表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/137

第56話-1 長月の参加(前編)

 影屋敷の支配権を移動してから一心は帰っても良いと伝えた。霜月はようやく身体を動かせるようになった。瑛真は起き上がれるようになったがまだ左腕の付け根が痛むようだ。基本的に影屋敷や桐生家、忍の里への連絡は蒼人が引き受けてくれた。


 蒼人は忙しいようで瞬たちの元へ顔を出してもすぐに出かけてしまう。今日は少し時間があるようでお茶を飲んで休憩していた。すると蒼人は周りをキョロキョロ見ている。瞬はその様子を見て蒼人に尋ねた。


「蒼人、どうかしたのか?」

「あのさ、噂話を小耳に挟んだんだけど⋯⋯」


 そう話し始めると瞬、霜月、諒は好機の目を向けてきた。それを見た蒼人が瑛真の布団の近くに皆を集めると声を落として話し始めた。


「皆はさ、阿道派と五百蔵いおろい派の大戦おおいくさで光原の怨念が出た話を知ってる?」

「あぁ、光原って阿道殿を討つ謀反を起こしたやつだろ?」


 蒼人は皆の反応を見た。


「その反応、瞬と諒は知ってるのか」

「⋯⋯悪い、俺は戦場で有馬からその話を部分的に聞いていた。戦が終わってすぐは霜月さんも瑛真も意識が無かったし、言うタイミングがなかったんだ」


「僕も清隆から噂は聞いていたけど、皆それぞれ違うこと言うみたいでよく分かんないんだよね」


 瞬は影屋敷で直接橙次から聞いたことを思い返していた。橙次から聞いたこととその噂の張本人が橙次であることも何となく口に出せなかった。


 あの時の橙次の様子からまだ自分の本当のことを言いたくないように感じたからだ。そこに怪我で部屋から出られない瑛真と霜月は皆を交互に見ている。おそらく二人は知らないようだった。それを見て蒼人は説明を続ける。


「そうだよ、そもそも阿道殿の謀反の後光原を見た人はいなかったんだ。逃げ切ったのか、どこかで息絶えているのか誰も分からない。


 その光原が戦場にいたんだって。光原は自分だと分かる鎧を着ていたんだけど、何故か自分の味方である天壌軍と妙禅軍を攻撃したらしい。その様子を遠くで見ていた者がいたんだが阿鼻叫喚の地獄絵図みたいで側近みたいな実力派もいたのになすすべもなくやられて辺りは血の海と化したらしい。


 何か光原は並々ならない怨念を持ったまま死んでしまったからその怨念を晴らしに来たんじゃないかって話だよ。その証拠に二人の側近が何人も戦から戻ってこなかったみたい。


 しかもその鎧はその後戦場から消えて、しばらくしてから光原の屋敷の庭で見つかったんだって」


「えー怖すぎ!」

「でも天壌軍と妙禅軍だけなんだね。一番狙われるのは五百蔵いおろい軍のような気がするのに」


 諒は瞬の後ろに隠れたが、その話を聞いて戦場でおぞましい殺気を放っていた橙次の姿を思い出していた。瑛真は周りの皆の様子を見ている。霜月も口にはしないが何かを考えているようだった。そして瞬はそれを静かに聞いていた。その後蒼人はお茶が飲み終わると立ち上がってこう言い残した。


「続報があったらまた伝えるよ」



 一心との決闘から数日後に招集がかかった。瑛真は青雲が近くで控えていた。瞬は諒の横へ控えた。反対側は霜月、その横に鈴音、楓が座る。


 戸が開いた。

 一心が側近を引き連れて入ってくる。真ん中に座ると戸の方へ声をかけた。


「入れ!」


 その声にある者たちが入ってくる。


 瞬たちは目を丸くした。長月が正装で入ってくる。その後ろ朝陽と夕陽がいる。それ以外に体格の良い男が四人ついてくる。長月たちは一心の前に立ったまま待機する。瞬は長月の後ろを歩くある男が目に入ると思わず片膝をたてて呟いた。


「有馬⋯⋯」


 戦の時に瞬が戦った幻術使いだった。

 有馬は瞬を一瞥したが口は開かなかった。

 一心はちらりと霜月に視線を動かした。

 戸が閉まると一心が口を開いた。


「霜月、術を張れ」


 霜月は部屋の周りに幻術を張った。

 一心は長月に向かって頷くと長月が着席した。それに倣って後ろの者たちも着席した。


「余に加わった葛城かつらぎだ。影武者は長月だな。其の方らも知っての通り影屋敷の八傑。力量も申し分ない。支配権の移譲も完了した。刺嵜と金土の代わりに側近の軍として組み入れる。長月、余のために精進せよ」


 長月は真っすぐ一心を見据えると頭を垂れて返事をした。


「はっ!」

「正式な挨拶はまた後日行う。それまでは表御殿の麒麟の間を使うがよい。今日はこれで行事は終了とする。楽にしろ」


 そう言うと一心は瞬の方へ顔を向ける。


「それから有馬と戦ったのは瞬であったな。敵ながら情けをかけられたと有馬が不満を漏らしていた。それと同時に白若⋯⋯桐生家がこちらについたことを喜ばしく思う内の一人だ。有馬の希望もあり長月の側近となった」


「一心殿には手厚い配慮を頂き、長月様には事前にお目通りさせて頂いた。私の主君として申し分ないと判断いたしました。瞬、あの時は武器に毒を使わないでくれたこと感謝する。共に仲間となることを喜ばしく思います」


 有馬は静かに説明するのを瞬は見ていた。瞬は有馬も目が合うと口角を上げてお辞儀をした。一心と長月は満足そうな顔をしていた。そして一心は霜月を一瞥した。


「霜月、余は無理矢理に長月を加えたわけではない。長月の方から提案があったのだ。誤解するな」

「⋯⋯分かりました。長月からの提案なんですね」


 霜月は冷ややかな目で一心を見ていたが、一心の言葉を聞くとホッと息をついた。すると長月も霜月の方を見ると口を開いた。


「霜月、支配権返上の配慮について感謝する。影武者登録期限が差し迫ってきたのと、影屋敷から依頼があったため最大限の処遇を受けられることもあり話を受けた。先の通り有馬の面談など実力のある側近の選考や待遇も配慮した形で行ってもらえた。これが考えられる選択肢で最良だ。また仲間としてよろしくな」

「長月はそれでいいのなら味方の方が安心です」


 霜月は長月にそう言うと一心の方を向いた。


「一心殿このあと少々お時間はございますか?」

「話せ」


 霜月は一礼した。


「長月を組み入れるということは本格的に戦の準備ということでしょうか?」


 一心は口角を少し上げた。


「今は高原、西島への牽制だけだ。其の方や瑛真の怪我が治っていないのに戦を仕掛ける利がない」

「承知しました。そうしましたら情報共有したいことがございます。一心殿は洒落頭しゃれこうべをご存知ですか?」

洒落頭しゃれこうべ⋯⋯影屋敷で一番強いと言われる者か?余の周りも誰も見た者はいない」

「⋯⋯小柄な少年もですか?大きな黒い羽織を着ている」


 それを聞いた一心の目が鋭くなる。

 空気ががらっと変わった。一心は身を乗り出した。


「⋯⋯見たことはない。其の方は会ったことがあるのか? 詳しく話せ」

「半年ほど前に忍の里では黒獅子の里と言う新しい里を興したものがおりまして若い有望な者を集めて腕を磨いていました。その者たちが他の里へ反乱を起こしたのです。その里の長・黒獅子は影屋敷の洒落頭しゃれこうべと同一人物だったのです」


 そこで霜月は口を閉じると瞬の方を見てこう言った。


洒落頭しゃれこうべは小柄な少年の見た目をしております。しかし性格は残虐で特異。そこにおります瞬が殺されかけました。彼いわく瞬が一番のお気に入りだそうです。そして私、諒、瑛真もやつに狙われている」


「霜月さんは俺を守るために大怪我をした。霜月さんが守ってくれなかったら俺は心の臓をもぎり取られていた」


 そこへ瞬は口を挟んだ。諒も洒落頭しゃれこうべについて付け加えた。


「死者の大軍。何らかの方法を使って死者を動かすことが出来ます。その死者の大軍に私どもを加えたいようです」

「他の幻術とは違う実体のようなものがある人形も使います。俺が実際に戦いました。悔しそうな姿や彼の言葉に感情的に反応すると⋯⋯喜びます」


 瞬は洒落頭しゃれこうべとのやりとりを皆に共有した。そして諒をちらりと見ると手が震えていた。そこで瞬はその手の上からそっと手を乗せた。すると諒は瞬を見た。一心は洒落頭しゃれこうべについて瞬たちから話を聞くと腑に落ちないように口をへの字に曲げている。


「ふむ、霜月が大怪我をするくらい強いのか。その腹の傷がそうだな?」

「やつの骸骨のように変形させた手は背中まで貫通しました」


 それを聞いた一心の側近は息を呑んだ。

 長月はそこへ口を開いた。


「霜月より依頼されて影屋敷の中で情報を集めましたがほとんど有力な情報は公開されておりません。仕える御方の名前は”上岡永生”と言う者です」

「かみおか⋯⋯えいしょう⋯⋯聞いたことないな」

「表でも名前を探しましたがそのような者の記録はどこにもございませんでした」


 部屋の中の空気はズンと重くなった。

 その空気に切り込んだのは瞬だった。


「昼開先生は史料に精通しております。先生の持つ史料の中には洒落頭しゃれこうべの影屋敷への登録は50年ほど前でした。おそらく上岡永生の影屋敷での登録も似たような時期かと思われます」


 その場にいた皆は瞬の方を見た。


「50⋯⋯年とは⋯⋯驚いたな」


 一心が思わず言葉をこぼした。霜月は手を口元に寄せた。瞬の方を見ながら口を開いた。


「それが本当なら少なくとも齢60にはなる⋯⋯可能なのか⋯⋯? 瞬、昼開先生のは他には話したかい?」

「いいえ、でも昼開先生のいる古今鏡の間への通行証をもらいました。もう一度探ってみます」


 一心は瞬をじいっと見た。


「瞬⋯⋯影屋敷に影響力のある昼開殿を懐柔し情報を入手してくる其の方は何者なのじゃ?」

「まだ霜月さんに報告していない内容です⋯⋯。こんな形で話すとは思わなかったので⋯⋯」


 瞬は霜月の方へ目配せした。

 霜月も内容を聞いていないので判断がつかないようだ。しかし瞬が戻ってきてからすぐに報告がなかったということは火急の用件や、秘密にしておかなければならない重要度はそれほど高くないのかもしれない。


 そう考えると、今は情報を開示するほうが優先と考えたのだろう。霜月は少し間を置いて迷っていたが頷いた。それを見た瞬はぎゅっと口を閉めるとゆっくり開けた。



「一心殿は影屋敷と忍の里の関係をご存知でしょうか?元々は一つの組織だった。当時の主たる家々が話し合って忍の中から影武者に特化した組織を作ったのです。しかし今は影屋敷と忍の里は軋轢があり相容れない存在です。その二つを結ぶのが当時から続いているのは昼開家と夜斬よるきり家です。昼開家は影屋敷の中で影屋敷の情報収集と全ての記録を行い、歴史として明らかにする。夜斬家は忍を統べる存在で、忍の里で影屋敷以外の情報収集をして昼開家へとつなぐ」



 瞬から説明されることは誰も知らなかったことだ。皆は瞬を見て静かに聞いている。そして瞬は説明を続けた。


「夜斬家はある条件下で誕生する器に昼開家の持っていない情報を封印する。その封印は夜斬家のみ行うことが出来、それを解放することは昼開家のみが出来る」


 瞬は胸に手を当てた。


「そう、俺が夜斬家の器だ。封印は俺のじいちゃん・先代陽炎が行った。一心殿との対決で昼開先生に解放してもらい情報を渡した」


 それを聞き終えると誰もが言葉を失っていた。霜月も驚いていた。秋実先生からその話は聞いたことがなかった。情報を収集する点、瞬が他人の記憶をみることが出来る能力はここに繋がっていたのか、いや、ここから繋がっていたんだ。霜月は考えていた。



 危険なカードだが強力なカードだ。今出すべきか……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ