第53-5話(番外編) 女子会
鈴音と楓はせっせと布団を敷き始めた。
「こう、うつ伏せで顔を合わせられる方がいいわよね?」
「うん、これで良いと思うわ!」
「茜ちゃんと瞬くんはそれぞれここね」
鈴音は茜と瞬の布団を勝手に決めると二人の布団らしい上をポンポンと叩いて布団に入るよう促した。
鈴音と楓が隣同士、うつ伏せで顔を上げると鈴音の正面に瞬、楓の正面に茜が来るように布団は配置されている。それを見た瞬は布団の近くに立ったままだった。それを見た鈴音がした。
「瞬くん早く」
「そうだ、瞬から話してよ」
瞬の様子を見た楓も急かす。二人の言葉に瞬はたじろぐ。
「本当にいいんですか?男女がこんなに近くで寝るなんて⋯⋯」
「寝るんじゃないわ。お話をするだけ。恋の話をする同志ですもの」
鈴音も楓も茜も瞬を見ている。瞬は観念したようで目をつぶってこう言い放った。
「もう、知りませんよ!」
瞬はえいやぁと言う気持ちでバフッと布団に突っ込んだ。すると瞬は少し顔を上げて皆の顔を見ると少し照れたように話を始めた。
「うっ⋯⋯俺からですよね。⋯⋯俺の想い人は緑龍の伊万里ちゃんと言う女の子なんです。歳は諒と同じ」
「それで伊万里ちゃんはどんな子なの?」
鈴音はワクワクしながら聞いている。
その言葉に瞬は天井を見ると伊万里を思い出したのか下を向いて照れた。
「瞬くん恋してる顔ね!」
「鈴音、興奮しすぎ! 瞬、自分のペースで続けて」
瞬は目を俯きがちに話し始めた。
「背は諒みたいに小柄なんです。髪は長いけどゆったりとした腰辺りで1一つ結びにしてるんです。長いまつげで目が丸くて可愛らしくて⋯⋯見た目の可愛らしさとは裏腹に自分をしっかり持っている人なんです。身体強化で重い荷物も持てちゃうんです」
「きゃー愛情を感じる説明だわ!」
「ねえねえ、伊万里ちゃんは瞬のことなんて呼んでるの?」
瞬が話し始めると楓も飛びつく。そして茜は食い入るように瞬を見ている。
瞬は楓にそう聞かれて思わず顔を腕で隠すとポツリとこぼした。
「⋯⋯瞬さま⋯⋯」
「伊万里ちゃん、なんて愛らしいのー!!」
「伊万里ちゃんすごく良いわ!! 会ってみたいなぁ!」
「素敵だな!」
瞬は三人をちらっと見ると自分の腕の中へ隠れてしまった。そして瞬は動かなくなった。
「瞬、大丈夫か?」
「⋯⋯ちょっと思い出して伊万里ちゃんに会いたくなっただけです」
「瞬くーん! そうよね、淋しくなっちゃうわよね。落ち着いたら皆でちゃんに会いに行きましょ! 私薬草の勉強したいわ!」
楓もガバッと顔を上げた。
「私も勉強しに行くわ!」
「私もお供したいです。瑛真の怪我に効く薬草があるかもしれないので」
鈴音は茜を見た。
「あら、茜ちゃんは瑛真くんは呼び捨てなのね。瑛真くんはなんて呼ぶのかしら?」
「茜です」
「次は茜の話を聞きたいな。幼馴染なんでしょ?」
「はい、瑛真とは家が隣同士で同い年なので自然と訓練とかが一緒になるんです」
楓は茜をじっと見た。
「どんな時に恋だなって気がついたの?」
茜は楓と目を合わせた後、目を俯きがちに口を開いた。
「訓練中に成長していくと女ってどんどん男の人を体格も力も差が付くじゃないですか。力の強さとか動きとかどんどん年下にも追い抜かれていく。そうすると揶揄してくる人もいるんです。茜は”訓練サボっている”とか言って」
三人は真剣な顔で茜の話を聞いている。
茜は何かを思い出したのか頬を赤らめた。
「そんな時に瑛真は"お前ら茜の何を見てるんだ?誰よりも生傷作ってる茜にそんな酷いこというんじゃねーぞ"って。その時に私にとってはただの仲間じゃなくなったんです。⋯⋯瑛真って細かいことに気がつくんです。しかもよく覚えていて"この前の訓練まだ続けているのか"とか"これ出来るようになったんだな"とかって」
そので顔を上げて三人を見た。三人は茜の言葉を待っている。
「なんでそんなに気にかけてくれるの? って聞いたんです。そしたら"だって仲間だろ"って」
茜はふいっと下を向いた。
「それでも仲間でも嬉しいからいいかって思ってたんです。でも瑛真はお父さんが殺されてから変わってしまった。塞ぎ込みがちで時々何かを考えているようで遠くを見てたんです。兄弟子たちも瑛真にかなり気にかけていたんですがお父さんが殺されてから半年後くらいかな。⋯⋯なんだか別人になっちゃったんです。心ここにあらずというか。昔の面影がなくなっちゃったみたいに⋯⋯」
瞬は茜の方を見るとこう説明した。
「話の途中に悪いな。ちょうどその頃親父を殺した仇の金土ってやつが瑛真に接触してな⋯⋯親父さんの血まみれの赤龍の首飾りを瑛真に見せて、悔しかったら俺の元へ取りに来いって言われたみたいなんだ」
茜は目を見開いて瞬を見た。
「ひどい⋯⋯なんてことを⋯⋯」
茜は前を見てこう訴えた。
「多分周りが気を使ってくれたんだと思います。そこから私宛の依頼がすごく増えたんです。瑛真に会っている暇もないくらいに。だから決闘の話も知らなかったし脱里の話も知らなかったし⋯⋯仇を討ちに行ったことも知らなかった」
「どうやって仇討ちの話を知ったんだ?」
「黒兎の蒼人って人が赤龍にきて教えてくれたのを盗み聞きして⋯⋯。黒兎って貴方たちでしょ?」
「そうだ⋯⋯」
鈴音は茜の目を覗き込んだ。
「ねえ、茜ちゃんは瑛真くんとどうなりたいのかしら? 大切な仲間?」
茜は鈴音の言葉に目が泳いだ。
「あっ⋯⋯なんでもいいんです。瑛真のそばにいれたらどんな存在でもいいんです」
茜は皆をじっと見ると目に光が宿っていた。
「瑛真が仇を討つって固く決意して実行したように私もどんな存在でもそばにいたいって言うのが私の決意です」
それを聞いた鈴音は思わず茜の手を取る。茜はそれを見ると鈴音の手をぎゅっと握り返した。そして楓も鈴音の手と一緒に茜の手を包む。その上からガバッと瞬が手で覆う。茜は皆を順に見た。
「茜、お前はすげーカッコいいよ!」
鈴音も楓も強く頷いた。
瞬は頃合いを見ると反撃だと言わんばかりに口角を上げると茜を見て促す。
「さぁ茜、あの先輩方に恋の相談やら話やら何でも聞きなさい」
「ちょっと、瞬くんさっきのお返しかな?」
「私も自分のこと言えないけど、強く出たわね、ふふ」
鈴音と楓は笑っている。その後鈴音は冗談交じりに胸を張って言う。
「この際だわ。お姉さんに何でも聞きなさい!」
「ふふ、鈴音、のろける気満々ね」
「あら、楓の惚気話もしっかり聞くわよ!」
「ふふ、先輩方頼もしいです」
「俺も二人の弱みを握るくらい二人のこと聞くからな」
「あはは、かかってきなさい」
楓が冗談交じりに言った。
この夜は深夜過ぎまで話が続いた。
次の日瞬は皆の体調を気にしたが昨日より元気な様子だった。話しただけで元気が出るのかと瞬は不思議に思った。




