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第53話 -2 いざ五百蔵城へ(中編)

 橙次の後で鈴音がぐらっと揺れた。

「うわっ」


 橙次はぐんと後ろに引っ張られた。

 橙次は勢いよく馬を止めると馬はびっくりして前脚を高く宙に上げた。

 橙次と鈴音はバサッと下に落ちた。

 橙次は何とか身体を回転させて地面についた。鈴音は橙次の上に乗っかってしまった。


「鈴音、大丈夫か?」


 瞬が急いで二人の元へ向かうと葉っぱにまみれた二人が地面にへばりついていた。

 その様子と見ていると二人は大丈夫そうだ。縛った縄で動けず親子亀のように橙次の上にへばりついた鈴音が言った。


「橙次さん、ごめんなさい」

「⋯⋯大丈夫だ」


 何とかもう一度橙次と鈴音は馬に乗った。

 橙次は振り返って瞬を見た。


「次の宿場町で馬屋へ行こう。馬を変えらるなら変えたいな。こいつらも疲れている」


 そう言うと橙次は馬の頭を撫でた。

 ぶるるん、馬は息を吐いた。


 太陽が上がり始めてあたりはすっかり朝になった。次の宿場町で馬を変えた。


 宿場町から少し山道に入ったところで少し休憩することにした。橙次は景色を眺めながら口を開いた。


「ここ調子ならこの後は大分楽に進めるぞ」


 橙次は振り返ると疲れが見え始めた三人がうとうとしていた。それを見た橙次はそっと周りに幻術をかけた。三人の寝息が聞こえる。橙次はその寝顔に優しく微笑みながらその近くに腰をかけた。その三人の寝息は橙次の耳に心地よく感じた。


 しばらくして仮眠を取ると三人はそれぞれ起き始めた。三人の顔はさっぱりしている。少し元気を取り戻したようだ。瞬は橙次を見ると近寄った。


「橙次さん、ありがとう。休憩取れてないだろ? 疲れてるんじゃないか?」

「俺はあと3日くらい平気だ。瞬は仮眠取れただろ? 誰かがダメになってもこの先は進めないぞ」


 橙次は平然として瞬に返した。その様子をみて瞬は視線を外しすと、小声でもらした。


「⋯⋯昨日から橙次さん頼もしくて、かっこよすぎだろ⋯⋯」

「なんて? 瞬なんて言ったんだ?」


 橙次はそれを聞いていたようで口を緩めて瞬を見た。聞かれてるとは思わなかった瞬は恥ずかしそうに口を尖らせる。


「あーもう橙次さん台無しだぞ!」

「瞬が諒みたいなこと言い出した!」


 橙次は自分がそんなに嬉しそうな顔をしているとは気が付かなかった。そして瞬に背を向けると、腕で顔を隠して嬉しそうに笑ったのを瞬は知らなかった。



 この日は順調に進んでいく。

 次の宿場町で昼餉を取った。


「今日は五百蔵城の二つ手前の宿場町まで行きたい。そこで夕餉を取って湯屋にも入ろう。宿で一泊する。それが出来たら五百蔵城には昼過ぎに到着できる」


 三人は仮眠をとったおかげかスッキリした顔をしている。また四人は馬に乗った。


「今度は瞬が前を走れ。道は覚えているだろ?」

「おう」


 瞬はそう言いながら馬を早めて橙次を抜かしていく。橙次の横に並ぶと拳を突き出した。橙次はそれを見ると瞬の拳に自分の拳を合わせた。 


 その様子を見た鈴音はクスクス笑っている。


「橙次さん、嬉しそう」

「なんで分かんだよ! って見えてないだろ」


「だって白狼もそれ喜ぶんだもん。見えなくても分かるわよ」


 それを聞いて橙次は口元を大きく緩めた。その後も予定通り進んでいく。次の宿場町が瞬たちが泊まる予定にしている。

 日は傾き始めていた。

 そこへ瞬は声を上げた。


「もう少し走って行くと最後の難所がある。そこを越えたら隣の宿場町だ!」


 山は背の高い木々が隙間なく生えていて空に比べてすでに光を失い薄暗くなっていた。


「瞬、この先の滝壺の近くは足場が悪い。気をつけろよ」


 瞬は慎重に馬に乗る。最後の難所は滝壺の近くを通る。足場が悪い上にとても狭くなっているのところがありその隣には水場が迫っている。いきなり深くなっている水場は足を滑らると馬ごと滝壺へ落ちる。


 流水の音が近づいてくる。もう辺りは暗い。瞬は馬を止めた。


「ここからは足場がかなり危険だ。馬を先に連れていこう」


 橙次は馬のまま瞬の横に来ると縄を外し始めた。縄が外れると瞬も橙次の縄を外した。橙次は少し離れる。瞬と橙次は馬から降りた。


 瞬は足場を確認しながら馬を歩かせる。馬は夜道というのと滝の音で緊張している。何とか前へ進めると広まったところで馬を近くの木に紐を括り付けた。楓のところまで戻って来た。


「楓さん、俺が前を歩くから俺の足跡を辿ってついてきて」

「分かった」


 瞬はゆっくり歩く。後ろからしっかり歩く音を確認しながら進む。



「キャッ!!」



 ぬかるみが深く楓が足を滑らせた。瞬は身体を捻って楓の胴に腕を回したが重心がすでに水場に傾いていた。


(くそっ!このまま水場へ落ちる。)


 ドッボーン!! 二人が勢いよく落ちて水面に水柱が上がる。瞬は楓の胴に腕を回して勢いよく水面へ押す。二人は水しぶきを上げながら水面に顔を出す。


「ぷはぁ!!」


 それを見た鈴音を乗せている馬が興奮している。鈴音は馬の背中を撫でながら声をかけてなだめている。


「大丈夫よ⋯⋯」


 しかし馬はすぐに前足を高く空へ上げた。


「あっ! 落ち着いて!」


 鈴音の声かけも虚しく馬はバランスを崩す。そして鈴音は馬ごと水場へ落ちた。

 ドッパーン!!! さっきよりも大きな水柱が上がる。


「鈴音!」


 橙次は鈴音を追って水場に飛び込んだ。

 瞬は大きく息を吸うと鈴音の名前を大声で呼んだ。遠くから橙次の声がする。


「鈴音は大丈夫だ。しかし馬が興奮していて溺れそうだ」


 遠くで誰かの声がした。


「馬はこっちで助ける!」

 女性の声だった。


瞬と橙次は大声でその声に返した。

「恩に着る!」


 瞬は楓を水場から出すことにした。水場から上れそうな岩が崩れているところまで来ると楓の身体を上へ押し上げた。


 楓はビシャビシャと服から水が滴る音をたてながら上へ上がった。


「瞬、ありがとう。貴方に助けられてばっかりね」

「大丈夫だ。あそこはぬかるみがすごかった。仕方ない。橙次さん、俺たちはここだ!」


 水のバシャバシャという音が近づいてくる。


「鈴音、ここから上がれ」

「うん、ありがとう」


 橙次は鈴音の後ろにいるようだ。

 ビシャビシャと音がする。

 鈴音がこちらに近づてくる。


 皆ずぶ濡れだった。


 橙次は上の服を脱いで絞るとビシャッと水が音を立てて落ちた。橙次は後を振り返ると暗闇に向かって大声を上げる。


「先ほどの水場に落ちた者だ。ここにいる。足場が広くなっていて馬を上げられる」


 橙次は水場へ近づいていった。バシャバシャと音がする。


「貴方が馬の後ろにいると危ない。俺が前から引っ張る」

「橙次さん、俺も引っ張るぞ」


 そして瞬も近づく。するとその女性は声を上げた。


「分かった。私は念の為、水の中で待機する」


 橙次と瞬は馬を引っ張り上げた。何とか馬は岩の上に蹄を乗せると水場から上がってきた。


 馬を安全なところに連れて行くと瞬は水場へ戻った。女性が水場から上がる。そこへ瞬は手を伸ばす。


「この手に掴まれ」


 彼女が手を伸ばすと瞬はガシッと掴み手前へグイッ引っ張る。水のバシャバシャとした音を立てながら彼女は水場から上がった。全身ずぶ濡れの忍姿の女性が見えてきた。瞬は彼女をじっと見る。彼女と視線が交差する。彼女は何かピンと来たようだ。


「あっ! 貴方、五百蔵いおろい城の瑛真の仲間じゃないか?」


 瞬は目の前の女性をじっと見る。女性は髪をかき分けるとぶっきらぼうに言った。


「びしょびしょだから分からないか。赤龍の茜」

「あっ! あの時の!!」


 瞬も思い出した。

 橙次は瞬の肩を組んだ。

「茜だろ。瑛真のために単身で乗り込んできたのをよく覚えている」

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