皇后との謁見
チリン、チリン……
美しい鈴の音が響く。ずっと麗しい微笑みを浮かべながら、鈴陽はお気に入りの従者の手と、反響する鈴の音を頼りに、廊下を進む。
宮廷でも一、ニを争うほどの美しい顔立ちが、鈴の音を纏い歩いている。神でも舞い降りたのだろうかと錯覚しても、申し分無い。事実、女官たちが、羨望と尊敬の眼差しを向けていた。
「まぁ、鈴陽様よ」
「相変わらずお美しい……」
鈴陽は、あまり恥じらってはいなかった。慣れているというのもあるのだが、恐れもある。彼女たちが、本当の私のことを知ったら、姫だと認めてくれるのだろうかと。
そんな眼差しを背に受けながら、宮廷の最奥の隣室の襖の前に立った。夕鶴が、静かに襖を開ける。もっとも、鈴陽には聞こえていたのだが。
「おお、来たか。鈴陽姫」
「お久しゅうございます、皇后様」
鈴陽は頭を下げ、夕鶴の手の引かれるままに、席に着いた。
夕鶴は皇后に頭を垂れ、静かに退出した。
「ふむ、美しい着物だな。どこのだ?」
「私の従者が、刺繍を加えてくれたのですわ」
「先ほどの従者か?」
「ええ。どうしてお分かりに?」
「姫と同じ、鶴の刺繍が着物にされていたのでな。もちろん、姫ほど絢爛に縫ってはいなかったが」
「まぁ……」
鈴陽は感嘆の声を漏らし、クスッと花開くように微笑んだ。お気に入りの従者の証拠として、着物に刺繍をするように指示したが……どうやら、同じ刺繍をしてくれたようだ。
(夕鶴ったら、ちゃあんと可愛げあるんだから。んもう、言ってくれたら良かったのに)
鶴の刺繍。鶴。夕鶴の名にあるものを、この着物に刻んでくれたのだ。もしかしたら、主として、認めてくれていたり……。
(……なーんて)
鈴陽は、寂しげに顔を少し伏せる。何も報いてこない、手間のかかる主なんて、認めてくれたりなどしないだろう。鈴陽は未だに、指示した刺繍を見ていないのだから。ああ……本当に……。
「……………見たかったな……」
「鈴陽?」
「いいえ、なんでもありませんわ」
伏せていた顔を上げ、微笑みを浮かべる鈴陽は、見えていなくとも、皇后に訝しげに見られていると察した。しかし、気付いていないふりをする。
「……そうか。それで、話のことだが……」