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【完結】暗殺の瞬が名を捨てるまで  作者: 二角ゆう
表の大戦(おおいくさ)編
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第50話 瑛真の容態

 それから5日が経った。


 霜月はようやく話せるようになって来た。蒼人は頼まれごとでどこかに行ってしまった。そして霜月は瞬、諒、橙次を見ると幻術を張った。


「皆よく頑張ってくれたね。戦の情報共有をしよう」


 そう切り出すと瞬は鄧骨の側近と戦ったことを伝えた。橙次の訓練のおかげで攻撃が当たったことを伝えると橙次は喜んだ。


 その後、霜月は鄧骨との戦いのことを話した。そこで諒からもらった薬をすべて使い切ったことを離すと諒はじとっと霜月を見る。


「僕あれほど警告したよね!? 薬は併用しないでって!」

「ごめん、僕も牙で噛まれたことなかったし痛みで動けなかったんだ。諒のおかげでほら今生きてる!」

「そーゆー褒め方しないの!」


 霜月は諒の頭を撫でた。すると諒は口を尖らせた。


「涙をたくさん溢した諒は可愛かったなぁ。僕は嬉しかったよ」

「あーまたそんな事言う!! 瞬も何か言ってよ!」


 瞬は霜月と諒のやりとりを見ていた。憎まれ口を叩いても二人とも嬉しそうだ。そして二人のやりとりは昔と同じようだと感じ瞬は口を緩ませた。


「なんだ、諒も俺と同じような扱い枠なんじゃん」


 二人のやりとりを見て橙次はひょうひょうと言う。それを聞いた諒は勢いよく橙次の方を向くと不満そうな声で大にして否定した。


「橙次さんと一緒にしないでよ!」

「そうだそうだ」


 霜月嬉しそうに諒の味方につく。瞬は笑いながら諒の方を向いて聞いた。


「そういえば諒は戦場でどうだったんだ?」


 諒は清隆と会ったこと、対戦したこと、瑛真の応急処置をしてくれた事を話した。


「清隆ってやつ、不思議なやつだな。会ってみたいぜ」


 諒は五百蔵扮する一心と対峙した時の橙次の様子については言わなかった。殺気だけで強さははかれないから余計なことを言って皆を混乱させたくないと思ったのだ。橙次は静かに聞いている。瞬は諒が何か考えているのをじっと見ていた。


 その後、橙次は毫越の側近と戦ったことを伝えた。そして五百蔵扮する一心に会ってから瞬たちと再会するまでの事を話した。


 そこまで聞くと諒は瑛真を見て近寄る。諒は瑛真の顔を覗き込むと穏やかに眠っているようだった。諒は瑛真の腕が取れて崩れ落ちたあの時の事を昨日のようにはっきりと鮮明に思い出す。


 諒は瑛真の左手を取ってみる。温かいが、人形の腕のようだ。それを見ていた瞬も近くに寄る。そこで諒は緒方先生を見た。


「緒方先生、瑛真はまだ一度も目が覚めてないですよね?」


 影屋敷から来ている緒方は処置を終えてからずっと瑛真についていてくれている。諒の言葉に緒方は諒を見据えると下を向いて首を横に振った。


「橙次殿の見事な針さばきで左腕は綺麗につきましたが、まだ混沌の世界のようじゃ」


 瞬も瑛真の反対側に周り瑛真の右手を握る。諒は瑛真の左手を握りながら話しかけた。


「瑛真、もう7日も経ったよ。瑛真は毫越を討ったんだ。赤龍の里に報告しにいかなきゃだね」

「瑛真、霜月さんも目を覚ましたよ。俺たちは瑛真を待ってるぞ!」


 瞬も右手をギュッと握るとこう伝えた。瑛真の身体がピクッと動いた気がした。右手に反応がある。すると瞬は両手で握り返す。瞬と諒は慌てて瑛真の顔を覗き込む。


 その後強く手を握っても反応がなかった。


 戸が開いた。一心とその側近ら、一番後ろには蒼人と見知らぬ男がついて入る。

 一心は真ん中に座る。側近らはそれを見ると両脇に座る。


 蒼人は見知らぬ男と一緒に歩いてきた。そして少し離れて一心の正面に立った。蒼人は一心を見ると片膝ついた。それを見ると一心は口を開いた。


「瞬、霜月の上体を起こしてやれ。霜月、人払いは済んでおる。幻術を周りにかけろ」


 蒼人がすかさず口を開く。


「誠に恐れ入りますが一つよろしいでしょうか?」

「なんじゃ?」

「一心殿に来客がございます。影の者ではございませんが裏の者でございます。瑛真の⋯⋯ところの者でございます」


 一心は手を上げて許可を示す。


 後方の戸がスッと開いた。

 一心はその者の姿を見ると口角を上げた。


「ほほぅ、女じゃな」


 その女は蒼人の後ろまで来ると片膝ついた。一心の顔を見て口を開いた瞬間、廊下が騒がしくなった。


 バタバタバタ、複数人の歩く足音が廊下を絶え間なく鳴らす。開いた戸の向こう側に横一列に並んで片膝つき頭を垂れる。


「私たちもよろしいでしょうか?その者と同じにございます」


「なんで⋯⋯!?」

 女は振り向きその人たちを見ると驚いた顔をした。

 一心はため息をつくと促した。


「早う入れ。入ったら霜月、幻術を頼む。どうせ蒼人がその者たちに早馬で知らせたのだろう」


 一同が女の後ろに着席すると霜月は部屋の周りに幻術をかけた。

 一心は女の方を向いて問う。


「女、何の用だ? 其の方がはじめにここへ着いた。其の方から用件を聞く」

「お目通り叶った事、心より感謝申し上げます。私は赤龍の里の茜と申します。瑛真と同じ里の出身でございます。瑛真は今黒兎の里ですが、怪我の容態が落ち着きましたら引き取りを許可いただきたく参りました」


 茜は顔をあげるとこう告げた。

 一心は茜を見た後、後ろの者たちを見た。


 後ろの一番左の男が口を開いた。


「同じく赤龍の里の一樹です。私の右にいる六人は瑛真の兄弟子たちにございます。私どもは瑛真の父上蘇芳すおうの弟子でございます。用件は茜と同じになります」

「瑛真が其の方らの願いを叶えたと言うことだな?」


 一樹は仇討ちの相手が五百蔵の側近である毫越であったので言葉を迷いながら答えた。


「⋯⋯誠でございます⋯⋯」


 力也は一樹が口を閉じるのを確認すると口を開いた。


「同じく赤龍の里の力也でございます。他の里の者の代表で参りました」


 一番右に座る男は立ち上がると蒼人の前まで歩き正座をした。頭を下げた。その男をじっと見つめたまま五百蔵は厳しい目を向けてこう聞いた。


「其の方が出てくるとは何事じゃ?」


 その男は顔をゆっくりあげるとこう伝えた。


「赤龍の里長・赤龍でございます。規則破りとは重々承知ではありますが、瑛真は赤龍の里にとって大事な存在です。それに後継者でもあります。瑛真を赤龍の里に戻すことを了承していただけないでしょうか?」


 赤龍は言い終わるともう一度頭を下げた。


「このまま了承は出来ない」


 赤龍の者たちの殺気が部屋中に溢れる。

 一心は気にせず赤龍を見たあと霜月の方へ顎を向けた。


「条件によって、交渉次第だ。そこの霜月たちと行う。其の方らは退席せよ」


 赤龍は口を開いたがギュッと閉じた。



「瑛真殿⋯⋯」



 部屋の奥から緒方先生の小さな声が聞こえる。その呼ぶ声に皆は一斉に部屋の奥を見つめた。


 一心が許可の手を上げる。


 赤龍の者たち、諒、橙次、蒼人は駆け寄った。瞬は霜月の背を支えている。瞬は一生懸命振り返った。その様子を見た霜月は口を開いた。


「一度横にしていいよ。瞬は瑛真の様子を見てきてくれるかな?」


 瞬は霜月をそっと下ろし、瑛真の元へかけていった。


 皆が瑛真の布団を囲んで一斉に瑛真の顔を覗き込むので見る隙がない。それを見かねた

 力也が瞬に向かって怒鳴る。

「ここを代わる! 瞬、こっから見ろ!」


 急いで力也の元へ行くと瑛真を頭側から覗き込んだ。


 瑛真は顔を動かさず虚ろは目をしている。口は開いているが声は出ない。諒は懐からある物を取り出すと顔の右からそれを見せる。そして瑛真の右手をそっとすくうとそれをギュッと握らせる。血に塗れた赤龍の首飾りだ。


「瑛真のお父さんの首飾りだよ。瑛真は毫越を討ったよ。そしてちゃんと生きて帰ってきてくれた」


 諒は潤んだ目で瑛真にそう言った。皆は瑛真を見つめている。兄弟子たちは涙を浮かべ瑛真を見続けていた。



 沈黙が流れる。



 しばらくすると瑛真の目から一筋の涙が頰を伝った。


 それを見た皆が優しく笑った。


 一心は頃合いを見てこう言った。


「起きたばかりの病人に障る。赤龍の者たちは一度里に戻れ。沙汰は追って知らせる」


 赤龍を先頭の前に並ぶと片膝つき赤龍は首飾りを取ると、後ろの者たちも首飾りを手に持ち一心に向かって拳を前に突き出して頭を垂れた。少しして頭を上げると首飾りを首に戻して退出した。



 瞬は霜月の元へ戻って来ると嬉しそうにこう告げた。


「瑛真、目を覚ましたぞ」

「よかった、早くこの目で見たいなぁ」


「後で見せるからな」


 一心は諒に声をかける。


「諒と蒼人、一度戻れ」


 諒は一心の方へ戻ってきた。瞬は霜月の上体を再び起こして背中を支えた。それが終わるのを見ると、一心が蒼人を見ると隣に座る見知らぬ男を紹介した。

ここまで読んでいただきありがとうございます。お話はもう少し続きます。

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次回より【一心と瞬の対決】へと入っていきます。瞬に隠された一族の秘密や洒落頭にも関わる事が明らかになり最終章へとお話を繋いでいきます!

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