にぃにの幸せ
城の王宮書庫で勉強をしていると、部屋へ入ってくる妹の声が聞こえた。
「何してるの?」
「お勉強だよ」
歩けるようになったクリスティは、いつの間にか僕の後をついて回り、真似をするようになっていた。
「私も勉強する!!」
そう言ったクリスティは、どこからか絵本を引っ張ってくると、椅子の上で本を読んでいた。
「このお姫様、素敵ねぇ……。そうだわ。私、大きくなったらにぃにのお嫁さんになる」
「それは、無理かな」
「えー、なんで?」
「兄妹で結婚は出来ないんだよ」
「じゃあ、母様と結婚する!!」
「親子でも結婚は出来ないんだ。そもそも女性同士で結婚は出来ないんだよ」
「なんで? よく分からない……」
僕は黙りこくってしまったクリスティの頭を撫でると、近くにあったソファへ一緒に座った。
「それに、僕達は王族だ。好きな相手と結婚は出来ないんだよ。国のために結婚するんだ」
「国のため?」
「そうだ。いつ、いかなる時も民の幸せを優先しなければならい」
「そんなのイヤっ……」
「クリスティ?」
「にぃにが幸せじゃないのイヤっ」
「嫌でも仕方ないんだ。これは決められたことなんだよ。覆すことは出来ない」
「いやなのぉ……」
そう言ったクリスティは泣き出してしまった。僕は近くにいた侍従にクリスティの専属メイドを呼び出すように指示を出すと、クリスティの頭を撫でていた。
「にぃにには、幸せになってほしいの」
「うん?」
「私だって、カルム国の民よ?」
「そうだね」
「お願い。にぃには、好きな人と結婚して幸せになって欲しいの。仕方がないから、私じゃなくてもいいわ。私はお父様と結婚することにしたの」
(父上と結婚も出来ないんだけどな……)
「約束するよ。僕は好きな人と結婚する」
「ほんとう?」
「本当だよ」
僕の回答に満足したのか、頭を撫でているうちに、クリスティは泣き疲れて眠ってしまった。
「幸せな結婚か……」
(出来たらいいけど、たぶん無理だろう)
「エリオット殿下、お待たせ致しました」
「助かった。すまない、泣き疲れて眠ってしまったんだ」
「何か、あったのですか?」
「いや。僕と結婚するとか、義母上と結婚するとか言っていたから、出来ないと伝えたら泣いてしまったんだ」
「それで、どうやって納得させたのです?」
メイドは微笑むと、僕の視線に合わせるようにしゃがんで、話を聞いていた。
「何もしてないよ。最終的には、父上と結婚することで決着がついたんだ。まあ、父上とも結婚出来ないんだけどね」
僕がそう答えると、専属メイドは笑っていた。
「まだ、物事がよく分かっていないのです。仕方がないでしょう。もう少し大きくなれば、エリオット殿下の話を理解できるようになります」
「そうか、そういうものか……」
「国王陛下と結婚したいと言っていたと報告したら、陛下はさぞお喜びになるでしょう」
「でも、出来ないんだろう?」
「はい。でも、親とはそういうものです」
「え?」
「エリオット殿下に子供が出来たら、お分かりになるでしょう」
「随分と先の話になるな」
「その頃には、こんな雑談は忘れているでしょうね」
「いや、覚えておく。エリンだったか? いつも妹の世話をありがとう」
「もったいないお言葉です。ありがとうございます。この先の殿下の未来に、祝福があらんことを」
そう言ったエリンは、祈りを捧げるように膝をついた。教会の信者は、こういった祈りを捧げる事がある。
「クリスティを頼む」
「もちろんでございます」
この時の僕は、この後にクリスティがアーリヤ国へ行ってしまうことや、アイリスと婚約することになるなど、全く予想していなかったのである。




