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第56話-2 長月の参加(後編)

 霜月は考えていた。危険なカードだが強力なカードだ。今出すべきか⋯⋯ 


(洒落頭しゃれこうべに狙われている。少しでも瞬の守りを固めたい。)

 霜月は決意すると口を開いた。


「瞬は暗器です。その力は他人の記憶が見える」


 皆が一斉に霜月の方を向いた。真夜中のような静寂が辺りを覆った。

 霜月は続ける。


「赤龍、黄龍、諒龍、緑龍の里長の記憶を持ちます。そのため全ての里から尊助の札を所有します。また私や諒の記憶、その他多くの者の記憶を持ちます」


 霜月が瞬の力を暴露ということはその記憶を持っている重要性を伝えるということだ。瞬は出来るだけ重要なことを思い出す。そして瞬が口を開いた。


「亡くなった刺嵜殿の影武者、それに一心殿の記憶もあります」


 それを聞いた皆が一心の方を見た。

 それを聞いた一心は鋭い目で瞬を刺した。怒りというよりもその目は獲物を捕らえたような強者の目だった。


「説明しろ」


 瞬はゆっくり右手を上げた。


 皆は何が起こるのか分からず瞬が上げた手をじっと見つめて静かに見守っている。


「他人の手に触れると記憶が見えます」

「⋯⋯謀ったな!」


 それを聞いた一心は歯ぎしりした。おそらく手相を見ると瞬から提案されたことを軽く考えていた自分自身にも悔しいのだろう。霜月はこちらが優位になるように余裕を見せる必要があると考えた。そしていつもの得意気な笑みを浮かべた。


「瞬の中には今や無視できないほど貴重な情報が積み込まれています。私は瞬を最優先で守るようお願いしたいのです」


 長月は霜月と一心のやり取りを見ていた。瞬には秘密があると思っていたが予想以上に大きいものが出てきたと思った。


 さあ、一心はどう出てくるだろうか。皆は瞬、一心、霜月を交互に見ている。すると一心は霜月を見ながらニヤリとした。



「ならば瞬を殺すのはどうだ?そうすれば秘密は秘密のままだ。霜月、其の方もまだよくは動けない。このまま誰よりも早く瞬の胸を剣で貫けば良い。俺の暗器は誰よりも速いことだ。それは知っているだろう?」



 霜月の胸はドキリと変な動きをした。

(絶対に顔に感情を出しては駄目だ。)

 霜月は顔を変えずに静かに言う。


「しかし瞬には暗器の力がございます」

「だから今その話をしておろう!」


 一心は苛立つ声で返した。相手の言葉で感情を左右されるくらい反応をするということは、まだこちらにもチャンスがある。霜月は強い目で一心を捉える。

(このまま次のカードを出すしかない。ここで一心に動かれたらこちらが不利だ。)



「別の力がございます。この力はおそらく瞬しか持っていない」



 無意識だろうか、一心からはおびただしいほどの殺気が溢れてはじめた。他人の記憶が見えるという力でも驚きなのに、もう一つ力がある。しかもその力は他の誰も持っていない。それは驚きを通り越して脅威に近いのかもしれない。


 それを見た一心の側近、長月、瞬、諒は少し構え、すぐに動ける心づもりをした。


「霜月、話せ。命令だ」


 一心からのおびただしい殺気を浴びながら

 霜月は表情を変えずにこう言った。



「⋯⋯無効化の力です」



 一心は以外な言葉に思わず聞き返した。


「無効化とな?」

「相手の暗器の力を解除、無効化する力です」


 一心の側近は瞬を見る。長月は公式対戦を思い出していた。自分も無効化の力を持つ者がいるなんて想像も出来なかったうちの一人だ。そして実際にその力を目にして驚いたのだ。霜月はもうカードを持っていないはずだ。


 この力を目の当たりにして納得してもらう必要があると考えた。


 それを実演するのに自分の力はうってつけだとも感じている。そして長月が立ち上がり霜月を見た。


「手伝いましょう。瞬、少し距離をとって俺の正面へ立て。他の者に当たらないようしっかり力を使ってくれ」


 それを見た蒼人は一心の方へ近寄りながらこう言った。


「力は弱いですが私は結界を張れます。一心殿だけでも結界を張らせて下さい」

「心くばり感謝する」


 一心は蒼人を見た。蒼人は頷くと結界を一心に張った。


 そして瞬は立ち上がると長月と距離をとって対峙した。


 諒は鈴音と楓の前に動いてしゃがむ。

 長月が瞬が動き終わるとを見ると右手を前に突き出すと手の平の前に雷の玉が出来上がっていく。だんだん大きくなっていく。


 瞬は手に力を込め始めた。雷の玉が大きくなるにつれて、瞬が公式対戦で心臓が止まったことを思い出していた。そして心配になった霜月が長月へ大声を出す。


「長月、もうそれくらいでいい!」


 長月は笑みを浮かべ大声で返す。

「実演はデカいほうがいい!瞬、いくぞ!」


 長月の身体が半分ほど隠れるくらい大きな雷の玉になった。それを見てあまりの大きさに焦った瞬は大声を出した。



「長月殿!雷デカすぎるだろ!!」



 雷の玉は瞬の方へ飛んできた。雷の玉は触れれば神経が動かなくなる。つまり死ぬのだ。しかもここは部屋の中だ。自分が受け止めなければ、他の人に当たる可能性がある。それだけは避けたい。


 さらに瞬は手に力を込めている。

(ありったけの力を込めないと、次当たったら死ぬかもしれない。)



「うおぉぉぉー!!!」



 瞬の目の前に雷の玉は迫ってきた。瞬は手を雷の玉の前に突き出している。雷の玉はもう瞬の突き出した右手の平に触れそうになっている。


 そこへ瞬の手に触れる直前に雷の玉はスッと消えた。雷の玉と一緒に音も消えたかのように誰も音さえも立てない。


 その様子を見た一心は腰を浮かせていた。

 長月は満足そうな顔をした。そして肩の力を脱いて一心を見ると深々とお辞儀をした。霜月は瞬の力を誰もが分かるような大きさの攻撃をしてくれた長月の配慮を理解した。


(それにしてもやりすぎだろ。)

 霜月は長月を呆れた顔で見た。

 誰もが瞬の力を目の当たりにして口を開けない。

 そこへ長月が静寂を破った。


「私は霜月との支配権を巡って公式対戦を瞬と行っております。結果は相打ち。二人とも瀕死の状態まで追い込まれました。⋯⋯幸いそこにいる諒に助けられました」


 一心が長月と瞬を交互に見る。そこへ霜月が援護射撃する。


「私が刺嵜殿の影武者を討ったとき、瞬が狼獣化した彼を素手で止めてくれました。⋯⋯そのおかげで私は彼を地獄牢へ送ることが出来ました」


 一心が呟く。


「地獄牢⋯⋯」

「幻術使いの高等技術。幻術を手に込めて対象者へ向けて力を放つ。地獄牢を食らったものは必ず術者が想像する地獄へ引き込まれて苦しみながら痛みに耐えかねて死ぬ」


 霜月は一心に向かってニッコリ笑った。この牽制が上手く効いてくれるといいが⋯と霜月は心の中で願った。


「瞬と長月と諒の協力があればここで一心殿を地獄牢へとお送りするのも⋯⋯論理上は可能です」


 一心の目に怒りがこもった。しかし霜月が本気でないのを感じだったのだろう。スッと冷静な目に変わってこう言い捨てた。


「そのへんにしておけ。瞬の力はここにいる全員が分かった」


 霜月は頭を下げる。


「大変失礼いたしました。先ほどのはただのたらればの言葉遊びにございます。長月が私を裏切って攻撃してくるかもしれない。それも論理上は可能です」

「⋯⋯おいおい、俺を巻き込むな」


 長月が霜月を諌めた。しかし長月はそれもフリなだけなことを分かっていた。一心は頃合いを見てまとめる。


「話は戻すと洒落頭しゃれこうべと上岡永生についても調べる必要があるな。こちらでもあいてる者に表を探らせよう。影屋敷の方は瞬や霜月に任せる」


 一心はテキパキと話をまとめていたがそこで口を閉じて瞬を見た。視線を感じた瞬も一心を見た。一心の目は何かを探っているような目だった。


「⋯⋯どこまで見たのか?」

「⋯⋯基本的には記憶の中のことは個人的なことなので本人にも直接話してもらうまで、俺からは言いません。俺も言われたら嫌なので。しかし、ここでお話してもいいですか?」

「やっぱりいい」


 一心は短く言い捨てると戸の方へ向き直り部屋を出ていった。残った者は一心と側近が出ていって戸が閉めると緊張が一気に解かれた。霜月は幻術を張り直す。

 すると瞬は霜月の目の前に走ってきた。


「霜月さん、俺結構話しちゃったぞ」

「僕もこんなに話さなければいけないとは思わなかった。やはり一心殿は手強いな」


「俺は肝を何度も冷やした」


 長月も霜月に近づいてくる。瞬は長月を見ると長月に噛みつく勢いで不満を告げる。


「あっ! 長月殿ひどいぞ、あんなデカい雷使ってくるなんて俺を殺そうとしたのかと思った!」

「わっはっは、あれくらいインパクトがないと一心殿は納得しないと思ってな。しかし俺も雷の玉を大きくしすぎて途中で心配になったよ。しかし前より強くなったな」


 鈴音はこっそり諒に声をかけた。


「白狼っていつもあんなに好戦的なの?」

「いつもあんな感じだよ。鈴音さん知らなかった?」

「まぁ!」

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