第57話-1 瞬の一族について(前編)
お昼投稿のお話の登場人物の名前に間違いがあり、大変申し訳ありませんでした。
(初期のままの名前になっておりました)
【最終章】はじまります。
月日は少し流れ、霜月は口を開いた。
「そろそろ影屋敷に戻ろう。鈴音と楓は僕と一緒に籠で帰ろう。瞬と諒は好きなように戻ってきて。瑛真はまだ戻らないほうがいいな。⋯⋯長月、任せてもいいか?」
「あぁいいぞ。瑛真、表御殿の麒麟の間へ来い!」
瑛真は長月に向かって深々と頭を下げた。
「長月殿、お世話になります」
「礼儀正しい者は歓迎する」
「ありがとうございます。今度訓練を見に行っても良いですか?」
「いいぞ、いつでも来い」
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瞬は影屋敷に帰れることを嬉しく思っていた。それに自由に帰っていいと言われたことがさらに嬉しかったのだ。そしてそれを聞いてすぐに諒を見てこう伝える。
「競争して帰ろうぜ!」
「僕団子たくさん食べたいな」
諒も嬉しそうに瞬に告げてくる。
その姿を見た霜月、鈴音、楓は微笑んだ。
瞬には今回影屋敷に戻るのに一つの目的があった。それはもう一度昼開先生に話を聞くためだ。この前は時間のなかったため、挨拶もそこそこに駆け出して部屋を出てしまった。前回のような急ぎの任務は何もないので気楽に移動する。しかも今回は諒も一緒だった。
瞬たちの目下の目標は洒落頭の仕える御方を探し当てることだ。仕える御方の名前はわかっているがその名さえも誰も知らない。居場所もつかめないと向こうからいつどこで攻めてくるかわからない。
洒落頭の情報をできるだけ集めなければならない。それは表でも影響があるかもしれないからだ。
表では葛城扮する長月の五百蔵派への参加がどこまで高原と西川への影響になるか分からないから動向を注視しなければならない。一心の計らいで表でも洒落頭とその仕える御方である上岡永生の情報収集が始まった。
瞬と諒は影屋敷へと向かい始めた。瞬はイキイキと木から木へ移る。諒も手足の先を刃に変えて木に刺して引っかけながら身軽にぴょんぴょんと飛んで行く。そこへ瞬は諒に声をかけた。
「なんかこうしているのは久しぶりだな」
「本当だね!あの頃は訓練しながら移動も多かったよね」
「訓練か! ⋯⋯ここから競争するか?」
瞬はそういうと諒に向かってニヤリとする。諒はニコニコしながら返す。
「いいよ! 勝った方は団子食べ放題ね!」
「じゃあ先に行って待ってるぞ!銭入れ確認しとけよ!」
瞬は諒と目が合うとコクンと頷いた。すると瞬はスピードをあげた。それを見た諒は瞬の背中に向かって声を放った。
「あっずるい!!」
瞬と諒は次の宿場町についていた。団子屋に入ると諒はムスッとしている。瞬の目の前には団子の山がある。
「まさか山火事なのか木が無くなっているところがあるなんて思わなかった」
諒は木から木へ移るのが得意だ。地面に降りると走らなければならない。しかし途中で燃えたのか地面まで焦げていて木が無い部分があったのだ。諒は走らなければならなかった。圧倒的な体格差に走るのは不利なのだ。瞬は諒を見ると自分の目の前の皿をズイッと諒の方へ押すとニカッと笑った。
「一緒に食べようぜ! 諒はたくさん食べないといけないもんな。もちろん諒の銭だけど」
諒は瞬をじとっとした目で見ながらそれを聞くと、両手いっぱいに団子を掴み口の中へと押し込み始めた。
瞬たちは影屋敷の左殿に受付で古今鏡の間の通行証を見せると昼開がいるかどうか確認した。受付の男は奥に入ってしまった。近くで待つ。しばらくすると男が戻ってきた。
「申し訳ございません。昼開様はいらっしゃいませんでした。いつお戻りになるか分かりません」
それを聞いた瞬と諒は顔を見合わせた。
「とりあえず明日また来てみるか」
「今日は霜月さんの家に掃除しようよ。きっとホコリだらけだよ」
次の日もその次の日も昼開はいなかった。
そうしている間に霜月、成美、楓も影屋敷に帰ってきた。霜月に昼開がいないことを告げると二人に提案した。
「そうか、そしたらそろそろ一度桐生家に顔を出そう。向こうも戦があって心配しているだろう」
文を出すと霜月は二人を見てニッコリした。
「文の返事も時間がかかる。昼開先生もいないなら報告がてら緑龍とか諒龍の里とか行ってても良いよ」
二人は目をキラキラさせながら頷いた。
4日後、瞬と諒は影屋敷に戻ってきた。
瞬たちは影屋敷の左殿に受付でまた古今鏡の間の通行証を見せながら昼開がいるかどうか確認した。受付の男は奥に入ってしまった。
「今度こそいると良いね」
「そうだな」
すると二人は懐かしい声を聞いた。
「にゃーん」
二人はその声にすばやく振り返る。するとだてまきを抱いた橙次がいた。
「だてまき!!」
二人はだてまきに近づく。
「俺は無視か」
「ははっ橙次さんだ、久しぶりだよな。八傑おめでとうございます」
「ふふ、橙次さんってそんな役回りだよね。八傑おめでとうございます」
「ふん」
不満そうな顔をした橙次を見て二人は笑った。そこへどこからか霜月が近づいてきた。
「だてまき、いつから橙次と仲良くなったの?」
「こいつ勝手に俺の新居に入ってきたぞ」
「にゃーん」
だてまきは身動きすると下に降りて瞬に近づいた。足にすり寄る。
瞬は微笑みながらだてまきを撫でている。
しばらくすると男が戻って案内した。
昼開の部屋の前までくると部屋の中へ声をかける。
「昼開先生、瞬です。入ってもよろしいでしょうか?」
「久しぶりだね、入って」
昼開の声が返ってきた。
瞬は部屋へ入ると昼開が何かを読でいる姿を目にした。諒と霜月と橙次も続けて入る。昼開は書物から顔を上げた。
瞬を見たあと他の三人の方を見た。
すると霜月が一歩前へ出た。
「黒兎所属長の霜月です。瞬がお世話になっています。先日の鈴音と楓の件で動いていただき、誠にありがとうございました。これはほんの気持ちですがお茶の葉になります」
昼開はお茶の葉が入った木の容器を受け取ると蓋を開けた。お茶の良い香りが容器からふわっと漂ってくる。
「いや、私が勝手に動いただけだよ。先達者の役目ってわけだ。ほう、これは上級品だね」
「五百蔵殿の御台様が気に入っておられるお茶だそうです」
諒も近づいて頭を下げた。
「昼開先生、お初にお目にかかります。瞬と同じ黒兎所属の諒と申します」
「はじめまして、諒。よろしくね」
橙次も近づいて挨拶する。
「俺は霜月の同期の橙次です。黒狐所属です」
昼開はじっと橙次を見る。
「なんか誰かと面影があるような⋯⋯はて、思い出せないな。橙次くんだね、よろしく」




