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第58話-1 長月と瑛真(前編)

 瞬、諒、霜月は五百蔵いおろい城へ一度戻ってくると長月が部屋に顔を出した。


 長月は瞬の目の前にやってくると座って手を前に出した。瞬は警戒している。


「これは一体何のマネですか?」


 長月はぶっきらぼうに言った。


「これは瑛真との約束だ。手を握った瞬間にビリッとはやらないから安心しろ」





 時は遡ること瞬と諒が影屋敷へ向かった頃、瑛真は長月のいる表御殿の麒麟の間に移動した。広いので間にふすまを設けてもらったのだ。


 瑛真はようやく身体が動かせるようになった。ただ立ち上がる時はまだ時間がかかる。息を深く吐きながら右手をついてゆっくりと立ち上がった。左腕はだらんと重たいゴムのように地面に向かってぶるぶると少し動いていた。


 長月はそれを見届けると部屋の出口へ向かった。そこへ瑛真は長月に声をかける。


「長月殿、俺も訓練見に行っていいですか? 出来れば暗器使って欲しいんで⋯⋯」


 瑛真は遠くにいた朝陽と夕陽を見る。それを見た長月が朝陽と夕陽も呼ぶ。すると瑛真は注文を加えた。


「それから短剣二本」

「何を始める気だ?」


 長月は顔を変えずに聞く。

 瑛真はニヤリとする。


「それは長月殿次第だ」


 それを聞いた長月は笑い始めた。



 城の敷地を出ると崖と森が近いところへやってきた。朝陽と夕陽は幻術を周りに張った。長月はそれまで静かに待っていたがしびれを切らして瑛真に聞いた。


「それで何をやるんだ?」

「まず確認です。瞬との公式対戦を見るに長月殿は力の量がかなり多い。公式対戦で使ったような技が多いですか?」


「まあ⋯⋯あんな感じのが多いかな。あの時は雷の技を重視して身軽な動きで大きな雷を使っていた。その後、瞬と手合いをして身体の動きに重みを出した反面、雷の動きを磨いた」


 長月は考えながら口を開いた。長月の説明を聞き終わると、瑛真は真っすぐ長月を見つめた。


「その力がもっと強くなるとしたら試しますか?」

「もちろんだ!」


 瑛真はそれを聞くと手に炎風の玉を作った。


「ご存知の通り俺は炎風の力です」


 瑛真は右手に作った玉を崖に向けて投げる。

 ドコッ、パラパラ、崖に当たり砕けた崖の正面から細かい石が落ちてくる。


「長月殿も同じくらいのを崖に当ててみて下さい」


 長月は頷くと手に雷の玉を作って崖に投げた。

 ドコッ、パラパラパラ、瑛真と同じような感じだった。すると瑛真はまた炎風の玉を使っている。さっきよりも小さいものを時間をかけて作る。


「これからもう一度俺が炎風の玉を作って崖に当てるので見ててください」


 さっきの3倍ほど時間をかけて小さな玉を作った。速さは同じくらいで投げる。崖に当たる。

 ドゴゴン、ドガッ! パラパラ、崖の一部が壊れて大きな岩が落ちてきた。それを見た長月は身を乗り出した。


「なんだ?? さっきよりも小さいのになんでこんな威力が⋯⋯?」


 瑛真は長月をじっと見ると手の上に玉を作り始めて説明した。


「力の圧縮をしました。通常の力で形成するのではなくこれを潰して小さくして何度も重ねて⋯⋯イメージは何でも良いです。とにかく小さくする」


 瑛真の手の平の玉は小さくなる。


「少し時間はかかりますが威力は先ほどのように段違いに上がる」


 瑛真の炎の玉に風が纏い始める。


「ちなみに俺は炎と風の2種類を使えるので炎の玉に風を纏うことも出来ます。もちろん炎は酸素を求めますので風の道を作ると玉は加速する」


 圧縮された炎の玉は風を纏い、さらに風の道をものすごい速さになって崖をめがけて飛んでいく。

 ドッガーン!! ガララン! パラパラパラ

 崖の表面はボロボロになった。


「今のは風を高速回転させることにより崖の表面を削りました」

「すげーな。俺にもこれが出来るのか?」

「長月殿には長月殿の雷の特性で伸ばすことは可能です。今俺の周りで一番潜在能力を持っているのは長月殿です」


 瑛真は淡々と説明する。

 そこまで聞くと長月は背筋をぐっと伸ばすと瑛真を改めて見る。真剣な顔をしていた。


「瑛真は何を望む? いくら五百蔵いおろい城の中で身元を預かると言っても、俺はもう味方ではないかもしれないんだぞ。今は五百蔵いおろい派としか共通項はない」


「俺は何かしようとは思いません。霜月さんや諒のようにうまく立ち回ることも出来ない。瞬のように正面から相手を動かすことは出来ない。


 でも分かるんです。相手から受けた恩を大事にしてくれる相手か否か。俺は今はもうこんな身体でしょう。俺が役に立つためには強い協力者が必要だ。全力で教えますよ。俺にはまだ提供出来るものが沢山ある」


 長月は顔を横に振りながら両手をあげた。


「俺は正直いうと瑛真が苦手だ。お前は瞬とは違うというが、俺にとっては瞬と同じように真正面からぶつかってくる相手だからな。これは褒めてるんだ。霜月や諒のように立ち回らないからこそ、こちらも正面からぶつからなきゃならねえ」


 長月は拳をスッと前に出した。


「これが赤龍の流儀じゃなかったか? これで俺の意図は通じるか?」



 赤龍の流儀、それは長月の決意の契り。



 瑛真はそれを見て目を丸くした。瑛真は自分の意図を汲み取り賛成してくれる。しかも相手の流儀に則ったやり方であることに驚いた。瑛真はそれを見て好感と信頼を寄せ始めた。


 そして穏やかな笑みを長月へ向けると拳を前に出して長月の拳につけた。


「俺の流儀に合わせていただける長月殿を信頼します」

「俺も瑛真を気に入った。俺の名はごうだ。これからは豪と呼べ」

「はい、豪殿!」


 その後長月は手の平に雷の玉を作ると小さくし始めた。中々形が変わらない。何とか時間をかけて少し小さくなった。長月は汗を出しながら崖目がけて投げる。


 ドゴォン!! 先ほどよりも威力が上がった。長月は手を下へ向けてパタパタと振っている。


「意外と難しいんだな。瑛真が軽々やってるもんだから油断した」


 長月は少し圧縮の練習がしたいと言って手の上に何度も雷の玉を作っては崖へ投げた。瑛真は少し休憩した。



 しばらくすると長月が戻ってきてこう聞いた。


「瑛真、調子は大丈夫か? まだ動けるようになってすぐだろう?」

「ありがとうございます。左腕の接合部以外は問題ありません。体力が戻っていないだけです。次の試しますか?」


 それを聞くと長月の目がキラキラした。


「先ほどの力の圧縮の応用です」


 瑛真は短剣を手に掴むと刃の色が変わってきた。赤く光っていく。その後刃の端全体に青い光が帯びる。


 その短剣を持って瑛真は木の前まで歩いていく。


 力を込めた短剣を木に刺す。


 ボオオオオォォォ!!!


 木全体が勢いよく燃えた。

 それを見た瑛真は焦る。


「あっやべぇ。強すぎた」


 長月は慌てて雷で木を壊す。他の木には燃え移らなかった。長月は先ほどの威力を見てこう聞いた。


「今のも圧縮だとは思うんだがどういう仕組みだ?」


 瑛真は長月が見えやすいように短剣を持つ手を持ち上げる。そして刃が赤くなりはじめた。瑛真はこう説明する。


「俺が込めたのは炎の力のみです。炎は熱を帯びる。こうして刃に力を込めると赤くなる。そのまま力を特に刃の端に意識して込めると炎はもっと熱くなり赤から青へ変わる。その青い炎は10000度にもなります」

「10000度?? 木が勢いよく燃えるわけだ」


「長月⋯⋯豪殿、短剣を握ってください。そして力を込めてください。ちゃんと込めないと危ない」


 長月は短剣を掴むと力を込め始めた。

 瑛真は長月の準備が出来るのを待つとこう言った。


「豪殿、構えてください」


 長月は瑛真の目の前に短剣を構える。そこへ瑛真は短剣を交える。両方の刃が当たると反発し合うようにかたかたと震え始めた。しかし瑛真の短剣の刃が当たっているところへの刃の鋭さがなくなり柔らかくなっていく。それを見た長月は驚いている。


 カッキィィィィィン!!! 長月の刃が耐えきれず折れた。


 バチバチィッ


 長月の力が行き場を失い空中に放電する。瑛真の持っていた短剣に雷が集まる。


「あっ!!」


 瑛真は手から雷があたった。そしてそのまま瑛真はその雷の衝撃を受けて地面にドサッと倒れた。長月は目を見開いた。急いで長月は瑛真の元へやってきて様子を伺う。


「瑛真⋯⋯瑛真!」


 肩を叩いても、呼びかけても意識がないようだ。公式対戦で瞬が長月の雷で心臓を止めたことを思い出して、長月は急いで瑛真を抱きかかえて走り始めた。瑛真は気を失ってぐったりしていた。

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