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第9話 諒の暴走

この日、瞬と諒は取りあえず元いた場所の方まで戻ることにした。走りながら諒は瞬に伝えた。



「瞬は情報屋を使ってたんだね。僕初めて行ったよ。」

「一人で任務に就いてしばらくしてから知って使い始めたから7年近いぞ。」

「よおし、僕も頑張らないとだ!」



前を見据えて諒は気合を入れているその目はキラキラしていた。

それを見た瞬はにやにやした。



「じゃあ今日はこうやって身体を動かす訓練はどうだ?」

「えっ?」

「捕まえてやる〜!」

「きゃー!」



瞬は諒を追いかけた。諒は身軽にぴょんぴょんと木々を伝って逃げていく。追いかけっこをしながら二人はどんどん来た道を戻っていく。そうしているうちにお腹が空いてきた。



「諒、そろそろ飯食うか?」



瞬がそう聞くと諒のお腹が丁度よく、ぐううううと返事した。



「あっはっはっ!諒の腹は正直者だな⋯⋯さぁ飯にしような。」

「もー!」



恥ずかしかったのだろう、諒は真っ赤になって瞬に怒っている。昨日の夜霜月に食べ物をもらっていた。それからシシ爺のところから山道に入るところで団子を買っていた。三つほどその時に食べたのだが、持ち帰り用にたくさん買い込んでいた。昼はその団子と木の実だ。諒の目の前にたんまり食べ物が置かれた。諒はじとっと瞬を見た。



「なんか僕のご飯多くない?瞬と同じくらいあるよ。僕そこまで食いしん坊じゃないよ?」

「⋯⋯いや、霜月さんから言われたんだ。諒は強くなりたいみたいだから、たくさん食べさせてくれって。」

「ふ~ん、そうかぁ。強くなれるかなぁ⋯⋯。」



諒は腑に落ちないようだ。強さと食べ物とどう繋がるのか分からないようだった。

そこで瞬はこう付け加えた。



「あっあと大きくなれる。」

「食べる。」



諒は目の色を変えて、手に持ったものを必死に口に入れ始めた。瞬は諒にゆっくり食べるよう忠告したが案の定シロは木の実が喉に詰まった。苦しそうに下を向いて耐えている。何とか飲み込むとぜーぜーと荒い呼吸を2、3回した後ふーと深呼吸した。



「食べるのって大変だね。でもたくさん食べれば瞬みたいに大きくなれるかな?」

「うーん、成長次第だな」



瞬と諒は鬼ごっこから木登りをしたり、木から木へ飛び移ったりといろんなことをやりながら戻ってきた。忍じゃなくて表の世界で生まれていれば、こんな毎日を過ごせるのかなって瞬も諒もそう思ったがそれは口にしなかった。それはあまりにも儚い夢だったから冗談でも口に出来なかった。こんな日々が続けばいいのにと口にしたいけど二人は口にしなかった。

何も言わなければずっと続くような気がしたから。




2日目の夜は二人にとって複雑な気分だった。明日の夕方に霜月と合流する予定なのだ。



「諒、寝れないのか?」

「うん⋯⋯」



諒は歯切れの悪い声を出す。そしてガバっと起きて瞬の横に座ると念を押した。



「僕の強くなるからね。瞬とちゃんと並べるようになるからね。」

「それは明日からで良い。今日だけはゆっくり眠ろうぜ。」



最近、諒はこればっかり言っている気がする。瞬は諒の頭を雑に撫でた。

人生で最初で最後の穏やかな夜になるかもしれない、諒に伝わるといいなと思い瞬は諒の瞳を見据えた。すると諒と目があった。諒はもじもじしながら少し目を伏せがちにしている。



「なんだ?トイレか?」

「あのさ⋯⋯今日だけ⋯⋯瞬にくっついて寝てもいい⋯⋯かな?」

「もちろん!ただし今日だけな。霜月さんに見られたら怒られるかもしれないからな。」

「ふふ、ありがとう。」



瞬も微笑んだ。諒は瞬にくっつくと程なくして重たくなった。安心して眠ってしまったようだ。瞬は穏やかな諒の寝顔をしばらく見ていた。今日だけは夜が明けなければいいのにと瞬は心から願った。




願いは虚しく朝日が昇ってきた。二人は昨日までと打って変わってさっぱりした顔をしている。瞬は起きてきた諒を見た。お互いニッコリして挨拶する。



「諒、おはよう。」

「瞬、おはよう。ねえせっかくだから、今日は霜月さんを驚かせるような特訓しない?」

「おっそれいいな。今までやったことない訓練か⋯⋯。」

「⋯⋯ねえ、瞬は霜月さんと組手みたいなのやってるよね。あれはどうかな?」

「俺は対人戦闘の技術があまりないから霜月さんが結構入れてくるんだよ。霜月さんの組手は容赦ないから大変だけどな。」



諒と話した結果、午後に組手をすることになった。

午後になって組手のルールを再確認した。



「訓練で怪我をしたら霜月さんに怒られるから怪我をしないように武器無しで諒は暗器も無しでいこう。それにそれとシロは40センチくらいあるか?とにかく身長差があるからハンデをつけよう。」

「初めてだしハンデ無しでやりたいな。それに僕は瞬とどれくらい力が離れているのか知りたい。」



諒は瞬を見据えた。

瞬は口を開いたが言葉を飲み込んだ。



「⋯⋯分かった。止めたい時はすぐに言えよ。」



瞬の心配は諒には届かなかないまま、組み手は始まった。

諒が間合いに入る前に瞬は蹴りを出して牽制する。武器も無いから諒の手も足も物理的に届かない。諒が力で押しても瞬はびくともしない。

体格差、筋力差、経験の差などから諒は全く刃が立たないのは火を見るより明らかだった。諒は唇を噛み何度も挑戦する。何度も瞬からの攻撃が当たりを地面に倒れる。赤子の手を捻るとはこういう事を言うのだろう。



倒れるたびに諒の心の中に熱いものが溜まっていく。涙が思わずこぼれる。

諒は下を向いて袖口で素早く拭く。そのうちに瞬に馬乗りになられて手も足も出なくなった。

泣きたくないのに涙が溢れてくる。

涙は止まらない。

悔しい⋯⋯いや、瞬とこんなに力差があって見捨てられるんじゃないか怖かった。暗器があっても剛との戦いはほとんど瞬に手伝ってもらった。

僕がこんなに弱くなければ瞬は剛から猛毒をもらうことも死の淵で苦しむこともなかったんだ。

僕がもっと戦えていれば、“お前すげーな”って瞬に褒めてもらえたかもしれない。

暗器に頼ってばかりでは駄目なんだ。体格差があっても体術も磨かないと役立たずのお荷物になってしまう⋯⋯。



瞬は組手を始めてから我慢していたが攻撃を止めて立ち上がる。

そして痺れを切らしてこう伝えながら瞬は諒から離れた。



「もうやめよう。こんなの訓練じゃない!」

「やめない!瞬、ちゃんとやってよ!」



諒は不甲斐ない自分に怒りを覚え、仰向けになりながら瞬に怒りをぶつけてしまった。申し訳ない気持ちが溢れてくる。

そこにどこからともなく霜月がやってきて諒の横に立った。そっと膝を着いてしゃがむと右手をそっと諒の左肩に置いて優しく諌めた。



「諒、心をそうやって削るのはやめよう。」



霜月は瞬の方を見るように促すと瞬は右下を見ながら立ち尽くしている。瞬の顔が見えない。でも両手が固く握られていることに気がついた。



「瞬だって心を削ってるんだ。お前との組手に付き合ってやりたくもない攻撃を何度もして、見たくないお前の痛がる姿、泣く姿を見て何も思わないと思っているのか?何も感じていないと本当に思っているのか?」



段々と霜月の語気が強くなった。



「何をそんなに焦っているんだ?この前、瞬の暗殺任務を見てからだろう?」



そこで霜月は口を閉じた。瞬が顔を上げて霜月を見る。霜月も瞬を見ていた。



「⋯⋯そうなのか?」

「瞬、ごめんね。僕が依頼した玄磨の仲間の暗殺を諒に見せたんだ。君のことをちゃんと知ってもらいたくて。」



霜月はいつもの穏やかな調子に戻っていた。諒から嗚咽が漏れる。諒は気が動転しているようだ。



「瞬、ごめんね。僕が弱いから剛との戦いだって足を引っぱったし、暗器としてもまだまだ弱いからこのまま置いてかれちゃうんじゃないかって思って⋯⋯。まだ脱里もしてないし愛想を尽かされちゃうんじゃないかって怖いんだ⋯⋯。」



諒はすがるように瞬を見た。



「⋯⋯ぼく⋯⋯僕強くなるから瞬は置いて行かないで⋯⋯。」



瞬は驚いた。諒の記憶にはそんなものは無かった。何かのトラウマなのだろうか諒は強迫観念に駆られているようだ。瞬は困惑した顔をしている。

瞬は言葉に詰まった。



(何と伝えれば諒に伝わるのだろうか⋯⋯。)



霜月は諒に置いた手でぽんぽんと優しく叩いた。



「諒、そこでちゃんと見てて。」



穏やかに言うと、瞬の方を向いてこう告げた。



「瞬、おいで。悪いけど諒のために人肌脱ごうじゃないか。諒の為に心を砕かせてね。」



後にこの事を思い出すと、瞬は鬼が実在するならこの時の霜月だと即答できると思った。霜月と瞬は諒から少し離れて向かい合うと簡潔に手合いの条件を説明した。



「武器無し、手加減なしでおいで。致命傷は避けてあげる。

瞬が動いたら始めよう。」

「おう。」



瞬は左の方に動いた。目の前に霜月が間合いを詰めていた。霜月のパンチが瞬の顔に当たる。瞬は思わず右手で顔をガードする。左から蹴りがくる。ガードは下げす腹で受ける。



「がはっ⋯⋯」



鉄が当たったような重さだった。瞬は両手で顔をガードする。



「瞬、ガードも良いけど相手が武器を持っていた場合は駄目だよ。」



霜月は後ろに離れた。霜月は瞬の方に手を伸ばして手の平を空に向けると内側に曲げる。

瞬に攻撃しておいでと言っているように見えた。

瞬は間合いを詰めると右脚のハイキックを繰り出す。霜月は左手でガードし右手で瞬の右脚を掴む。その勢いを使って右脚のミドルキックを瞬の脇腹にねじり込む。



一方的だった。



先ほどの瞬と諒の手合いのように霜月は瞬の攻撃をやすやすと避け、自分の攻撃を当てた。

10分以上続いている。多分瞬は霜月に止めと言われるまで続けるだろう。瞬は何とか霜月から離れるとポケットに手を入れ何かを出した。霜月はルール違反で武器を取り出すのかと警戒したその一瞬を逃さなかった。瞬の手は空だった。

その両手で霜月の頭を掴むと頭突きを食らわせた。

霜月は一瞬怯んだが瞬より早く動いた。霜月も瞬の頭を両手で持つと膝を顔面に勢いよくぶつようとした。その時、諒は涙と鼻水でぐしょぐしょにした顔でこう言いながら、こちらによたよたと近づいてくる。



「霜月さん、もうやめて!瞬を離して下さい。⋯⋯お願いがいします。」



霜月は瞬の顔に当たる寸前に膝をピタッと止めた。当たる覚悟をしていた瞬はそーっと目を開ける。すぐに霜月は瞬の頭から手を離した。顔を上げて諒を見る。



「そうだ、諒。お前の言葉や行動は瞬にそうやって使うんだ。傷つけるためじゃない。」



そう言った霜月は諒は見つめていたが瞳の奥に優しさがあるように思えた。

瞬はボロボロになった身体を引きづって諒の目の前までやってくると右手を前に出した。



「俺はお前を見捨てたりも置いていったりもしない。諒とずっと一緒だ。霜月さんと俺に守られたくなかったら一緒に強くなろう。⋯⋯仲直りってことでどうだ?」



諒はそっと瞬の手に触れると大事そうに左手を添えて消え入りそうな声で言った。



「⋯⋯ありがとう。」

「仲直りでありがとうは無いだろ?」



瞬は茶化してくる。諒は涙と鼻水でぐしょぐしょにしながら顔を上げて顔のいたるところが腫れあがってボロボロになった瞬を見るとぽそっと言った。



「⋯⋯ふふ、瞬もひどい顔してる。」

お読み頂きありがとうございます!

次回は白龍の里へ戻る間の話ですが、なんだかいろいろあるんです。

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「おかえりなさい、霜月様!」

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