むように身体を捻ると遅れて右から左へと円を描くように右手を前へ出す。炎と風は螺旋を描きながら棒状の形となり骸骨たちを勢いよくなぎ倒していく。長月は声を上げ感心している。
「とっさに新たな攻撃を思いつくのは天才だな。⋯⋯それじゃあ俺も」
長月は懐から紐を取り出し右手で持つと雷をまとわせる。
「雷縄」
バチバチッ、紐に雷をまとわせる。
ムチのようにしならせて右へ左へと動かすと骸骨たちは雷に当たってビリビリと痺れ崩れ落ちていく。
「豪殿は派手な攻撃ですね」
「瑛真もだろ」
長月は瑛真を見てニヤリとする。
本丸と表御殿の間にある左側の広間にはたくさんの骸骨がいた。すると長月の視線が止まる。
「おい瑛真、あれを見ろ」
長月は何かから視線を外さずに言った。瑛真は長月を見ると長月の視線の先を追った。
目に入ったのは他の骸骨兵より3倍ほど大きい巨大骸骨兵だった。
「巨大骸骨兵⋯⋯」
長月は周囲を見渡した。混乱した兵士が必死に骸骨たちと戦っている。先ほどの一心の指示を思い出した。周りの兵士全員に伝えるように空気を肺いっぱいに吸うとよく通る声をその場に響かせた。
「皆の者、葛城だ! 俺より前へ出るな。そこの巨大骸骨兵は俺が討伐する。戦える者は引き続き俺の後で戦え! 無理はするな、逃げてでも生きのびろ!」
その場にいた兵士の誰もが長月に目を向けた。よく通る声の余波の方にしんと沈黙が漂う。
不安や戸惑い、混乱の顔をしていた兵士の目に希望が満ちる。
「おぉー!!」
地面が揺らぐような歓声が聞こえる。
瑛真は呆れた顔をしていたが、お構いなしに長月は満足そうな顔を瑛真に向けると声をかけた。
「相棒、協力戦線と行こうか」
「豪殿、本当にあなたって人は人望がありますね」
二人は目の前にいる巨大骸骨兵を見た。長月は試しに雷を骸骨に落とす。バラバラと骨が地面に落ちる。そうするとその骨たちはすぐに人の形へ戻っていく。長月は瑛真を見た。
「こりゃあまたどうする?」
「完全に倒さないと何度でも立ち上がるんじゃないですか?」
瑛真は骸骨を見て考えている。左にいる長月が声をかけてきた。左の方を見ると巨大骸骨兵がもう三体は近づいてきた。
「瑛真、あれ⋯⋯」
「豪殿、二体はそれぞれ炎風牢と雷牢に閉じ込めましょう。残りの二体は同時に行う」
長月は瑛真の方を見て頷くと声を上げた。
「雷牢」
「炎風牢」
遠くから近づいてきた一体の周りに円になるように雷が降り注いだ。その隣にいた一体には炎風の柱が空から降り注ぐ。それを見た瑛真は大声を上げる。
「豪殿、一体には雷を落として下さい。その後剣に雷をまとわせて戦っていて下さい」
「承知!」
長月は空に左手を上げると目の前にいる右側の一体に向けて巨大な雷を落とす。
ドゴン!地面割るような音が鳴り響く。
瑛真はその骸骨に向けて右手を突き出す。
「火炎獄」
骸骨のいる地面から炎が空へ伸びていく。瑛真は力を込める。炎は地面からどんどん高く伸びていく。炎は赤色からところどころ黄色に変わっていく。
「燃えろ」
瑛真はさらに力を込める。大きな炎はところどころ白色が交じる。
「すべてを燃やせ!」
瑛真の右手は震えている。
炎の中心は白色になり少し青色が混ざる。
炎はなくなった。目の前には骨が半分ほど崩れていた。瑛真は肩を上下させる。そして長月を見る。長月は雷をまとわせた剣で交戦中だった。
瑛真は鞘から剣を取り出した。剣に力を込める。だんだんまばゆい赤色になる。また黄色、白色、青色へと変わっていく。瑛真は踏み込んで長月が戦っている骸骨へと向かっていった。長月は骸骨の持つ剣を自分の剣で防ぐ。雷をまとっているためカタカタと音を立てる。
「炎舞」
瑛真は長月に当たらないように相手の背後に回るように回転しながら演舞のようにゆらゆらと剣を骸骨になぞっていく。
骸骨はバラバラとしたへ崩れる。瑛真はそれを見ると空へまた手を上げる。
「業火」
空に炎が集まっていく。瑛真の手はガタガタと震える。大きな玉の中心は白色に青色が差し込んでいる。外側は明るい黄色でその端を揺らぐ炎は赤色をしている。
その玉はバラバラになった骸骨が形に戻る前に上から直撃する。
ゴォォォ、燃える音がする
瑛真は手を震わせながら遠くの二体に向かう
「あっ」
瑛真は身体が上手く動かずつまづいた。
長月が瑛真の肩をがしっとつかんだ。
「瑛真、よくやった。力を込めて物理的に攻撃すれば俺も倒せるかもしれん。残りは任せろ」
長月は今燃えたばかりの骸骨兵の剣を手に取った。遠くの骸骨兵の炎風牢が消えかかっている。長月はそこからやり投げのように思い切り剣をその骸骨を目掛けて投げる。その剣が骸骨に当たる頃を見計らって手に力を込めた。
「雷槌」
手から横へ雷の柱のようなものが伸びる。
短剣を目掛けてどんどん伸びる。短剣を飲み込んで雷槌は骸骨に当たる。
そのまま骸骨は後へふっ飛ばされる。近くにいた骸骨も巻き込まれていく。巨大骸骨兵の後方にあった木に骸骨は勢いよく当たる。
当たった瞬間、木が勢いよく燃え始めた。
骸骨はボロボロと崩れ動かなくなった。それを見た瑛真は失笑する。
「豪殿、力を強すぎて雷が物理攻撃になっててちょっとひいてます」
「何言ってるんだ、お前の業火だってやばいじゃねえか。どんどん行くぞ!」
長月は鎖を持って残りの一体に向かって走っていく。雷牢はすうっとなくなる。
長月は骸骨に近づくと鎖をグルグルと真横になるように円を描くと骸骨の腹部へ投げつける。そのまま骸骨の足元へやってくると剣を地面にぶっ刺した。左手は地面へ向けて、右手は剣を持つ。
「雷歯」
大きな雷の柱は地面からと空からと上下で骸骨を挟むように動く。雷の柱が当たったところはガタガタと震えて骨にヒビが入り始めメキメキと甲高い骨の折れる音がする。ガシャーン、砕かれた骨がバラバラと地面に落ちる。長月はそれ以上動かないか確認が終わると周りを見渡した。
■
洒落頭は本丸の屋根の一番高いところから背を向けて見ている。
「裏御殿の後ろの方か」
洒落頭が突然後ろを向いた。瑛真と長月は固まる。こちらを見ている。洒落頭は少し不満そうな顔をしてこちらの方へ手を力なく前へ出した。
長月と瑛真は裏御殿の方へ近づいていく。
すると足を止めた。
さっきよりも巨大な骸骨が三体近づいてくる。
「普通の骸骨の4倍くらいあるぞ」
瑛真は本丸の屋根を見た。洒落頭は満足そうにニッコリした。そしてまた背を向けた。
「洒落頭がさっきの骸骨を倒されて、また新たな骸骨を出したようです」
長月は悔しそうな顔をする。
「あんな強いのをホイホイ出してくるなんて本当にバケモノだな」
「三体もいたら一体に集中出来ない。また、足止めしますか」
長月は瑛真を見るとスッと左側に来る。瑛真は自分のほとんど動かない左腕のために左側に来てくれていることを分かっていた。瑛真は口を少し緩めたあと右手を右側の骸骨へ向けた。
瑛真と長月は声を揃えた。
「炎風牢」
「雷牢」
お互い骸骨の足止めを出来たのを確認すると、瑛真が長月へ告げた。
「真ん中のやつをちゃっちゃと倒しちゃいましょう。豪殿、力を交ぜましょう」
「そうだな」
二人は右手を真ん中の骸骨へ向けると瑛真は叫んだ。
「豪殿、雷を出して下さい! 俺が合わせます!」
長月は真っすぐ雷を出す。
「雷槌」
そこへ瑛真は炎と風を長月の雷槌へ巻きつける。ドゴォオン!骸骨は倒れた。
「くそっさっきのやつよりかなり固いぞ!」
「もう一番やりましょう。力で叩き潰しましょう!」
もう一度構える。長月は雷を出す。
そこへ瑛真が炎と風を回転させながら巻きつける。その時瑛真は右側の視界に何か捉えた。慌てて右手を右側へ向けた。
「風壁」
威力は少し抑えられたがあまりにも強い力に左の方へ10メートル以上飛んでいく。
「瑛真ぁ!!」
慌てて長月は瑛真を一瞥したあと周りを確かめる。右側にいた骸骨が炎風牢を壊していた。長月へ向かってくる。
「先ほどの骸骨よりずっと強い。攻撃を受けたら致命傷だ」
長月は両手をそれぞれの骸骨へ向けた。
「雷波」
あまり効いていないようだ。
「くそ、時間稼ぎにもならないか。左側の骸骨ももうでてくる。瑛真の助けに回れない」
瑛真はふっ飛ばされて左側の骸骨の近くまでやってきた。
「そろそろ豪殿のが解ける。⋯⋯2個作れるか?」
瑛真は右手を空へ上げた。骸骨の雷牢が解けるまでの間力をためる。骸骨が雷牢から出てきた。
「業火」
目の前と真ん中の骸骨へ巨大な炎が降り注ぐ。瑛真は肩を上下させた。右手が震えている。
右手を前に出すとまた力を溜める。
「あと何回攻撃が出せるだろうか⋯⋯」
骸骨が目の前の炎の中から姿を現した。
「嘘だろ!? まだ力が溜まっていない」
骸骨が剣を左から横に降ってくる。
「まずい、左側はガードが出来ない!」
ドゴン、瑛真の左側に誰かの気配がする。
土埃が空気に乗って薄れていくと瑛真は目を丸くした。
「赤龍殿!」
赤龍は瑛真に背を向けて手を前へ突き出す。
「火炎獄」
瑛真の時より凄まじい炎が地面から空高く伸びていく。左側の骸骨は動けなくなった。
赤龍は顔だけ瑛真に向けた。
「遠くから戦いぶり見ていた。瑛真、強くなったな」
「どうしてここへ⋯⋯?」
瑛真は呆然と立ち尽くした。
「任務で近くまで来ていてよかった」
赤龍は言葉を短く答えると、長月の方を向いた。赤龍からよく響く声が出る。
「長月殿! この馬鹿でかい骸骨共を一箇所に集めることは出来ないだろうか? 俺に策がある」
長月は目を丸くして赤龍を見た。
「⋯⋯瑛真! 鎖は持ってないか?」
瑛真は懐を服の上から触る。
「一本あります!」
瑛真は長月の方へ向かう。長月は赤龍を見た。
「赤龍殿、骸骨を集められる方法が一つだけあるかもしれません。赤龍殿の目の前にいる骸骨に出来るだけ剣を差し込んで下さい」
「分かった!」
赤龍は周りにいた骸骨を炎の海に沈めると持っていた剣を集めて火炎獄に縛られている骸骨に向かって剣を投げ始めた。
「雷牢」
長月は真ん中の骸骨の動きを封じる。
瑛真は長月に鎖を渡す。長月の脇に右手を出すと右側の骸骨に向かって叫ぶ。
「炎風砲」
長月に向かって剣を振りかざしていた骸骨は顔を左右に降っている。瑛真は悔しそうな顔をする。
「⋯⋯目くらましにしかなりません」
「いや、助かった」
長月は瑛真から鎖を受け取ると右側の骸骨に向かって鎖をしならせる。
「雷縄」
先ほどより力を込める。骸骨の腕に当たるとバチン!と跳ねる。骸骨は躊躇している。
長月は右手を大きく引くと円を描くように前へ出した。骸骨の腹に絡まり骸骨はビリビリと衝撃を受けている。その間に真ん中の骸骨の目の前にやってくる。
ジャララ、長月は自分の持っていた鎖を右手で取り出した。
左手を空へ上げる。
「雷柱」
ドオォン、真ん中の骸骨は身動きが取れなくなった。
長月は骸骨に近づくと鎖を骸骨の足に巻きつけると大きな口を開けた。
「雷引力」
長月は骸骨に巻きつけた鎖を持つとそのまま力を込め始める。
ズズ⋯⋯ズ
長月はさらに力を込め続ける。
ズズズ⋯⋯
左右の骸骨は真ん中の骸骨に引っぱられるように引き寄せられていく。
「ふんぬ」
長月はありったけの力を込めた。
ズズズズ⋯⋯ガシャ!!
左右の骸骨は真ん中の骸骨にくっついているように集まった。
赤龍は目を丸くしながら駆けてくる。
「これは⋯⋯どういう事だ?」
「あれは雷の特性を使ったものです。ある条件で雷を使うと鉄製の物同士がくっつくことを利用した技です。豪殿との特訓で発見しました」
長月は赤龍に怒鳴る。
「赤龍殿、これでよいか?」
赤龍も大声を出す。
「長月殿感謝する」
赤龍は瑛真の方を向いた。
「俺は弟の蘇芳に里を継いでほしかったんだ。あいつの方が人望もあったから里長を決める時、蘇芳と揉めたんだ⋯⋯。勝手で悪いが瑛真にその願いを託したい。瑛真が次の赤龍になってくれ」
瑛真の目が左右に泳ぐ。
「赤龍殿⋯⋯何を言ってるんですか?」
赤龍は首から赤龍の里の首飾りを出した。右手で掴んで拳を瑛真に向かって突き出す。
瑛真は直感で拳を合わせないと後悔すると感じた。瑛真も首飾りを右手に持って拳をつける。
「赤龍殿、俺に里を頼むなんて一体何をする気ですか? それに俺は左手を自由に効きません。赤龍殿のような立派な里長にはなれませんよ!」
「じゃあこれからなってくれ、お前の実力も人望も十分だ。最後に里長⋯⋯いや俺個人として蘇芳との約束を果たさせてくれ。瑛真は俺が守る」
赤龍は自分の首飾りを瑛真にかけた。瑛真は言葉が見つからない。引き止めるにも身体も動かない。
長月が叫ぶ。
「赤龍殿、急いでくれ!」
「今行く!」
赤龍は長月の方へ駆けていく。
瑛真はその背中に言葉を投げかけた。声がうわずったが気にせず大声を出した。
「この赤龍の首飾りに誓って赤龍殿との約束を果たします!」
瑛真の頬を涙が流れる。
赤龍は右手を空へ上げた。
「長月殿、後ろへさがって瑛真を守っていて下さい」
赤龍は両手を勢いよくつけると叫ぶ。
「炎」
赤龍の身体は炎に包まれていく。その炎は骸骨たちを包み始めた。
赤龍は目を閉じて蘇芳との約束をしたあの日を思い出していた。
「蘇芳、そっちへ行ったら瑛真の話たくさんしてやるからな」
どんどん炎は大きくなって骸骨たちを飲み込んでいく。骸骨たちの姿は炎に包まれた。
炎の色が変わっていく。
赤色
黄色
白色
青色
大きな炎はしばらく燃え続けていた。
それは死者を弔う火のように音もなく燃えた。
瑛真はしばらくその炎を見つめていた。