第62話 日松(ひのまつ)を連れ出せ
諒は一心に大声で伝える。
「一心殿、日松様を保護しにいきます!」
「日松は裏御殿に野々といるはずだ。鴨たちは余がいない間、兵士に指示を出せ。戦える者は骸骨と戦い、それ以外の者は逃げろ。生き残れ」
「御意」
熊坂を先頭に諒、一心、蒼人、清隆が走る。骸骨たちは皆剣を持っていた。
熊坂は骸骨たちを同じく剣を持ちなぎ倒していく。
「郡矢」
諒も前の方へ刃を飛ばし骸骨を蹴散らしていく。後ろからどんどん骸骨が増えていく。
一心が指示する。
「とにかく骸骨を倒すことより先に進むことを優先にするぞ」
皆は返事をした。
本丸の横の表御殿の脇を通っていく。諒は表御殿の壁をぴょんと登ると布を切り刃に変える。
「刃吹雪!」
屋根に登っている骸骨たちを一掃する。そのまま屋根の上走っていく。
諒は一番に裏御殿の入口に着いた。
「なんだあれ?」
他の骸骨よりも3倍ほどの大きさの骸骨兵がいた。
「切雨」
巨大骸骨兵に攻撃は当たるが小さい者より攻撃が効いていないようだ。諒はその骸骨兵を見て拳ほどの刃を作るとこう叫ぶ。
「刃魚」
刃はふよふよと水中を泳ぐように骸骨兵に向かっている。関節と関節の間に刃が滑り込む。骸骨兵が動かなくなった。
そうしているうちに皆と合流した。
一心は感心した。
「なんと、諒やるな。今のうちに諒と蒼人、余と裏御殿に入るぞ。熊と清隆は入口であの巨大骸骨兵を足止めしろ」
熊坂と清隆の横を諒、一心、蒼人は走り抜ける。まだ骸骨は中にいなかった。
しばらく走っていると赤子の泣き声が聞こえてきた。
その声を聞くと諒は叫ぶ。
「日松様ー!」
一心も大声で呼ぶ。
「野々、日松どこじゃ?」
野々の声がする。野々は五百蔵 壱成 の名を呼んだ。
「成様⋯⋯壱成様⋯⋯」
諒は近くの部屋を開けていく。3番目の戸を開くと野々が乳母の梅と日松と一緒にいた。野々はホッと力が抜ける。
野々と日松と梅の真横の戸が少し開き骸骨の姿が見えた。
骸骨は剣を振り上げる。
間に合わない
全身を震わせている梅は二人の前に立ちはだかる。骸骨の剣は梅の身体にくい込む。蒼人は慌てて野々と日松に結界を張った。
一心は梅の隣までやってくると骸骨を剣で勢いよく切った。
「梅、すまぬ」
「⋯⋯五百蔵様、野々様と日松様をよろしくお願いします⋯⋯」
「梅⋯⋯いやじゃ⋯⋯梅!!」
野々は梅にしがみついて目を潤ませる。
諒は目をつむり苦しそうに口を開ける。
「すみませんが時間がありません。骸骨が攻めてきます!」
諒は日松を抱いた。日松は諒に抱かれてきゃっきゃっと喜んだ。諒は一心の方を向く。
「日松様をおんぶしていっても良いですか?」
「あぁ、蒼人、諒の後ろを守れ!」
「はっ!」
諒はたすきで日松をしっかりおんぶして固定すると一心に力強く頷いた。一心は野々を促す。
「ここを出る。其の方らを守ってくれる場所まで行くぞ」
野々は涙を流しながら頷いた。一行は野々の速さに合わせて進んだ。ようやく裏御殿の入口が目に入る。急いで外へ出た。
骸骨と兵士たちも混乱して剣を振りかざしている。
清隆は先ほどの巨大骸骨兵を木の枝で動きを封じている。
熊坂も周りの骸骨を蹴散らしていた。
一心は大声を上げる。
「清隆、よくやった。一度解除せよ!」
清隆が木の力を解くと骸骨兵は自由になった。それを見ると目にも止まらぬ速さで一心は骸骨兵に近づいた。
先ほど諒が刃魚で動きを止めたように関節の隙間に剣を入れて回転させる。足首、膝、股関節手首、肘、肩、首と思いつく関節に同じことを行った。
骸骨はバラけて下に崩れ落ちた。清隆はそれを見ると木の枝で骨を縛る。
薪のように綺麗に縛られた骨はカタカタと動いている。
「ひっ、動いてる」
諒はそれを見て気持ち悪いものを見たような顔をした。
一心は清隆を労うと周りを見て大声で指示をした。
「清隆ご苦労。皆のもの、五百蔵じゃ、よく聞くが良い。戦えるものは戦え! 無理だと判断するものはとにかく逃げろ! 命を大切にしろ!」
兵士は一心を見て驚いているがその言葉を聞いてわっと湧いている。
鴨下が合流した。
「壱成(扮する一心)様、参りましょう」
一心は頷くと野々の手を取った。
「野々行くぞ」
「はい」
一行は城の敷地の出口に向かって走った。
どこを眺めても骸骨がうじゃうじゃいる。
諒は手を刀にすると骸骨に突っ込んでいく。あまりにも多いときは布を切り刃に変えた。
「縄刃」
諒は右手を左から右へ動かすとそれに少し遅れて刃たちは縄がしなるように動いて骸骨を蹴散らす。
一心の声がする。
「東門が一番近い。右の方へ折れるぞ」
「はっ」
皆は返事をして身体を右へ傾ける。右へ曲がるとまた巨大骸骨兵が2体もいた。
蒼人は野々と自分に結界を張って耐える。
諒は走って奥の骸骨兵へ近づいた。
「郡矢・回遊」
先ほどの刃魚のように刃は空中を舞いながら骸骨兵へ近づく。先ほどのように関節部を狙う。
刃は骸骨の関節部へ近づくと回転しながら隙間を抜ける。
骸骨はバラバラになったが、すぐに動き始める。
「またくっついてしまう!」
諒は構えた。
諒の横を大きな金槌を持った熊坂が通り過ぎた。
熊坂は身体を捻ると金槌を勢いよく右から左へ振った。そうすると骸骨の骨に直撃した。
金槌が直接当たった骨が粉々になった。諒は熊坂の身体をしげしげと見る。筋肉がはちきれそうなほど盛り上がっている。
「熊坂殿は身体強化なんですね」
「あぁ、そうだ。この金槌は200キロある」
熊坂は軽々と金槌を持ち上げる。諒は骸骨の骨が粉々になったのを納得した。一心はもう一体の骸骨の関節に剣を回していた。
「清隆、外れた骨を木で縛れ!」
一心が清隆の方を向いていると後ろから叫び声が聞こえた。
「きゃあ!」
野々の声だ。
一心は振り返ると野々の後ろに巨大骸骨がいた。蒼人はふっ飛ばされて宙を舞っている。
一心は巨大骸骨の剣が野々に向かっているのを見るとそちらに駆ける。
「瞬駆」
瞬く間に野々の元へたどり着いたが骸骨の剣の刃は野々の真後ろまで迫っている。先ほどの梅を思い出される。一心は野々の手を掴むと思い切り自分に引き寄せ前後を回転させる。
ザッ
「くっ!」
野々を引き寄せた反動で骸骨の前に移動した一心の背中側の脇腹に刃がかすめた。
「壱成(扮する一心)様!」
熊坂が一心の方へかけてきた。一心は膝をつく。熊坂が真横に着くと傷の様子を確かめる。
「刀で血が流れております」
「なんてことない。かすっただけだ。それより急ぐぞ」
出口まであと50メートル
諒は前方に刃を降らせる
「切雨」
諒はそのまま出口へ駆ける。出口の扉で待機する。野々は泣きながら走っている。蒼人が野々の背中を支えながら結界を張って進む。
ザッザッ
野々と蒼人は立ち止まった。出口の近くに巨大骸骨が2体現れた。後ろから一心が声を上げる。
「その2体は余と熊と清隆がやる。野々たちが門を出たら一度閉めよ。命令だ!」
蒼人は頷いた。二人の横を一心、熊坂、清隆が走っていく。
巨大骸骨と三人の交戦が始まった。それを見届けると蒼人は野々を見た。
「壱成(扮する一心)殿のためにも少しでも早く門を閉めましょう」
「⋯⋯はい」
野々と蒼人も走り始めた。
交戦中の三人を通り過ぎる。
野々は涙を流しながら一心を見た。
「壱成様、どうかご無事で⋯⋯」
一心は野々と目が合うと口角を上げた。
「野々、また後で会おう」
野々と蒼人が門にたどり着くと、諒と蒼人は急いで門を閉じた。門の外には骸骨はいたが巨大骸骨はいなかった。野々は日松に顔を近づける。日松は目を閉じて笑った。
しばらくして内側から音がする。それを見た諒は野々と蒼人の方を見た。
「おそらく内側から門が開かないようにかんぬきをしたのでしょう。私たちは緑龍の里を目指しましょう。確か東門の近くに馬屋があります。城の中とは骸骨の数が圧倒的に少ないうちに馬に乗っていきましょう」
骸骨を切り捨てながら馬屋を探した。馬屋を見つけると蒼人は馬に乗った。諒は野々を蒼人の前に乗せる。諒も馬に跨ると走り始めた。諒は馬の上から刃を飛ばして骸骨を蹴散らしながら進んだ。蒼人は危ない時は結界を張って防ぎながら進んだ。
しばらく走っていると複数の人影がこちらに向かっている。
諒はこの先の危険を知らせるため、その人影に向かって呼んだ。
「おーい、この先は危ない。迂回せよ!」
その人影は近づいてくる。姿がはっきりわかると諒は目を丸くした。そこには赤龍と茜と一樹がいたのだった。
「赤龍殿と茜と一樹さん⋯⋯?」
「俺たちは任務で外に出ていたのだが、いきなり骸骨が現れたんだ。これは五百蔵城に関係しているのか?」
茜は野々を見て驚いている。
「これは御台様。馬の上から失礼いたします」
赤龍はそれを聞いて目を丸くする。三人は諒の方を見た。
「黒獅子は死者の大軍を使うことを覚えてらっしゃいますか? まさに戦いが始まったのです」
周りに集まってきた骸骨を諒と一樹は蹴散らす。
赤龍は声を上げる。
「俺たちも加勢するぞ」
諒は茜と一樹の方を見た。諒は馬から降りると背中にくっついている日松を見せた。
「御台様の御子様の日松様です。茜、一樹さん、蒼人とともに御台様と日松様を緑龍の里へ連れて行ってもらえませんか? 僕は瞬たちに加勢したい」
茜と一樹は顔を見合わすと諒に向かって深く頷いた。諒はたすきから日松を下ろすとギュッと抱きしめてささやいた。
「日松様、後で必ず迎えに行きます。それまではお元気で」
茜の背中に日松をおんぶさせる。茜と一樹は馬に乗るのを見ると、野々は諒の方へ振り返った。諒へ強い目を向けた。
「諒、ここまでご苦労であった。戦では必ず生きて、必ず日松を迎えに来るのだぞ」
「分かりました」
諒は頭を下げた。諒は立ち上がると大きな破片の刃をたくさん作り大声で言う。
「刃吹雪!」
周りの骸骨たちが蹴散らされていく。
茜が振り返る。
「諒、瑛真のことはまかせたぞ。赤龍殿もご無事で」
諒は赤龍を見るとお互い頷き走り始めた。
「ちょっと赤龍殿早すぎです。待って下さい!」
諒が必死に追いかける。
「待ってやる義理はない。先に行くぞ!」
ぐんぐんスピードを上げる赤龍の背中は小さくなってゆく。
諒は必死に走った。




