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第8話 情報屋のシシ爺

霜月と諒が瞬に合流し白龍との条件である玄磨を確保したので、これから白龍の里へ戻ることになった。


しかし問題があるのである。


「うーん、どうしようか⋯⋯」


困っているのは霜月だった。ここから白龍の里へ帰るのは丸一日かかる。玄磨は霜月が担いで行くとしても、捕らえた残りの玄磨の仲間は三人もいて担いで連れていけない。だからといって縄を解くと逃げるかもしれないし攻撃して玄磨を奪還するかもしれない。すると霜月は三人をちらりと見た。


「やっぱり殺していくかな」


霜月は独り言をポロッとこぼす。それを聞いた諒はすすすと横歩きをして瞬の後ろに隠れた。

玄磨の仲間は音を立てないように神経を使いながら、霜月の方を目を見開いて凝視している。霜月の心ひとつで彼らの運命は決まってしまうからだ。



霜月は瞬の方をちらっと一瞥する。正確には瞬の後ろに隠れている諒の方を見たのだが、瞬は視線を感じてピクッと反応する。仲間がいることで玄磨も正しい方向へ強く成長出来るなら白龍の里にとっても利があるか。しかしどのような方法で連れて帰ろうか。白龍の里の烏斗を呼び寄せるのも面倒だな。そもそも勝手にこんなところに来て脱里しようとしてるんだから、やっぱり殺そうかなと思い巡らせた。

そうしていると、霜月に良い案が浮かんだ。



そうだ、洗脳しよう



瞬は霜月の方を見ている。考え込む仕草をしていたが、何か思いついたらしい。霜月は瞬にこう聞いた。



「瞬、ここらへんに奥が行き止まりの洞穴はないかな?五人くらい優に入れる大きさが良いんだけど」

「うーん、洞穴かぁ。

⋯⋯行き止まりじゃないけど、奥が狭くなっていて通り抜けは難しい洞穴ならある」

「そしたら瞬は道案内をお願いね。諒はその三人を歩かせて連れてきてもらってもいいか?嫌がったら諒は手刀で刺すなりして切り捨ててもいいよ」

「⋯⋯おう」

「⋯⋯うん、分かった」



瞬の道案内で一行は洞穴に着くと、皆で最奥の広まった空間に来た。そこで玄磨とその仲間の三人を集めると瞬と諒の方を向いて明るい声で言った。



「瞬も諒もお疲れ様。今から5日間⋯⋯いや、3日間で良いや。外で自己訓練しておいで。時間が余ったら遊んでて良いよ」



瞬は口を開いてはみるものの、霜月にどうするのか怖くて聞けなかった。



「僕もここでたっぷり彼らに特訓してあげるよ」



霜月は今までで一番黒い笑顔をしていた。諒は瞬の後ろで瞬の服の背中の部分をぎゅっと握った。瞬は暗所で目が利くほうだが、霜月の方は見ないフリをした。



「それから諒、君は瞬と並んで歩きたいって言ってなかったか?希望があれば諒もここで特訓を受けていってもいいよ」

「霜月さんのいじわる!僕は瞬と特訓するもん!」



瞬は諒が何かやらかしたのか心配になった。諒はおそらくこの暗さで霜月のことが見えていない。あの黒い笑顔も見ていないからこう返せるのかと思うと、見えていないってすごいなと瞬は感じていた。



「瞬、行こう!」



諒は瞬の腕をぐいっと引っ張った。

そして洞穴から瞬と諒は出た。外は昼間なので目が開けられないほどまぶしかった。そこから距離を取ると瞬は周りをキョロキョロしてから諒に聞いた。



「諒、霜月さんに何かやらかしたのか?」

「ないない!二人で戻ってきてから霜月さん機嫌悪いんだよ。霜月さん僕の戦い良かったって褒めてくれてすごく嬉しかったのにな」



諒は口を尖らせた。二人は瞬が諒のことを褒めた時の喜びようが自分と時より大きかったので、霜月のただの腹いせである事に気づいていなかった。

瞬はピタッと立ち止まった。諒は瞬を見て立ち止まる。



「諒、訓練の前にちょっといいか?ちょっと寄りたいところがあるんだ」



諒は瞬の後をついて行った。そこからしばらく移動した後、なんてない森の中で瞬は立ち止まった。ちらりと辺りを見渡して一本の木の根の近くを掘る。道から少し外れたところで近寄ってみないと気が付かなかったが周りの木より少し低い。そして草があまり生えていないので掘り返しても気が付きにくい場所だった。瞬は掘り返すと風呂敷が出てきたそれの中身を手持ちの布の中に移すと諒の方を見た。



「これは任務の時に集めた俺の財産。これを持って情報屋のところへ行く」



諒は何でそんな大事なことまで僕に見せてくれるのだろうと疑問に思ったが、信頼されているのだろうか怖くて聞けなかった。一方、瞬は諒の記憶を一部始終見てしまった後ろめたさで、諒には隠し事をしないようにしようと決心していたのだった。

しばらく瞬についていくと木が無くなって見晴らしの良い丘が見えてくる。そこに一軒の店屋があった。瞬は躊躇もせずに入っていく。諒も店内に続いて入ると武器屋のようで、クイナとか手裏剣とかが陳列されている。瞬は声を上げて店の者にこう告げた。



「旦那、特注を頼みたい。奥で物を見せたい。特注だから誰にも見られたくないんだ」

「おう、奥へ入りな」



店の奥の部屋から声が上がる。

瞬たちが入ると奥で待っていたのはヒゲを生やした恰幅の良い男だった。

男は瞬を見ると口角を上げた。

諒は瞬を見ると知り合いに会えて嬉しそうな顔をしていた。



「瞬、久しぶりじゃねえか」

「シシ爺!お久しぶりです」

「最近、任務やってるのか?音沙汰が無かったからどうしてなのか気になってたんだ」

「前とはちょっと違う事をやってて⋯⋯」



瞬はどう説明するべきか迷っていた。シシ爺は手を上げて瞬が喋るのを制した。



「無理に話すこたぁねえ、ただの挨拶だ。特注の内容に入っていいぞ」



シシ爺はそう促す。情報を求める者に根掘り葉掘りは聞かない。

どうやら特注と言うのが欲しい情報の依頼のようだ。

カラッとした調子に諒は好感を抱いた。

瞬はシシ爺の言葉を聞くと懐から先ほど木の根の近くから掘った布の包みを取り出した。瞬はその包みをシシ爺の目の前に持ってくると包みを開いた。上等そうな細工が入った簪や柄、それに銭もあった。シシ爺は何も言わない。諒は静かに見ている。



「影屋敷について知りたい。存在していることは知っている」

「⋯⋯こんな上物用意してきて何事かと思えば⋯⋯悪いがいくら積まれても話すこたぁねえ」



シシ爺は頭をぼりぼりかいて口をへの字にした。瞬は目を見開いてシシ爺を見つめた。



沈黙



「⋯⋯分かった」



瞬は折れた。シシ爺は物事をきっぱり言う方で駄目だと言ったことを覆したことがない。今回持ってきた品は普段支払っている情報料金の10倍は持ってきた。それを見ていくら積まれても駄目と言うことは言葉通り駄目なんだ。



「まったくどこで聞いたんだが知らねえが、あんまり首突っ込むと危ねえぞ。⋯⋯今日はそれだけか?」



瞬は口を開かない。影屋敷以外に聞くことはないようだ。諒は瞬を見た後、伺うようにシシ爺を覗き込んで口を開いた。



「すみません、僕も聞きたいことがあるんだけど⋯⋯」

「お前さんは⋯⋯?」

「白龍の里の諒です」

「白龍か。毒使いだな。毒の情報買ってもいいぞ。何を聞きたい?」



シシ爺はすかさず聞く。そこに瞬が口を挟む。



「いや、諒は俺が持ってきた品で払う。聞きたいことをシシ爺に聞いていいぞ」



諒は瞬に頷いて感謝するとシシ爺に向き直り聞いた。



「黒獅子と言う新しい里について何か知っていますか?」



瞬は何の話だか分からない。シシ爺は束の間の沈黙をした後、重たい口を開いた。



「黒獅子とは⋯⋯またどこで聞いたんだか⋯⋯。まだあんまり情報は集まっていない。ここ最近ちらほら聞き始めた名前だ。特に若い者が集まっているようだ」

「出身の里問わず誰でも受け入れるって聞いた」



シシ爺はギョロッと諒を見たが諒は気がついていない。瞬は諒に勢いよく振り返った。



「⋯⋯待てよ、と言うことは玄磨たち⋯⋯白龍の者もそこへ?」



シシ爺は身を乗り出している。諒はそれを見るとこう言った。



「僕たちはこれ以上のことは言わないよ」

「がはは、なかなか筋の良い坊やだ。お前さん、情報屋になるか?」

「それは遠慮します」

「それじゃあ、おまけの情報だ。その黒獅子は将来有望な若者を集めている。里問わずたくさんだ。もちろん希望があればお前さんたちも入れるだろうよ」



そう言うとシシ爺は机に置いてある瞬の布の中から一番小さい銭を一枚とった。瞬は意外そうな顔をした。



「俺もあんまり情報を持ってないからな、今日はこれだけ。さあ、これで終いだ」



瞬と諒は部屋から出ると建物から出た。

行きに来た道を二人は戻っていった。二人の姿は小さくなっていく。

その姿ををシシ爺は見送りながらこう呟いた。



「暗殺の瞬と青獅子の里長の息子ねぇ。面白い組み合わせだな」




瞬は帰り道に諒に聞いた。



「さっき言ってた黒獅子の里って?」

「玄磨たちが脱里して向かったのは黒獅子と言う新しい里だったんだ。さっき言ったように里問わず受け入れてるらしい」

「未許可の脱里は死罪だぞ。円満に話をまとめないと認められないことだぞ」



それを聞いて諒は口を開いて躊躇したが瞬に伝えることにした。



「玄磨は僕も黒獅子へ誘ってきた。玄磨は黒獅子の里について熱のこもった声で説明してきたよ。あんな玄磨の姿は初めて見た」

「諒⋯⋯」

「僕はきっぱり断ったけどね」



それを聞いて瞬は安堵の息を大きくもらした。

お読み頂きありがとうございます!

次回はついにあらすじに書いた謎の男改め霜月の台詞が登場します。

次回の作者にすみイチオシの台詞↓

「瞬、おいで。悪いけど諒のために人肌脱ごうじゃないか。諒の為に心を砕かせてね。」

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