射抜かれた鶴(弍)
「「……ッ!?」」
突如、宮廷内に響いた、耳をつんざくような女の悲鳴に、夕鶴と男性は同時に振り向いた。
しかし男性は、夕鶴よりも冷静になるのが早く、すぐに顔を引き締めて、声のする方へ走った。夕鶴はその背中を見て気付き、重い着物を引きずり、着いていった。途中、横目の視界が、慌てふためいている女官を捉えた。
「これはっ……何が起こったんですか?」
遠くから、あの男性の声が聞こえ、もう少し早歩きをした。そして曲がり角を曲がると、縁側から庭園の情景が見えた。
男性が、顔色の悪い女性を宥めながら、質問をしていた。女性は、いつもよりも白粉が白く見えた。
(あの男、下駄も履かないで……)
短い草の隙間から、下沓が土で汚れているのが見えた。夕鶴は、顔を顰めた。
……しかし、本当の問題はここからだった。
女性は段々と落ち着いたのか、男性の後ろ、つまり、縁側にいる夕鶴を見て、みるみる目を吊り上げる。そして、夕鶴を指差して、金切り声を上げた。
「このっ、よくも!よくもよくも!!我が主を殺したな!宮廷の鶴が聞いて呆れるわ!」
「はっ……?」
夕鶴は、意味が分からなかった。しかし、そんな呆けた表情すら苛つくのか、あんなにしおらしかった女性は、どんどん言葉をぶつけてきた。
「私は見たぞ!あの紅葉の木から、白銀の髪が去っていくのを!そしてっ、そして!その木から、簪を首元に刺された我が主が落ちたのを!!」
もちろんだが、夕鶴は心当たりが無い。この辺りは殆ど通らないうえ、悲鳴が聞こえたときは、夕鶴は男と話していた。
そして、夕鶴はようやく気が付いた。女の体躯が大きく見えづらかったが、あの真っ赤で派手な着物は、おそらく朱緋姫のものだろう。宮廷では有名で、いつも赤を基調とした着物に、背の中央には、日の丸が描かれている愛国者だと。
簪までは見えないが、どうせ近づかせてくれない。
唯一、証人となれる男は、困ったようにいて、何かを説明してくれそうにもない。まあ、身分を隠している人物が、厄介事に巻き込まれたいとは思わないだろうし、庇ったら男女関係を疑われる。
これは……。
(面倒なことになりそうだ……)
夕鶴は、眉間を抑えた。