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第11話 諒の脱里

瞬たちは白龍の里に戻ってきた。烏斗は皆を白龍の家の中庭に通すと白龍を呼ぶため席を外した。そして代わりにたつみという者を置いていった。少し待っていると烏斗を先頭に白龍も来た。

はじめに口を開いたのは肩にだてまきを乗せた霜月だった。



「白龍殿、まずは玄磨たちの引き渡しをしたい。玄磨を含む八人の者と遭遇しそのうち四人は始末、残りの四人を連れてきた。問題なければ部屋まで連れて行くがどうする?

⋯⋯ここで話せない内容もある。」



白龍は玄磨とその仲間の三人を見た。

縄で縛られてもいない。霜月はくるりと玄磨たちの方を向いた。



「君たちは自分の意思で戻ってきた。そうだろう?」



玄磨が真っ先に口を開ける。



「里を離れて申し訳ありませんでした!霜月様のおかげで目が覚めました。これからは里の為に任務に尽くしたい所存です。」



続いて玄磨の仲間も口々に謝罪と霜月の素晴らしさを説く。霜月はニッコリして白龍を見ている。白龍は口を開けたまま呆れていた。そして白龍は霜月を凝視しながら言った。



「なんだこれは?⋯⋯とにかく中へ入れ。」



白龍、霜月、瞬、諒、玄磨たちが前よりも大きい部屋へ入った。皆が座るとだてまきは瞬の膝の上に乗った。



「烏斗、お前も入れ。」



白龍は烏斗へ入室を促した。全員が着席するとを見ると白龍が真っ先に口を開いた。



「霜月、何をやった?」

「何って彼らが改心したんですよ。」

「お前と遊ぶ気はない。」



じろっと白龍は霜月を見てきっぱり言った。

霜月は真顔で白龍を見た。



「洗脳しました。白龍殿は黒獅子の里をご存知ですか?」

「洗脳か、お前が得意そうじゃな。

それに黒獅子の里か⋯⋯最近ちらほら聞き始めた名前じゃな。」

「里長の黒獅子の手段は分かりませんが特に若者を集めて洗脳して忠誠心を獲得しています。」



白龍は手で顎を触るとニヤリとした。



「お前さんがちょうど玄磨たちにやったようにかい?」

「そうです。洗脳は何度もその思想を重ね塗りしないと薄れてしまいます。彼らには少し強めにかけていますがそのうち無くなってしまうのでご安心を。」



玄磨たちは霜月にこの忠誠心は無くならないことを強く主張している。



「烏斗、玄磨たちは退室して良い。巽を付けさせろ。後で指示を出す。」



烏斗は頷くと玄磨たちを連れて行った。



「さて⋯⋯」



白龍は何か躊躇している。



「本題の諒の脱里について話しても良いでしょうか?」



口を開いたのは諒本人だった。それを聞いた白龍は目を見開く。瞬は白龍がこんなに反応していることに驚いた。白龍殿の反応は何か引っかかるんだよな⋯⋯と思った。



「脱里について出された条件は玄磨を連れ戻すこと。

それについて霜月さんに特訓をしてもらって暗器の力でお互い戦い⋯⋯僕が勝ちました。」



諒はしっかりした声で説明した。その間、瞬は白龍を盗み見していた。白龍は諒の報告を聞くと目の奥が優しくなったような気がした。



「そうか、諒よくやった⋯⋯。」



歯切れが悪い。諒は真っすぐ白龍を見ていた。霜月はずっと白龍を見続けていた。



「そうしたら諒は⋯⋯」



白龍が言い始めた時、霜月は口を開いた。



「こんな時に困らせるかもしれない。先に謝っておくよ。諒、ごめんね。」



諒は何が始まるのか分からず目を見開いて霜月を見る。

霜月は力強く白龍の方へ向くと近づいていった。



全員が霜月を見て次の言葉を待った。



「このたぬきジジイ、俺は諒を影屋敷へ引き抜くぞ。これで諒とは今生の別れになるかもしれないのに、これでいいのか?

忍は任務で命を落とすことが多いから一期一会だと思って接しろって言うことくらい子どもでも知ってるぞ!」



これを聞いた瞬は驚いた。これまで丁寧な言葉遣いだったのに白龍に対して”たぬきジジイ”とは⋯⋯諒とだてまきを連れて避難したほうが良いか?と考え、瞬はとりあえずだてまきを抱き上げて心の準備をする。

瞬は危険を感じていた。



白龍を凝視すると、瞬は目を見開いた。

白龍は動揺している。口を開こうか言葉を選んでいるようだ。白龍は目を伏せる。



「俺に後悔するようなとこをするなって言ったのはジジイだぞ!」



霜月は煽る。

白龍は目を上げる。まだ目は泳いでいるが決心したような目だと瞬は思った。

瞬はだてまきを膝に下ろした。



白龍は立ち上がると諒の目の前に移動して座った。諒は何か言ったほうがいいのか待っていたほうがいいのかも分からない。ただ白龍から目が離せなかった。



「⋯⋯諒、血の繋がった孫よ⋯⋯」



白龍は諒の目を見て口を開いた。

諒はじいっと白龍を見た。



「僕、嫌われてるのかと思ってた。僕のおじいちゃんなんだ⋯⋯」

「嫌いなものか!⋯⋯今まで本当に悪かった。」



白龍は頭を下げた。



「そのおかげで瞬やだてまきや霜月さんに会えたし⋯⋯仲間が出来て僕は嬉しい。」



諒は驚いた様子だったが意外にさっぱりした口調で言う。

それを見た白龍は眉間に皺を寄せて目をつむった。長い沈黙がありゆっくり目を開けるとこう告げた。



「諒、里からの脱里を許す」

「ありがとう、おじいちゃん。」

「⋯⋯諒、忍の世界には尊助そんじょの札というものがある。尊い助けで尊助じゃ。何かある場合、尊助の札を使うと最優先で助けてもらえる札なのじゃ。

しかしお前にはやらん。諒はここへ助けを求めてきたらいつでも助ける。助けが必要な場合はいつでも来い!」

「うん、分かった。」



それが終わると白龍は霜月の方を見た。



「お前さんにはこの後、ちいと話すことがある。ここに残れ。」



瞬と諒とだてまきは白龍の家の外に出た。家を出てからも諒は何も喋らない。里の外れの里と森の境目まできた。諒はしゃがみ込んだ。



「あーびっくりした。血の繋がった家族がいたんだね。話したっけ?僕の父さんは7年前に殺されて、母さんは僕を産んでしばらくして亡くなっちゃったんだ。」

「諒⋯⋯その本当にこれで良かったのか?」



瞬は心配した目で諒に聞く。

諒は顔を瞬に向けるが質問の意図がピンときていないようで眉をひそめる。瞬は口を開いた。



「その⋯⋯せっかく家族に会えたんだから⋯⋯」



ここに残らなくて良いのか?と続けようと思ったがうまく言葉が出ない。

諒は瞬を真っすぐ捉えるとニコッとして言った。



「僕は今日知った家族より僕を守ってくれて正面からぶつかって一緒に行こうと言ってくれる人の方がいいな。僕は瞬が良いんだ。あとだてまきと霜月さん。」



瞬はそんな言葉がかかる日が来るなんて思っていなかった。家族よりも自分を選んでくれる仲間が出来ると思っていなかった。心に広がる温かさはやがて込み上げてきて目からこぼれる落ちた。



ぽた



諒は瞬の目から涙がこぼれ落ちるのを見ると瞬に近づいてぎゅっと抱きつくと口を開いた。



「僕は何も見てないから。」



諒がいつもより大きく感じた。

だてまきは静かに二人の足元に丸くなっていた。



白龍の家では瞬と諒が部屋を出ていってしまうとまた霜月と白龍は二人になった。

白龍は霜月を見ている。



「白狼、今回ばかりは本当に世話になったな。

だがあんな事言うなんて心臓がひっくり返るかと思ったわ。」

「あなたも減らず口ですね。」



白龍は霜月の言葉を右から左へ流した。



「お前さんにはすでに尊助の札も渡してるしな、礼は何がいい?」

「⋯⋯瞬にあなたの手を見せてもらえませんか?」

「その前に確認したい。お前さん、瞬のことを随分気にかけているようだが、あやつが影なしの里の暗殺の瞬じゃろ?」



霜月はピクッと反応する。



「お前さんの過去のあの事は伝えてないのか?」



沈黙



伝えてないと言っているようなものだ。

霜月は自分の未熟さにため息をついた。

それを見た白龍は、満足そうに笑い始めた。



「はっはっはっ、随分わかりやすくなったのう!」

「ふん。」

「瞬ももう大人だ。あんなに懐いてるんだから早く伝えてやらんと可哀想だろう。」



霜月は下を向くとそのまま答える。



「⋯⋯それを決めるのは俺だ⋯⋯。」



白龍は口をへの字にして見ていた。



「ふん、瞬に手は握らせてやろう。ついでに今回のお礼のお節介じゃ。

諒についてお前さんが知っていたほうがいいだろ。どうせ諒にもお前さんは聞けないのだろう?」



霜月は言葉が出ない。やはり自分は瞬のように待つことも諒に自分から聞くことも出来ないようだ。その様子を見て白龍は沈黙は肯定と捉えて話し始めた。



「諒の父親は青獅子の里長⋯⋯先代白龍じゃ。10年前に起きた滅獅子の大戦の発端となった里長殺しのうちの一人なのだ。」



発端となったのは里長殺しだったのは知っていたがまさか諒の父親が殺されていたとは驚きだった。



「殺された父親が山で発見された頃、諒は白龍の里の山奥に打ち捨てられた蔵の中で見つかったが、衰弱していた。数日間飲まず食わずだったのだろう。」



霜月は昨日の瞬と諒の組手を思い出していた。

“僕を置いて行かないで!”と必死な諒はこの時の事と無意識に結びつけていたのかもしれない。



「それまでは先代白龍は諒のことを大層可愛がっていた。父親が居なくなった失望感からか諒は塞ぎ込んでしまった。しかししばらくすると忘れたように立ち直ってしまった。しかし背丈と暗器のせいで玄磨たちかは嫌がらせもあって、諒は苦しんでいたようじゃ⋯⋯。」

「おそらく諒にとって父親の死はトラウマになっている。心身ともに幼い諒には耐えられなかったんだろう。頭がリミッターをかけて父親の死、あるいはそれに付随する記憶ごと鍵をかけられたように忘れているのかもしれない。」



もしかすると瞬と諒が会った日、諒は剛と戦うためではなく里から逃げ出したのではないかと言う考えが霜月の頭をよぎった。いや、憶測に過ぎない。

そうしているうちに霜月はまた違う疑問が浮かび上がった。



「あれ?おかしいな、滅獅子の大戦は10年前だったはず。諒は赤子だったのではないか?」

「赤子⋯⋯幼子じゃな。諒は3歳くらいだったから。」



霜月は、たらりと汗をかく。



「そうすると諒は今⋯⋯」

「13歳じゃ」



白龍は霜月の言葉を継いだ。霜月は諒をまだ10歳もいかない子どもだと思っていたのだ。

早急に飯を食わせないと成長が間に合わなくなる!

お読み頂きありがとうございます!

次回は瞬の出身の里がようやく出てきますね。里長はどんな人なんでしょうか?

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「君のじいちゃんの手紙だ。」

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