第56-8話(番外編) ようやくの再会
緑龍の里を離れた白と瞬は白龍の里へ着いていた。
白龍の里では瞬が白龍に会っていた。
「瞬、久しぶりじゃないか!」
「白龍殿お久しぶりです」
白龍には霜月とのすれ違いから和解、夜斬家のこと、洒落頭について積もる話がたくさんあった。昼を挟んで夜までかかった。特に霜月とのすれ違いから身体を張って洒落頭から瞬を守る件では満足そうに頷いていた。
洒落頭については今表と裏で調べていることを伝えた。
「そうか⋯⋯この前の黒獅子の反乱も忍の里には大きな出来事じゃった。時期は分からないが表での大戦になるかもしれないな。忍も表を支える組織、里長会議で忍の体制も話し合おう」
「はい、これから他の里長にも報告する予定です」
「そうじゃ、黄龍ところの蒼人と言う青年がよく報告に来てくれる」
それを聞くと瞬の顔は明るくなった。
「蒼人は良いやつです。黄龍殿が後継者として育てたいようです」
白龍は瞬から視線を外すと遠い目をした。
しばらくして視線を戻すと瞬の目を捉えた。
「⋯⋯諒はどうじゃ?」
瞬は白龍の目を探る。言葉の意図が分からない。
「諒は⋯⋯この国を担う方の影武者になるでしょう。若いながら堂々とした振る舞いは五百蔵殿にも評価されている。もちろん俺たちは側近として評価されている。
霜月さんは鄧骨を討った。
そして瑛真も毫越を討った。俺は白龍殿を含めたすべての里長、霜月さん、瑛真、諒だけでなく五百蔵殿の影武者や他にも色んな人の記憶も持っています。相手の記憶を見る、それが俺の力ですから。それに無効化の力もある」
白龍は目を丸くしている。
瞬は真っ直ぐした目を白龍へ向け続けている。
「洒落頭は一番に俺を狙っています。俺が洒落頭を倒します!」
白龍は深く頷いた。そして少し下を向きながら穏やかに口を開いた。
「瞬もやはり相手の記憶をみる力と無効化を持ち合わせていたか⋯⋯秋実が瞬の姿を見たら喜ぶだろうなぁ」
「じいちゃんが?」
瞬は身を乗り出す。
白龍は目をパチパチさせて瞬を見て笑い始めた。
「そうだ、わしと秋実は昔からよく知っている⋯⋯やつは影なしの里長なのに口数がものすごく多くてな、こんなおしゃべりな人は初めて会ったわい。
瞬たちのように他の里のことも気にかけてくれた。秋実の願いは瞬へと繋がっているんじゃな」
「⋯⋯じいちゃんの願い?」
「なんじゃ、白狼から聞いてないのか?」
「俺を守るようにとのことしか聞いていません」
「はあ、あやつは言葉が足りぬとわしに言う割にあやつも言葉が足りぬ」
白龍は顔を上げた。
「秋実の願いは其方たちが平穏に暮らせることじゃ」
「あっ⋯⋯霜月さんが自分の願いはこの国が平和になることだって言ってた。あれはじいちゃんの願いだったんだ」
「はぁ、あやつはそうやって自分で背負いこむところがあるからな」
「帰ったら霜月さんに喝を入れてやりますよ」
白龍は目を見開いて口をつぐんだが、すぐに大きな口を開けて笑い始めた。
「わっはっはっ! 瞬、頼んだぞ!」
「はい! 白龍殿もお話する相手がもう一人いますよね?」
白龍は口を閉じた。
「諒にも白龍殿は言葉が足らぬと言われてしまいますよ?」
瞬は白龍と目が合うとニカッと笑った。
その後、瞬は白を白龍の里へ置いて里から出ると影なしの里へ向かった。
■
険しい岩肌も懐かしい。この殺風景を懐かしく思う日が来るとは思わなかった。
瞬は春樹殿こと里長・陽炎の家にやってくると家の外まで春樹殿が大笑いしている声が聞こえた。
(誰と話しているんだ?)
足音が近づいてくる。
玄関の戸が開くと、春樹が出てきた。
「瞬じゃないか! 入れ!」
「ずいぶん上機嫌じゃないですか」
瞬は様子を伺っている。
春樹は部屋に戻ってきた。
瞬は部屋の中にそっと入った。
座っていた相手はニコリとした。
瞬は脱力した。
「なんだ、霜月さんじゃないか」
「あれっ白狼、瞬にはまだ霜月って呼ばせているのか?」
「そうですね。瞬に白狼の記憶を消した時から霜月と呼ばせて⋯⋯そのままです」
それを聞いた瞬は前のめりになってこう聞いた。
「霜月さん、俺も白狼って呼んでいいか?」
瞬の言葉に白狼は瞬を見て目が泳いだ。
「えっ⋯⋯」
「あっ嫌だった?」
瞬は霜月予想外の反応に戸惑った。
霜月は瞬から居心地が悪そうに視線を外すと目を伏せた。
「いや、心の準備が出来てなかった⋯」
「あっはっはっ白狼、お前は乙女か!」
霜月の様子を見て春樹は盛大に笑った。
霜月は目線を上げると春樹に顔を向けて少し口を尖らせている。
「もう、春樹殿」
そこへ瞬が割り込んだ。
「白狼」
霜月は振り返った。
5歳でも8歳でもない大きく成長した瞬が霜月の瞳に映った。秋実と瞬と三人で暮らした日々が霜月の脳裏に蘇ってくる。
瞬は霜月を見た。
霜月の目は泳いでいた⋯⋯違う、目が潤んでいた。
瞬はもう一度呼ぶ。
「白狼」
「⋯⋯うん」
霜月は声を詰まらせた。秋実を刺したあの瞬間から何もかも変わってしまったと思っていた。残された瞬を自分勝手な思いで迎えに行くことになるのではないかと思った日も何度もあった。実際に迎えに行ってから、諒も加わって以前とは違うがまた楽しい日々がやってきた。
その時に愚かにもこのままこんな日が続けばいいのにと思ってしまった。秋実を刺したことを引き出しにしまって瞬から向けられる笑顔をずっと見ていたい、そんな気持ちにすがっていた。
しかしそんな日々はずっとは続かない。瞬が幼少の霜月といた日々を思い出し秋実を刺したことを知った時、その楽しい日々が永遠に失われてしまったと感じたが、実は少し安堵していたのだ。
これでもう隠すものはない。
秋実を刺した罪は消えないが、それを隠し続けた罪悪感からは解放されたのだった。しかし瞬はそのことを自分の中に受け取ってもなお、
今は笑顔を向けてくれる。
ようやく秋実を刺した時の8歳の瞬に正面から顔を向けることが出来る。そしてその時から時間を紡いで成長した瞬は目の前でまた笑顔を向けてくれる。そのことを霜月は実感した。身体中を巡るこの感覚、感情は何と呼ぶのだろうか。
霜月は胸が苦しくなって下を向いた。
霜月の様子をずっと見ていた春樹は霜月に近づくと優しく肩を抱いた。
「お前はもうあの日から抜け出したんだ。これからは皆で背負おう」
「白狼、また薪を一緒に割って一緒に風呂にも入ろう」
瞬は霜月に近づくと笑顔で言った。
霜月は眉間に皺を寄せたまま顔を上げると瞬を口角を上げた。
「あぁ、また皆で入ろう」
その時、春樹は霜月と瞬の肩を乱暴に組むと大きな口を開けた。
「わっ!」
「じゃあ今から入ろう!」
瞬はびっくりした。
「春樹殿、今からですか?」
霜月は目を丸くしたが、すぐに肩を震わせ始めた。そして声を上げて少年のように無邪気に笑い始めた。
「ふふ⋯⋯あはは、、あははは! 春樹殿、秋実先生みたい!」
それを見た瞬と春樹は微笑んだ。
風呂に入って夕餉を取ると春樹に今までのことを話した。
瞬と霜月の和解のこと
洒落頭のこと
阿道派と五百蔵派の戦のこと
夜斬家のこと
そして、これからのこと
お読みいただきありがとうございました!
次回より【最終章】!!3/6完結まで連続投稿で駆け抜けますので、
どうぞよろしくお願いいたします!
【作者のお礼】
評価していただいた方、本当にありがとうございます!!
すごくうれしいです!最終章もぜひお読みになっていただければと思います!