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第57話-3 瞬の一族について(後編)

 次の日、霜月、瞬、諒は影屋敷の左殿で正装をした。橙次はだてまきを抱いて見送った。


 桐生家に着いた。瞬は籠から降りると腰をさすっている。諒の籠が開くとすっと横に着いた。諒は一人で降りてくると背を伸ばしている。そして瞬の方を見た。


「やっぱり籠は慣れないね」

「だな」


 瞬と諒は桐生城を見上げた。

 霜月に促されて城へと入っていった。

 いつものように広間で待機していると程なくして桐生殿を先頭に側近、白若、従者がぞろぞろと入ってくる。白若は諒の姿を見つけると嬉しそうな顔をした。そして三人は最後の人物が入ってくる少し前に頭を下げて待った。


「顔を上げよ」


 桐生の声がした。

 顔を上げて挨拶の口上が終わると桐生が口を開いた。


「黒兎の蒼人がよく報告に来てくれるので、何があったかは聞いている」


 霜月は頭を下げた。


五百蔵いおろい殿の支配下となったこと申し訳ございませんでした」

「いや、下手したら死んでいた。諒に無傷で人質とはいえ五百蔵いおろい殿に保護されて良かった。霜月と瑛真の功績も聞いておる。そのおかげで地方の大名たちがひっきりなしにこの城へとやってくる。白若を隠すのが大変なほどだ」


 桐生の機嫌は良さそうだった。

 その後、葛城殿が五百蔵いおろい派へ下ったことを伝えた。


「葛城殿は高山殿と西原殿への牽制なだけで、戦の予定は今のところございません。私どもも葛城殿とは仲良くさせていただいております」


 その報告を聞いて桐生は肩を下ろして、ふうと長く息を吐いた。霜月は瞬をちらりと見ると桐生の方を向いた。


「しかし、影屋敷の方で変な動きがありますので、注意は必要です。しばし五百蔵いおろい城と影屋敷を行き来しますので、もうしばらく白若殿は身を潜めておいて下さい」


 諒は桐生を見ると深く頷いた。桐生は諒を見ると白若を見た。


「諒、戦の参加、何もなかったこと本当に良かった。また白若も諒の身を案じておったから安心しただろう⋯⋯それに白若は諒に会えるのを楽しみにしていたのだ」


 諒は白若を見ると諒と桐生を交互に見ながらそわそわしていた。それを見た桐生が口を開けた。


「白若、諒と瞬と退室してもよい」


 諒は腰を浮かせるとそれよりも早く白若は桐生に頭を下げると、トコトコと諒諒の元へやってきた。そして白若は諒の正面にくると諒の手を取ると、ニッコリした。


「諒が無事で本当に良かった。戦の参加ご苦労であった」

「白若様もお元気そうでなによりです。何かお変わりはありませんでしたか?」


 諒は立ち上がって白若を見て笑い返す。すると白若はじっと諒を見ている。そしてはっとした顔をするとすぐに笑顔に変わった。


「そうか、諒は背が伸びたのか。私よりも大きくなったか?」


 諒はそれを聞いて、嬉しそうに瞬の方へ振り返った。瞬は立ち上がり二人に近づいた。


「どちらも成長されております」


 瞬は二人を見て嬉しそうににこりとした。白若はじっと瞬を見てこう言った。


「瞬にはまだ届きそうにないな」


 それを聞いたのか、遠くから桐生の笑い声が聞こえる。


「はっはっ白若、瞬に届くにはまだまだかかるぞ」



 夕方になると瞬たちは桐生城から出た。

 瞬と諒は霜月を見た。霜月の目には二人が何か言いたげな顔をしているのに気がついていた。そして何を言いたいのかも予想がついたので、籠に入るように促した。


「僕をそんな目で見ないでよ。早く籠に乗って」


「白狼さん、走って帰りたいな」

「白狼、変わりの特訓ならいくらでも受ける。籠じゃないので帰りたい」


「そんなことしたら噂になってしまうよ⋯⋯諒も瞬も籠に乗るよ」


 そう促されて瞬と諒は口を尖らせながらとぼとぼと籠に乗った。



 次の日、霜月は事務処理があるようでどこかへ行ってしまった。瞬と諒は支度を整えると影屋敷の左殿の情報の間に寄ってから昼開の部屋にやってきた。二人が部屋を覗くと昼開は何かを熱心に読んでいた。二人は静かに入室すると昼開の読んでいる物を覗き込んだ。すると書かれている文字を思わず読んでしまう。


「わっ!」


 諒は思わず声を上げた。そして諒は慌てて口をつぐむ。


「ごめんなさい。誰かの記憶の内容だったものでつい声を上げてしまいました」


 昼開はゆっくりと顔を上げた。目を見開いて諒を見上げた。


「びっくりした。君たち来てたのか! まだ瞬の書いてくれた物を分けきれていないんだ」


 瞬は昼開を見るとこう聞いた。


「何か発見はありましたか?」

「暗器の力については精査しないといけないんだけど⋯⋯一枚だけ順番の違う部分があって何か意味があるのかな?」


 瞬と諒は昼開の顔をじっと見た。


「どの部分ですか?」


 昼開はそれを聞くと瞬の目の前に一枚の紙を置いた。瞬は紙を読む。


「これは⋯⋯阿道城の大火災の時の事ですね」


 瞬は読み始めるとあの時のことが思い出されてきた。


「⋯⋯実はあの日のことはよく覚えていなかったのです。じいちゃんの最期を看取ってくれた人を⋯⋯殺した裏切り者だと勘違いして悲しみの海に溺れてしまった。⋯⋯その日の出来事を読んでいて新鮮です」


 瞬は諒にもその紙を渡した。諒も文字を追っている。読みながら口を開いた。


「へぇ、僕も見ていないやりとりが多いね。でもここ変じゃない?」


 瞬は諒に顔を近づけた。諒は指を指している。


「どれだ?」

「3階に来たおじいちゃん。だって光原が500人の精鋭部隊を連れてきたんだよね? 同じタイミングじゃないなら、もっと前から城の中に居た事になる。そうなると阿道派の者か客人か。阿道本人が居る部屋の外を一人で歩いてるなんて変だよ。何の用だったんだろう? あはは、もしかして上岡永生の仕える御方じゃない? 年齢もそれくらいだよね?」


 諒は瞬を見て笑った。それを見た瞬も笑った。


「あっはっはっ、まさか!」

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