表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

射抜かれた鶴(弍)

「「……ッ!?」」


 突如、宮廷内に響いた、耳をつんざくような女の悲鳴に、夕鶴と男性は同時に振り向いた。

 しかし男性は、夕鶴よりも冷静になるのが早く、すぐに顔を引き締めて、声のする方へ走った。夕鶴はその背中を見て気付き、重い着物を引きずり、着いていった。途中、横目の視界が、慌てふためいている女官を捉えた。


「これはっ……何が起こったんですか?」


 遠くから、あの男性の声が聞こえ、もう少し早歩きをした。そして曲がり角を曲がると、縁側から庭園の情景が見えた。

 男性が、顔色の悪い女性を宥めながら、質問をしていた。女性は、いつもよりも白粉が白く見えた。


(あの男、下駄も履かないで……)


 短い草の隙間から、下沓が土で汚れているのが見えた。夕鶴は、顔を顰めた。

 ……しかし、本当の問題はここからだった。

 女性は段々と落ち着いたのか、男性の後ろ、つまり、縁側にいる夕鶴を見て、みるみる目を吊り上げる。そして、夕鶴を指差して、金切り声を上げた。


「このっ、よくも!よくもよくも!!我が主を殺したな!宮廷の鶴が聞いて呆れるわ!」


「はっ……?」


 夕鶴は、意味が分からなかった。しかし、そんな呆けた表情すら苛つくのか、あんなにしおらしかった女性は、どんどん言葉をぶつけてきた。


「私は見たぞ!あの紅葉の木から、白銀の髪が去っていくのを!そしてっ、そして!その木から、簪を首元に刺された我が主が落ちたのを!!」


 もちろんだが、夕鶴は心当たりが無い。この辺りは殆ど通らないうえ、悲鳴が聞こえたときは、夕鶴は男と話していた。

 そして、夕鶴はようやく気が付いた。女の体躯が大きく見えづらかったが、あの真っ赤で派手な着物は、おそらく朱緋姫(しゅひひめ)のものだろう。宮廷では有名で、いつも赤を基調とした着物に、背の中央には、日の丸が描かれている愛国者だと。

 簪までは見えないが、どうせ近づかせてくれない。

 唯一、証人となれる男は、困ったようにいて、何かを説明してくれそうにもない。まあ、身分を隠している人物が、厄介事に巻き込まれたいとは思わないだろうし、庇ったら男女関係を疑われる。

 これは……。


(面倒なことになりそうだ……)


 夕鶴は、眉間を抑えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ