宮廷の巫
スーッ……
「あら?」
鈴陽は、新たに鳴った襖の音の方を向く。夕鶴も、襖のほうを振り返った。
そこには、女官がいた。
「鈴陽様、冬の足音が強まるなか、益々強かであられると存じます」
「ご用件は?」
「……………チッ」
(おい、舌打ち)
態度の悪い女官をじとっと睨むと、女官は何事もなかったかのように告げた。
「皇后様が、お呼びであられます」
「まぁ、皇后様が?」
「ええ───」
「では、早速向かいましょう、鈴陽さま」
夕鶴は、女官の言葉を遮って話しかけた。ギロッと般若のような顔で夕鶴は睨まれたが、まぁ、今回は夕鶴が悪い。
女官は表情を戻し、一礼をして去っていった。その背中を見送ってから、夕鶴は鈴陽に駆け寄り、その手を取った。真っ白で、しなやかな指を絡める。
「んー……夕鶴。時候の挨拶は正しいし、言葉を遮るのは良くないと思うわ」
鈴陽は立ち上がりながら、困ったように眉尻を下げ、不満を漏らす。両耳に付けた鈴の耳飾りを揺らしながら、「確かに、言葉が少し変だったけれどね。」と、苦笑いを浮かべながらぼやいた。
夕鶴は、立ち上がった鈴陽の顔を真っ直ぐ見ながら、答えた。
「しかし、鈴陽さまは、長ったらしい形式は苦手でしょう?」
「……………」
驚いたように、鈴陽は口を開けた。そして、徐に口を閉じ、一転して口角を上げた。
そしてゆっくり……ずっと微笑んでいた瞳を開けた。
「やっぱり、夕鶴はお気に入りよ♡」
美しい容姿とは想像もつかないような、白濁した瞳が、夕鶴を射ぬく。きっと、見えていないが、視えているのだろう。
そして夕鶴は、特に驚いた様子もなく、留意しつつ鈴陽の手を引いた。
「足元にお気をつけください」
「あら〜、冷たいわね。お気に入りは貴方だけなのよ?」
「光栄です」
「感情を乗せなさい、感情を〜」
そう子供っぽく駄々をこねながら、鈴陽は朗らかに笑った。