第10話 再び白龍の里へ
諒の一方的に始まった諒と瞬の喧嘩はようやく解決した。疲れた顔を二人に向けて霜月は口を開く。
「嫌な予感がすると思えば諒は暴走してるし⋯⋯。」
霜月は仁王立ちして瞬をちらっと見た。瞬は明らかに動揺して不自然に目をそらす。なぜならシシ爺に影屋敷の事を探ったことがバレたら殺されるかもしれないと心中穏やかではなかった。しかし霜月から聞かれなかったので、今度は霜月さんにちゃんと正直に聞いてみようと深く反省していた。
諒は疲れて眠ってしまったので瞬が背中におぶった。だてまきはぴょんぴょんと身軽についてくる。
瞬はもう一つ霜月に話すことがあったのだ。しかしかなり個人的なことだったので話そうか躊躇した。霜月は目配せしただけだった。瞬は先ほどの霜月の行動を思い出していた。霜月も諒の事を案じているはずだ。
「霜月さん⋯⋯実は諒の記憶を覗いた時に今日みたいに取り乱すきっかけになりそうな記憶は見つからなかったんだ⋯⋯。」
「⋯⋯思い出したくもない強い痛み、恐怖、悲しみなどは自分自身を守るために脳が拒絶するようだ。重たい扉の中に仕舞って、自分でも無意識に忘れようとしているのかもしれない。」
瞬はその言葉を聞きながらまばたきをしながら目を泳がせている。
「瞬は何か迷っているのかな?」
「⋯⋯諒に何があったのか知りたい⋯⋯でもそれ以上に諒を楽にさせてやりたい。」
そこで言葉を区切る。瞬は霜月の方を見た。
「何があったのか聞きたい⋯⋯けど諒が教えてくれるまで、俺は聞かない。
⋯⋯俺は待つことにする!」
「それが瞬の答えだね。」
「おう!あっそれからもう一つ⋯⋯」
瞬は黒獅子の里について諒から聞いたこと、情報屋のシシ爺に聞いたことを話したが、シシ爺の情報屋を使ったのは内緒にした。しかし霜月の目線は痛く心を見透かされているのかとドギマギした。
今朝、霜月は情報屋のシシのところに行ったばっかりだった。最新の情報と黒獅子の里について、他の里の動向など聞いた。ひと通りシシの持っている情報をもらうと霜月は帰ろうとした。
「もしかして瞬はお前さんのところにいるのか?影なしの里、暗殺の瞬と言ったほうが分かりやすいか?」
霜月はピクッと反応する。しかし口は開かなかった。
「おっと、これは独り言だ。瞬は影屋敷のこと探ってるぞ。と言っても俺は何も言わなかったがな。随分手をかけてるみたいだな。あとちびっこいのも来たぞ。あれも面白いやつだな。」
霜月は閉口したまま目を閉じると眉間に皺が寄った。
「まあ今回は多目にみてやれよ。」
その後シシは霜月を見送った。
シシは霜月の姿が見えなくなるとにやりと口角をあげ顎にある髭を触った。
「面白くて仕方がねえな、こりゃぁ。」
霜月は他人に隙を見せない警戒心の強い男だ。あの鉄のような心を溶かしたのは暗殺の鬼である瞬だったのだ。あんなに感情を隠しきれない姿を見て思わず突付いてしまった。しかも霜月本人は自覚が無いとみえる。
「それが綻びならねえと良いけどなぁ。」
移動中、霜月の方から口を開いた。
「黒獅子の里について玄磨たちから聞いたよ。
彼らは洗脳されているのか黒獅子を崇拝しているような熱量でどれだけ素晴らしいかを説明してくれたよ。」
霜月さんも洗脳したくせによく言えるなと瞬は感心した。瞬は口を開いたがここからは口だけ動かして読唇術で読み取ってもらった。
『瞬さんは幻術を使えるだろ?洗脳を行いやすいのは幻術使いの特徴なのか?』
霜月は声に出して答える。
「洗脳自体は過度の心身の疲れから脳に正しい判断をさせず、さらに想像を超える体験をさせる。そして論理を装わせた誤判断を何回も行うことによって間違った原因と結果を学習してしまう事により自分が判断していると思いながら相手の都合の良い考え方に誘導させる。コツさえあれば誰でもできることだよ。」
霜月は瞬を見てにこりとした。霜月さんなら確かに素で洗脳出来そうと思ったが言わなかった。
諒がようやく目を覚ました頃、この前の洞穴の近くまで戻ってきていた。
だてまきが洞穴の近くに丸まっている。
瞬と諒はだてまきを見つけると嬉しそうな声を上げた。瞬は諒をおぶったままだてまきに近づく。だてまきは瞬の足の上に座った。瞬はだてまきが足の上に座ったので動けなくて、だてまきを気にしていた。ようやく足から下りると霜月の肩に移動した。霜月はだてまきを見てニッコリとした。
洞穴の近くで玄磨とその三人の仲間が待っていた。直立している。その不自然さに瞬は寒気を感じ動きを止めた。
「おかえりなさい、霜月様!」
洗脳の効果は抜群のようだ。
諒は寝起きの目をぱちくりさせて固まっている。
「待っていてくれたんだね、ありがとう。皆、楽にして今日はここで寝て、夜が明けたら白龍の里へ戻ろう。」
霜月は皆に声をかけると玄磨たちは霜月たちが戻ってくる間に夕餉の準備をしていてくれたようで温かい夕餉が目の前にでてくる。瞬も諒もこういうのに慣れていない。
ぎこちなく感謝すると久しぶりの温かいご飯が身体にしみた。
その後瞬と諒は心ゆくまでだてまきとじゃれた。
明け方、瞬は目を覚ますと霜月が誰かと話している声が聞こえてくる。そっと近づいてみると白龍の里の烏斗だった。烏斗が瞬に気がついて、こちらを見てくる。瞬が二人の元に近寄ると霜月が口を開いた。
「玄磨たちのこともあるから念の為呼んだんだ。」
「烏斗さん、お久しぶりです!」
瞬は嬉しそうに烏斗の目の前にやってくると声をかけた。
霜月が面白くなさそうな顔をしているのに気がついたのは烏斗だけだった。
「瞬、元気にしてたかい?前よりも逞しくなった気がするよ。霜月殿に鍛えられたんじゃないか?」
烏斗に褒められて瞬は嬉しそうにした。
霜月よりもっと面白くない顔をしていたのは諒だった。だてまきは諒の後ろをついてくる。口を尖らせて烏斗を睨みつけた諒が三人に近づいてきた。
「いつの間に瞬は烏斗さんと仲良くなったの?僕といる時に烏斗さんに会ってないじゃん。」
その声を聞いて振り返り諒の怒った顔を見ると、瞬は慌てて諒に烏斗との手合せについて話した。
「いやっ悪い。実は諒が訓練中に手合わせをしてたんだ。」
「あっまた僕のいないところでそんな事してる。」
「ちっちが⋯わないけど⋯⋯」
それを聞くと霜月は皆に背を向けくっくっと笑いをもらす。
「ねぇ、霜月さんもそう思うでしょ?」
霜月は咳払いをして振り返り腕で口を隠しながら平然を装う。
「そうだね。僕もそう思うよ。」
「霜月さんもその時一緒に居たんでしょ?口を腕で隠さないでよ。平然を装えてないよ。さすがに僕でも分かる。」
諒は霜月をじとっと見てそう言った。
霜月は少し肩をすくめた。
今度は瞬が噴き出した。そして笑いながら諒を褒めた。
「あはは!⋯諒、よく霜月さんのこと分かったな!」
「ねえ、烏斗さん、僕とも手合わせしてよ。」
諒は烏斗に向き直すとそう言った。それを聞いた烏斗は困っている。霜月は諒の顔の前に手を広げて制止した。
「諒、ごめんね。それは許可出来ないよ。手合わせに暗器は危なすぎる。烏斗の対人戦闘は瞬より強いんだ。分かるだろう?代わりに僕が組手の訓練してあげるよ。」
それを聞いた諒は手をぎゅっと握るとコクンと頷いた。
だてまきは諒の足に絡みついた。
この後、諒はだてまきを撫で回した。
こうしてようやく白龍の里へ戻ってきたのだった。
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次回はあらすじに書いた諒の台詞が出てきます。次回の作者イチオシの台詞↓
「僕は今日知った家族より僕を守ってくれて正面からぶつかって一緒に行こうと言ってくれる人の方がいいな。僕は瞬が良いんだ。あとだてまきと霜月さん。」




