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第54話-2 瞬の意地(後編)

 町の近くは舗装された道も多く走りやすかったがさすがに山道に入ると注意して進むしかなかった。隣の宿場町につく頃にはすっかり明るくなっていた。そして隣の宿場町を過ぎて山道に入る。


 瞬は山道の広まったところで止まった。

 少し遅い朝餉になったあ。皆は各々宿屋でもらった握り飯を食べ始めた。瞬は茜の隣に腰を下ろした。


「暇なら瑛真と一樹の決闘の話聞くか?」

「うん、聞きたい」


 茜は大きく頷いた。

 瞬が話し始めると時折、茜の顔は青ざめたりハラハラしたりホッとしたり少しずつ表情を変える。最後に炎風を出した話をすると、目尻を下げて嬉しそうに微笑んだ。そして茜は思わず言葉がこぼした。


「瑛真、すごいね」


 今度は茜の馬に楓が乗る。楓の身体は茜にピッタリとくっついている。


「楓は⋯⋯密着してるね⋯⋯」

「茜、それはどういう意味なの?」

「いや、鈴音とはまた違ってここまで密着すると少しドキドキする⋯⋯」


 楓は茜の背中を見た。


「私、落ちたくないからしっかりつかまるわよ」

「⋯⋯大丈夫だよ」


 瞬は馬を走らせ始めた。

 後ろから茜の声が聞こえる。


「瞬、ここは真っすぐの道じゃないのか?」

「昨晩、黄龍殿から聞いた近道で行く。早ければ昼頃には五百蔵いおろい城へ着ける」


 瞬は茜の方へ少し顔を傾けて声を上げた。

 茜は頷いた。


 道中は道なき道だったが道はなだらかで進みやすい。草は膝くらい生えているが馬に乗っているのでへっちゃらだ。茜は満足そうな声を出した。


「こんな道があったなんて。これからの任務ではこちらを使おう」

「俺も初めて使った道だけど、進みやすくて近道だな。それはそうと昼はどこで取るか?」


 瞬の問いかけに三人は口を揃えてこう言った。


五百蔵いおろい城の城下町!」



 昼頃、城下町がようやく遠くに見えてきた。


「わぁ、あれが城下町ね」

「遠くに城が見えるわ!あとであそこへ行くのね!」


 少し進むと山道から舗装された道へ移動した。そして瞬たちは城下町へ入った。影屋敷よりずっと大きくて人も多く賑わっている。鈴音たちはキョロキョロと周りのお店の軒先に置かれている品物や店の看板をしながら進んでいる。


「わぁすごく大きいわね」


 鈴音が指を指す。


「あっお団子屋さんがある。ご飯食べたらお団子食べたい」

「鈴音って意外と食べるわよね」

「だって美味しいんだもん。ペロリって入っちゃうわよ」


 今度は楓が指を指す。


「あっ簪屋さん!あとで行きたい」

「楓、さすがにその時間はないわ。帰りに寄りましょう」

「そうよね。帰りで大丈夫よ」

「いや、昼飯を食べて団子を食べたら寄ろう」


 瞬は口を挟んだ。

 一行は団子屋を出ると楓がおずっと聞いた。


「本当に簪屋さん寄るの?」


 瞬は懐の銭入れを外に出さないまま振った。


 ジャラジャラ


「まぁ、すごい音がするわ!」

「霜月さんからたんまり銭を受け取っている。賄賂を贈ってでも許可証を取ってこいって意味だったんだと思う。これで呉服屋と簪屋へ寄る」


 三人は意図が分からず瞬を見ていたが、瞬は三人を見ると企んだ笑顔を見せてこう言った。 



「皆を驚かせようぜ」





 時は少し戻ること瞬と橙次が五百蔵いおろい城から出発した後、諒は霜月からなぜ瞬が鈴音を連れて来られないか理由を聞いた。白は思わず一心を睨む。


「まぁまぁ、そうまでしても其の方らを買っているんだ。それはそうと清隆が会いたがっていたぞ。ここへ通しても良いか?」

「清隆が? もちろん大丈夫です」


 しばらくすると清隆が入ってきた。一心は二人を霜月、諒、蒼人に紹介する。


「こっちは清隆、白若として諒が戦った相手だな。影屋敷の所属だから安心して話すが良い。霜月、また7日後に来る。それから支配権の移譲は終わった。もう好きに動いても良い」


 一心はそう言うと側近たちと部屋を出ていった。清隆は部屋の奥を気にしている。諒はそれを見るとあの日わーわー言いながら諒の後をついてきたことを思い出していた。


そして血まみれになって腕を失っていた瑛真の傷口を止血するように清隆の暗器の力である木の枝で包んでくれていた。


おそらく気にしているのは瑛真についてだ。諒はそう思い清隆にこう聞いた。


「清隆、もしかして瑛真を探してる? ほら妙禅(扮する毫越)殿を討った僕たちの仲間。清隆が傷口を止血してくれたの」

「おぉ、そうだ。瑛真だ。ここにいるのか?」


 清隆の言葉を聞いて諒は立ち上がると清隆を瑛真の元へ連れて行った。


「瑛真はまだ目を覚ましたばかりなんだ」


 瑛真は目を閉じて横になっていた。


「良かった」


 清隆は状態がどうであれ切り落とされた左腕がちゃんとくっついているのを確認し、穏やかに眠っている瑛真の姿を見ると安心したようにそう呟いた。その様子を見た霜月が清隆に声をかける。


「君が瑛真の応急処置をしてくれたんだって?」

「あっはい、そうです」


 そう声をかけられて清隆は霜月の方を向いた。霜月は清隆に近づくと頭を下げた。


「恩に着る。瑛真を救ってくれてありがとう」

「この人は霜月さん。天壌(扮する鄧骨とうこつ)⋯⋯殿を倒した」

「えぇっ? あの天壌(扮する鄧骨)殿を討った?」

「天壌(扮する鄧骨)⋯⋯殿は霜月さんの逆鱗に触れたんだ。チョー強いから注意してね」


 諒は清隆が変なことをしないように先回りをして灸を据えた。清隆はそれを聞いて目を丸くしている。そして霜月は清隆を見るとニッコリとした。  


「今は味方同士⋯⋯仲良くしようね?」

「はいっ!」


 清隆は背筋を伸ばして元気よく返事をした。それから清隆は毎日瑛真の様子を見に来た。時間のある時は庭に出て諒と軽い手合せをしたりした。もちろん暗器は無しだ。



 そんな事をしていると7日目になった。諒は朝からソワソワしている。昼になって思わず言葉を溢した。


「瞬、遅いね」

「粘ってくれているのかな? 影屋敷は制度に厳しいからなぁ」


「今日、帰ってくるんだろ? 俺のために⋯⋯苦労をかけたな」


 諒は瑛真のそばまで駆け寄ると瑛真の手をぎゅっと握った。


「仲間のためなら瞬はいつだって全力で動くよ。瑛真は気にしないで」


 諒は瑛真の左手は動かないままだった。

 諒は思わず戸を開けて外を見に行った。太陽が傾きはじめた。


「空が橙色に変わってゆく⋯⋯」


 太陽がいなくなったらそこまでだ。


 戸が開いた。部屋の中の者たちはガバッと振り向いた。一心とその側近たちだった。白は壁際に移動すると居住まいを正して頭を下げた。


「まだ瞬は帰ってないのか? あと四半刻で約束の時間じゃぞ」


 一心は真ん中に座ると満足そうに霜月、白、蒼人を見た。


「また公証人を呼ばねばならないな」




 まだ戸の前に瞬は現れない。

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