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【一般】現代恋愛短編集 パート2

晴男と雨女が付き合ったら曇りになるのでしょうか

作者: マノイ

「雨宮さん、俺と付き合ってください!」

「……ごめんなさい」


 はいダメー

 初対面の相手にいきなり告白したのだから、そりゃあダメだろうとは分かっていたさ。

 分かっていたけれど、はっきりと言われるとやっぱりショックだ。


 ある日の放課後、隣のクラスの雨宮さんが一人で教室に残っているのを見かけたので、これはチャンスだと思い告白に踏み切ったのだ。


 艶のある漆黒の髪が美しい雨宮さんは、俺と同じ高校の二年生。

 伏し目がちで雰囲気が暗いことで同級生からは良く思われていない様子だけれど、そんなことは俺には関係ない。


 とある理由から、俺は彼女と仲良くならなければいけないのだから。


「あの、あなたが嫌いという訳では無いの」

「え?」


 てっきり見ず知らずの男に告白されて気持ち悪く感じているのだと思っていたら違ったらしい。しかも親切にもお断りの理由を説明してくれた。


「私、酷い雨女なの。だから何をするにも雨ばかりになっちゃって、あなたをがっかりさせちゃうから」


 デートの日は毎回雨。

 海に行くにも山に行くにも雨で中止。

 インドア派だとしても、相手に会いに行くのに雨の中を移動しなければならない。


 本当に確実に雨が降るとなると、付き合う相手は段々と面倒になってしまうかもしれない。

 例えば最初は気にしないだなんて言いつつも、徐々に雨宮さんのせいだと思い始めて『また雨かよ』なんて思わずポツリと漏らしてしまいギスギスする、なんて未来が普通にありえそうだ。


 だが俺はそれでも構わない。


 いや、むしろそれが良いんだ!


「雨宮さんが雨女だから付き合いたいんです!」

「え?」


 予想外の答えだったのだろう。

 申し訳なさそうだった暗い瞳が驚きでパチクリしている。普通にしていれば美人さんな気がするぞ。


「雨が好きなの?」


 確かに雨が好きならば雨女である雨宮さんとの相性は良いだろう。 


 だが俺はそうではない。

 雨が好きな訳では無く、雨を欲しているのだ!


「俺って実はすごい晴男なんだ。何のイベントをするにも晴れちゃうから、雨が降って欲しいんだよ!」


 だから雨宮さんと付き合えば、彼女の雨女の力で雨が降ってくれるのではと思ったのだ。


「どうして……晴れなんて良いことなのに。羨ましい……」

「小さい頃はそうだったんだけどさ、最近ってめっちゃ暑いじゃん。それなのに俺が参加するイベントは晴天ばかりだからしんどくってたまらないんだ。体育祭とかマジ死にそう」


 晴と雨ならどちらが良いかと聞かれたら、晴と答える人が多いだろう。

 だが物には限度がある。

 雨が全く降らず溶けそうな程の灼熱の毎日が続くと、雨が降ってくれと強く願うことになるだろう。


「だから雨宮さんと一緒なら雨が降ってくれるかなと思ったんだ」

「そう……でもごめんなさい。私、雨が嫌いだから」

「あ……そっか。そうだよな」


 晴男の俺が晴が嫌いなように、雨女の彼女が雨が嫌いなのは当然のことだ。

 それなのに雨が降って欲しいから一緒に居たいだなんて、最低な告白じゃないか。


「ほんっとうにごめん!俺が悪かった!最低だった!雨宮さんの気持ちを全く考えて無かった!」

「う、ううん。気にしないで。雨女でも良いって言ってくれて嬉しかったから。皆、雨が降ると私のせいだって非難してくるし……」

「あ~分かるわ。外の行事の時に晴れてクソ暑いと、あいつらも文句ばっかり言ってくるもんな」


 やれ帰れやら、イベントを休めやら、熱中症になった奴が本気で俺のせいだと詰ってきたこともあったな。それは一度誰かが言い出すと伝染し、自分以外が全員敵になったようなあの感覚は慣れるまで苦労した。雨宮さんも似たような経験があるのだろう。


「あなたも……あれ?そういえばどちらさまでしたっけ?」

「ああ、ごめん。自己紹介して無かったな。俺は二組の晴田(はれた)だ」

「晴田君も私と同じような経験があるんだね」

「そうなんだよ。去年の体育祭も……あれ?」


 高校一年の時の体験談を話そうかと思ったら、とても重要なことに気が付いた。


「去年の体育祭ってすごい晴れてたと思うんだけど、雨宮さんも参加してたんだよな?」


 俺達は同じ高校に通っているのだから、同じ学校行事に参加しているはずだ。

 晴男の俺と雨女の彼女が一緒ならば、果たしてどっちが勝つのだろうか。


「ううん、その日は体調を崩して休んでたの」

「え?じゃあ球技大会は?あの日も晴れてたし季節外れの高温でめっちゃしんどかったけど」

「練習の時に怪我しちゃって、参加して無かったの」


 なんてことだ。

 それじゃあどっちが勝つのか分からないじゃないか。


「私からも聞いて良い?」

「あ、ああ」

「四月のオリエンテーション合宿は参加した?あの日はかなりの雨だったと思うけど」

「その日は親戚の葬式があって休んだんだ」

「じゃあ文化祭は?」

「食中毒にあたって休んでた」


 そういえば文化祭もかなりの雨だったな。

 参加出来なくて悔しかったけど、この雨ならまぁ良いやって思った覚えがある。


 でもそうか。

 学校行事に俺と雨宮さんが二人とも一緒に参加したことが無かったんだ。

 しかもご丁寧に参加した方の効果がしっかりと発揮されている。


「俺と雨宮さんが一緒に行事に参加したら」

「どうなっちゃうんだろうね……」


 お互いがお互いに期待している。

 もしかしたら自分の効果を相手が打ち消してくれるのではないかと。


「その、雨宮さん。来週の球技大会だけど」

「参加する予定だよ」

「俺もだ。絶対に体調を崩したり怪我しないように気をつけないとな」

「うん」


 その結果次第では、俺達は付き合うことになるかもしれない。

 晴と雨が交わり、曇りになってくれるのであれば。


ーーーーーーーー


 そして球技大会当日。


「おおおおおおおお!」

「おおおおおおおお!」


 俺と雨宮さんはグラウンドで二人して空を見上げて感激していた。

 何故ならばそこはどんよりとした雲で覆われていたから。

 その上で雨が降っていないのだから。


「雨宮さん!」

「晴田くん!」


 あまりの喜びに思わずハイタッチしてしまった。


 なんだなんだと周囲の人が見てくるが知ったこっちゃない。

 晴に雨にと翻弄された俺達がようやく『答え』を見つけられたのだから。


「私、こんなに嬉しい日が来るだなんて思ってもみなかった」

「っ!」


 笑顔を浮かべる雨宮さんがかなり綺麗で思わず見惚れてしまいそうになった。

 暗い表情と笑顔とでここまで印象が変わるもんなんだな。


 相性が良いって分かったことだし、もう一度本気で告白してみるべきだろうか。


 なんてことを考えていた俺が甘かった。


 ポツ。

 ポツ。

 ポツ。


「え?」

「あ……ああ……」


 それまで喜びに満ちていた雨宮さんの表情が一気に曇った。

 俺達の頬に触れたのは天から降り注ぐ試練の雫。


 晴男と雨女が共に過ごしたらどうなるのか。

 雨女が勝ってしまったのだ。


「え~やだ~また雨なの?」

「今日は平気だと思ったのに~」

「濡れるの超嫌なんだけど~」


 周囲から不満のざわめきが漏れ始める。

 そしてその矛先は、空では無く彼女の方に向かい出した。


「誰かさんがいるからだよね」

「ほんっと迷惑なんだけど」

「今からでも帰ってくれないかな」

「皆の気持ちを考えなよ」

「サイアク」


 ふざけるなよ。

 最悪なのはお前達の方だ。


 晴れたら俺のせいで、雨が降ったら彼女のせい。

 そうやって理不尽なことを他人にぶつけるだけでお前らは満足なのかもしれねーが、ぶつけられたほうの痛みを考えろ!


「ごめ……ごめんなさい……」


 晴れ晴れとしていたあの美しい笑顔が、分厚い雲で覆われてしまっている。

 心の中では豪雨が降り注ぎ、やがてそれは表へと流れ出て来てしまうだろう。


 そんなの放っておけるわけがないだろうが!


「うおおおおおおおお!」


 俺は空に向かって全力で叫んだ。


 一気に注目の的になるがそんなものは関係ない。


「俺は晴男だ!おい天気!何雨なんか降らせてやがるんだ!いつもみたいに滅茶苦茶に晴れてみせろ!」


 晴なんて嫌だ。

 汗だくになって辛いだけだ。

 高温の中で球技大会なんてやりたくない。


 だがそれ以上に、雨宮さんを悲しませたくない。

 彼女の悲しみが消えるのであれば、天気にだってケンカを売ってやるさ。


「そんな汚ねぇ布団なんかさっさと剥いじまえ!引きこもってんじゃねーよ太陽!お前が大好きな俺がここにいるんだぞ!さっさと姿を現せええええええええ!」


 無茶無謀。

 そんなことをしても何も変わるはずが無い。

 誰もがそう思っているに違いない。


 だが残念だったな。

 俺は晴男なんだ。


 晴男が強く晴を願ったら、そうなるって決まってるんだよ!


「お、おい!雲が……!」

「マジかよ!」

「陽が刺してきやがった!」


 ふはははは。

 どうだ、これが俺の、晴男の力だ。


「そうだその調子だ!カモン太陽!全てを照らし尽くせ!」

「おい馬鹿やめろ!」

「せっかく涼しかったのに!」

「灼熱の天気になっちまうじゃねーか!」


 クラスメイト達が非難轟々だが、聞く耳など持たん。

 つーかどうせお前ら晴れてようが雨だろうが文句しか言わねぇだろうが。


「うるさい知ったことか!俺が参加するからにはイベントは晴って決まってるんだよ!」


 気付けば灰色の雲は半分以上消えて無くなり、真っ赤な太陽がコンニチハしていた。


「雨宮さん!これで太陽の下で球技大会が出来るな!」

「晴田……くん……」


 何が起きたのか分からずキョトンとしている雨宮さんも美しい。

 だが俺が本当に望んでいるのはもっと美しい彼女の姿だ。

 そしてそれをすぐに見せてくれることになるだろう。


「晴田くん!ありがとう!」


 雲一つない最高の笑顔が見られるのであれば、俺は喜んで晴男になってやろう。


 暑すぎるからか雨宮さんの顔が太陽のように真っ赤になってしまっていることだけが少しだけ心配だが。

どうして晴れたのかとか、どうして雨が降ったのかとか、その辺りの裏設定の話も入れようかと思いましたが、綺麗に締められちゃったので止めておきます。


また、二人の子供は曇属性では無くレア天気属性の持ち主で、イベント日には雪や雹が降り台風が来ます。



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― 新着の感想 ―
[一言] 力入れた方が強いのかな。 現代にあっても天気の影響って強いですから、雨ごいとか天候不順避けとか、引っ張りだこになりそうw なんか台風が沢山来そうな今日この頃ですが、二人の子供の影響かw
[良い点] 裏設定入れずにまとめたところ [気になる点] 雪やら雹やら、、、、 家族でお出掛けするとどうなるんだろう 気になります [一言] スキーに行くと、必ず吹雪きます。ワタシ 学生時代、夏休みに…
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