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第60-5話(番外編) 橙次の独白

 俺は物心ついた時から親父が他の人と何か違うんじゃないかと違和感を感じ始めていた。永生殿と言う“仕える御方”という人が親父にいるようで小さい頃はよく会っていた。その“仕える御方”というのはその頃よく分からなかったが、親父よりずっと多く話し相手になってもらっていた。



 小さい頃から戦う訓練が必要だと言われて親父によくボコボコにされた。親父曰く強くなることが一番大事なことらしい。親父から教えてもらったのはそれだけだ。



 そして親父にボコボコにされて怪我をした時は永生殿が手当てをしてくれた。それ以外にも料理や掃除など生活に係ることもすべて永生殿が教えてくれた。今思うと人としての生活の全部を教えてくれたのは永生殿だったんだと分かった。


 そういう意味では育ての親のような存在なのかもしれない。



 親父が唯一褒めてくれるのは強くなった時だけだった。



 少しずつ動きが良くなっていったはずだが、親父からしたら俺の成長ぶりは歯がゆかったのだろう。そして俺が10歳過ぎてくると親父はほとんど家に帰らなくなった。帰ってきても訓練しかしてくれなかった。



 そしてその訓練も苦しいし痛かったので、親父がいないことを淋しいと感じることはなかった。親父の興味が他へ向いてくれたことのほうが嬉しかったからだ。しかし親父のことはほとんど理解できなかったのでそのことが気になっていた。



 親父は一体何に関心を向けているのだろうか。



 その思いは強くなりある日親父の後をついていった。その日親父は俺が後ろをついて行ったのを気がついていたはずだが何も言わなかった。その日以来俺は頻繁に親父の後ろをついていくようになった。それからも一度として親父は俺が後ろをついていくことに何も言うことはなかった。



 親父についていくようになって分かったことがいくつもある。それは親父が属するのは影屋敷と言う組織で、よく見に行くのは忍の里と言うところだった。忍の里というところは村に似ている。ただ活気が違う。店が空いているところは少ないし子どもも走り回っていない。女の人もあまり外を歩くこともないようで見かけない。



 親父は幻術使いのようで俺もその力を持ち合わせていた。親父は自分のようになってほしかったようで、珍しく俺の力が解放されてから積極的に幻術の使い方を教えてきた。その力は景色をゆがませたり自分を見えにくくさせたり相手を動かなくさせたり、殺したり、色々便利に使える。



 ある時、忍の世界には大戦が起こった。なぜ起こったのだろう。その大戦は後に“滅獅子の大戦”と呼ばれるようになった。その大戦について親父に聞いてみると、親父が起こしたものだって言ってて訳がわからなかった。しかしその大戦中に親父はある里で目に入った男の子を見つけて気に入ったようだった。それから毎日のように見に行っているようだ。



 その親父は白狼を天涯孤独の自分と似ていると喜んでいた。それはすぐに変わる。なぜなら大戦が終わるとその男の子は影なしの里の里長が引き取ったようだ。それからその男の子の名は白狼といった。里長は秋実といって白狼がすごく懐いていた。



 それを見た親父はへそを曲げた。おそらく親父は何か良からぬことを考えていたのかもしれない。しかし状況が変わって親父はすぐに満足していたようだ。



 なぜかと言うと、秋実が病にかかっていたからだ。白狼は戸惑いと悲しみに苦しんでいるのを親父は嬉しそうに見ていた。



 全く理解が出来ない。



 そのうちやることもないので親父の属する影敷と言う組織に入りたいと俺は申し出た。親父は珍しく少し俺に興味を傾けたが強くなることを条件に親父は承諾すると親父とは会わなくなった。おそらく俺から興味がなくなったようだった。



 そうしているうちに白狼が慕っていた秋実は亡くなった。そしてその後白狼は影屋敷に入るということを知った。親父が興味を持っていたのがきっかけだったが、俺も白狼には興味があった。だから俺は白狼に会いに行ったんだ。


 白狼が影屋敷に来た初日に実力テストを受けていたが、なぜか審判員の加藤殿と戦っていた。そして闘技場で戦うのを遠目で見ていたが予想を上回る実力だった。それで嬉しくなって俺は声をかけたのだった。白狼は俺が予想しない反応ばかりしたので、白狼にくっついて行動した。



 それからの日には楽しいものだった。

 いきなり実力を見せるのも嫌だったのでそれなりに手を抜いて白狼とちょうどよく順位を開けた。白狼は嫌そうな顔をしている割に自分の内側に入れてくれる無防備なところがあった。そして白狼は頭がよく回るのに、どこか無鉄砲だった。勝つためなら手段を問わない、そんな部分が親父は気に入ったのだろう。


 そんな楽しい時間もあったという間に過ぎていった。そして八傑が近づいて来た時に俺と白狼は10位をかけて戦うことになった。白狼は早く八傑になって忍の里へ置いていった子を迎えに行きたいと言っていた。だから俺も協力したいと思っていた。



 さて、どうやって負けたらいいのだろう。



 攻撃されると思わず身体が反応してしまう。白狼の幻術も上達してきたので、俺は粘着系だと嘘の力を伝えていたがボロがでそうで怖かった。そして自然に負けるには⋯⋯と考えているとチャンスが巡ってきた。



 白狼が構えている。あればもしかして地獄牢を打つ気なのか。当たったら俺は死ぬのだろうか? それを見たあのとき、俺は白狼になら殺されてもいいかとも半分思っていた。



 “橙次、ありがとう。橙次は影屋敷で初めて会った仲間だ。”



 白狼は地獄牢を構えている最中にそう言ってきた。その後白狼は涙を流していた。





 その時親父の気持ちが少し分かった気がして嫌だった。





 俺は白狼と本当に仲間になりたいと思っていたのを確信したんだ。俺のために泣いてくれる、喜んでくれる、その感情を向けてくれることが嬉しいと気がついてしまった。



 白狼が八傑になったので、あの子を迎えに行くと言っていた。どこか嬉しそうだが緊張している様子だった。あの子の名前は瞬というようだった。影無しの里に置いてきた秋実の孫だったのだ。実際に会って話してみると、白狼とはまた違う雰囲気で真っすぐ太陽のように育ったあたたかいやつだった。そして白狼はだんだん一人ではなくなっていく。



 次第に親父の興味は瞬の方へ移っているようだった。俺は親父とはち合わせるのが嫌だったので白狼が八傑になってから、なかなか白狼に声をかけられなかった。



 そうしていると親父は新しいことを始めた。忍の新しい里を作って新たな戦力を集めようとしているのだった。そこに白狼と瞬たちは巻き込まれていく。止めてあげたいのだが親父に会ってしまう。もやもやしていると先に親父が動き出してしまった。その時覚悟した。親父にはち合わせてもいいから白狼たちを助けたい。



 いや、覚悟は出来ていなかった。

 結果的に運良く親父とはち合わなかった。

 その時、俺はホッとしたんだ。



 その頃には白狼たちにやっぱり会いたいと思ったのでようやく会いに行ったんだ。

 また楽しい日々が始まった。そのうち親父と会わないといけなくなる。それまでの間はそんなこと気が付かないようにしていよう。



 少しの間の甘美な夢だ。



 白狼、お前には本当のことを話したらどんな顔をするだろう。このまま終わってしまうなら自分の口から言ってしまおう。そう決意したのに親父に邪魔されてしまった。自分の口から話したかったのに、そのことをあばかれてしまったのだ。



 まさかこんな形で白狼と対峙することになるとは思わなかったのだ。

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