第56-6話(番外編・中編) 花の女子会、伊万里ちゃんに会う
瞬と伊万里は手を繋ぎながら段々の薬草の近くの小屋の縁側に座った。伊万里は瞬を見上げて頬を赤らめた。
「瞬様、前にここにいらした時のとこは覚えていらっしゃますか?」
瞬は伊万里をじっと見つめている。伊万里は瞬の目に吸い込まれそうになる。伊万里は瞬にじっと見られて赤面した。
「あっあの瞬様?」
伊万里は焦っている。瞬は伊万里の頬に右手を当てる。
(瞬様に頬を手で触れられているわ。ドキドキしちゃう)
手を当てた反対側に瞬は顔を近づけると伊万里の頬へ口づけした。伊万里は沸騰しそうなほど顔を赤らめている。瞬は真正面に伊万里を捉えた。
「こんなにドキドキするんだな。伊万里ちゃんもあの時は頬に口づけしてくれた時はこんなにドキドキしてくれたのか?」
伊万里は目を潤まさた。瞬はびっくりしている。
「伊万里ちゃん、ごめん。嫌だった? 悪い⋯⋯」
びっくりして伊万里の頬から右手を離そうとした。伊万里はそれから自分の左手を重ねた。
「瞬様、違いますの。嫌なんじゃなくて嬉しかったのです。大好きな貴方から頬に口づけをされて感極まってしまったのです」
「伊万里ちゃん⋯⋯可愛いな」
瞬は優しい笑顔を向けた。
キュン、伊万里の心を締め付けた。伊万里は左手で瞬の右手の感触を確かめると笑顔で言った。
「瞬様はいつも格好良いです」
瞬はじいっと伊万里の目の中を覗く。伊万里は目をまん丸にさせた。
「伊万里ちゃんの瞳には俺しか映っていない。嬉しいな」
伊万里はまん丸の目で瞬を見つめた。
「瞬様こそ私しか映っていませんわ」
瞬は伊万里を見ていると、そのまま伊万里に顔を近づけていった。そのまま唇に口づけをした。少しして瞬はガバッと伊万里を離した。左腕で隠したが顔を真っ赤にしていたのは伊万里からも見えた。
「ごめん、伊万里ちゃん。⋯⋯伊万里ちゃんを見てたら吸い込まれた⋯⋯」
伊万里は嬉しさのあまり固まってしまった。伊万里の考えうることを軽々と超えてしまって壊れた機械のようになった。
(瞬様ってば大胆!! 優しくて逞しくて素敵なのに大胆だなんて⋯⋯素晴らしすぎる。)
伊万里は嬉しさに浸っていた。
■
日が傾き始めた。瞬ははっと我に返ると慌てた。
「やばっ! 長居し過ぎた。早く出ないといけないな」
「早く緑龍殿の屋敷へ急ぎましょう!」
伊万里は瞬の手を握る。
緑龍の屋敷の部屋の戸が開いた。
諒がこちらを見る。
「おかえり。瞬は行けそう?」
「おう! 待たせて悪かったな」
「全然! さっき橘さんから握り飯をもらったたから後で食べよう」
諒は包みを瞬に渡す。
「ありがとな。橘さんはどこにいる?」
「分からない。探しながら出よう」
諒は振り返り楓を見た。近くに寄ると真剣な顔で諒は拳を前に出した。
「口づけを」
楓は照れながらそっと拳に口づけをした。諒は大事そうに拳を引っ込めると楓の口付けしたところに瞳を閉じながら自分の唇を重ねた。ゆっくり目を開けると楓に微笑んだ。
鈴音と伊万里はその様子を両手で顔を覆って隙間から見ていた。
瞬は伊万里に振り返った。
伊万里は慌てて顔から両手を外した。
(瞬様ともう一度抱擁したいわ。言うのよ、伊万里!)
「瞬様⋯⋯」
瞬は勢いよく伊万里を抱きしめた。伊万里は嬉しさのあまりはまた固まってしまった。そのまま瞬は伊万里に声をかける。伊万里の耳元で瞬の息遣いを感じる。
(きゃー!!!瞬様の息が耳に当たるわ。倒れそう!)
「また里に戻ってきたら抱きしめてもいいか?」
(伊万里のしてほしいことを瞬様はなんでわかるのかしら?嬉しくてまた涙が出そう。)
伊万里は瞬の腕の中で感極まりながら必死に頷いた。瞬は腕を解くと伊万里は笑顔を瞬に向けた。
「瞬様は私を喜ばせるのがお上手でらっしゃいますわ」
「俺ばっかり我慢できなくて困らせてるかと心配したが、安心した」
瞬は口を尖らせたがすぐに笑顔になった。瞬は伊万里の手を取りそっと自分の方へ引き寄せた。伊万里はゆっくり瞬へ引き寄せられる瞬は右手を伊万里の頭の後ろへ回すと優しくおでこに唇をつけた。
(瞬様!!素敵すぎますわ!!)
瞬はそっと離すと笑顔を向けた。
「戻ってきたらまたしてもいいか?」
伊万里は瞬の胸に飛び込んだ。
そして顔を胸元にこすりつけた。
伊万里は顔を上げて瞬を見ると嬉しそうに言った。
「もちろんですわ!」
瞬と諒は見送りを断って行ってしまった。鈴音は目をキラキラさせて見ていた。瞬と諒が出ていくと2人の方へ振り返ると楓と伊万里は2人を見て頬を赤らめて照れた。
鈴音と楓は伊万里に聞く。
「今日伊万里ちゃんと一緒寝てもいいかしら?」
「多分布団を付き合わせるんだけど前は夜遅くまでお話ししちゃったわ」
「まぁ、私もたくさんお話し聞きたいわ!」
伊万里は目をキラキラさせた後鼻をふんふん慣らし張り切っている様子だった。
その後、夕餉を緑龍の屋敷で取っていると緑龍が伊万里に笑いかけた。
「瞬が出かけたのに今日の伊万里は嬉しそうだね。何かあるのかい?」
「鈴音姉さまと楓姉さまと夜遅くまでお話しするのです」
伊万里は張り切って緑龍にこう返した。
鈴音が付け加えた。
「恋の話をする同志同盟です」
それを聞いてリュウリュウは笑った。
「頼もしい友だちが出来たんだね。橘、後で部屋の準備を手伝ってやりなさい」
楓は橘を見る。
「橘殿、私たちも準備した物がございます。後で見ていただければ嬉しいです」
「お気遣い感謝いたします」
夕餉が終わるとそれぞれリュウリュウへお辞儀をして部屋を出た。伊万里が先頭を歩く。
橘は二人にこっそり言った。
「伊万里がこんなに張り切っているところを見たことがありません」
それを聞いた二人は微笑んだ。
部屋へ入ると鈴音と楓は荷解きした。
「突然の訪問と成りましたのでひと通り準備して参りました。これは枕の当て布にこちらは掛け布団の布袋でございます」
楓は広げながら橘に説明した。
鈴音はよもに小声で聞く。
「使った後、布袋を置いていってもいいかしら?また伊万里ちゃんに会いに来たいの」
伊万里は目をキラキラさせて鈴音の手をそっと取り大きく頷いた。鈴音は思わず伊万里を抱きしめた。
「伊万里ちゃん、愛らしいわ!!」
「ちょっと盛り上がってないで、手伝って」
楓が振り返る。
寝る支度が終わると楓が布団にボフッと勢いよくうつ伏せになった。
「意外と楓の方が楽しみだったんじゃない」
「当たり前でしょ!私も楽しみだったわ」
伊万里は楓を見ると何かを思い出して顔を赤らめた。
「諒くんと別れる時の楓姉さまはすごく素敵でした。諒くんがあんな格好いい事をするなんて驚きです。あんな事、私瞬様にされたら⋯⋯」
鈴音が割り込んでくる。
「ちょっと待ってもう始まっちゃう?あの時は私もドキドキしたの!諒くんってさらっと格好いい事するわよね!初めて会った時もそうだったじゃない!」
「あれっ?今日は私からなの?諒は見た目は可愛いけど中身が格好いいのよ。言ってることとかさぁ、なんでそんな言い方思いつくんだろうってびっくりするわ」
楓は顔を赤くしながらこう言った。すると鈴音は伊万里に顔を近づけるとそっと言う。
「
伊万里ちゃん諒くんが楓に初めて会った時こうやってね、楓に諒くんが顔を近づけて”可愛い、じゃない面もみてよ。”って言ってね、楓の頬に口づけしたのよ!!」
それを聞いて伊万里はくらくらしている。
「その後ね、諒くんが楓に聞くのよ!”これじゃ足りない?”って!!これじゃ足りないって何??私がドキドキしちゃったわ!!」
楓が鈴音を横目に見た。
「ちょっと鈴音興奮しすぎよ。しかもよく覚えているわね」
「あんなの忘れられないじゃない!衝撃だったわよ!楓の心が掻っ攫われたんだから!!」
鈴音はカバっと顔を上げた。
伊万里は座ると深呼吸を始めた。鈴音と楓もガバッと起き上がった。二人とも伊万里の肩に手をやって覗き込む。
「申し訳ございません。伊万里には刺激が強すぎて呼吸が乱れてしまいましたわ。諒くん、すごいですわね」
鈴音と楓はホッとした。それから嬉しそうに笑った。
「今日は伊万里ちゃんのこともいっぱい聞くわよ」
「私伊万里ちゃんを抱きしめたままでいいかしら?」
伊万里は鈴音に身を預けた。
鈴音は伊万里ちゃんをぬいぐるみのように抱きしめた。
「瞬くんってば意外と大胆だったわね」
「でも見てて心が洗われるわ。癒しよね!初めからあんな感じだったの?」
伊万里は顔を赤らめた。
「はじめは諒くんから瞬様の話を聞いていたのです。とても素敵な方だって、すごい方だって。私の中でどんどん膨らんでいきましたの。初めて瞬様とお会いした時は驚きました。すごく逞しくて男らしいキリッとした顔立ちで想像以上に素敵な殿方だったんですもの。でも見た目だけじゃなかったんです。私身体強化で重たい物も楽々運べるのですが、自分の力をちゃんと使えるのはすごいって⋯⋯私の笑顔はひまわりみたいで好きだとおっしゃってくれた時私にはこの人しかいないなって確信したんです」
「瞬らしいね」
「だから瞬くんと伊万里ちゃんはぴったりなんだわ!」
伊万里が顔を赤くして胸をギュッと掴んだ。
「その後⋯⋯その後のほうがもっとすごいんですわ」
鈴音と楓は顔を近づける。
「伊万里ちゃんがそこまで言うって聞くの楽しみすぎるわ!」
「私の心も持つかしら?」
二人はワクワクした。
伊万里はその日瞬と一緒に水場で落ちたこと、その後足場が悪くて伊万里を背におんぶするため上体の服を脱いだことを話した。
伊万里はずっと頬を高揚させて時折胸をギュッと握って、たどたどしく説明した。
それを聞いた鈴音は顔を両手で隠した。楓は顔を腕で隠して聞いている。
「瞬様は逞しい身体だとは思っていましたが、直接目で見ることが出来るなんて思いもしなかったんです。瞬様は私を純粋に心配してくださっているのに、私は瞬様の裸に夢中になって悪い子なんです」
楓はガバッと顔を上げた。
「そんな事ない!瞬もそれを聞いたら喜ぶはずよ!」
「伊万里ちゃん楓の言うとおりだわ!」
伊万里は少し口をもごもごさせて下を向いた。
「実は前回お別れの前に私から頬へ⋯⋯口づけをしたのです」
「まあ!」
楓と鈴音は声を上げた。
「あっ⋯⋯そんなガツガツしていたら瞬様に嫌われちゃうかしら?」
「絶対ない!むしろ喜んでるやつ!」
「そうよ!伊万里ちゃん、すごく良いわよ!」
伊万里は顔をパッと赤らめた。何かを思い出したらしい。
伊万里はの目は潤んでいる。下を向くと長いまつ毛が見える。
「⋯⋯先ほど瞬様とお会いした時に瞬様から⋯⋯その、、口づけをしてくださいました」
楓と鈴音は近づけいた。
伊万里は手を口元に持っていった。
「唇に⋯⋯」
それを聞くと二人は伊万里に抱きついた。