番外編③ サラのとある1日
(アイリス様の様子がおかしい……)
私の主人であるアイリス様の様子が、最近おかしい──というのも、急に挙動不審になったり、午後のティータイムで出される3段ケーキスタンドに載ったスイーツを、食い溜めでもするかの様に、全て平らげていたり──エリオット様と一緒にいらっしゃる時間も最近、少なくなった様な気がしている。まさかとは思うが、エリオット様が浮気でもして、やけ食いをしているのだろうか?
ケーキスタンドの残りは、だいたいメイドに下げ渡されるため、新人のメイドの子達にいつも分けてあげていた。アイリス様も、それをご存じのはず──どうして、あの量を全て食べてしまわれるのだろうか?
(いけない。考え事をしていたら、アイリス様が帰ってきたわ)
*****
「アイリス様、ティータイムの準備が整いました」
別室で寛いでいたアイリス様に声を掛けると、アイリス様は微笑みながら、こちらへやって来た。
「ありがとう、サラ。あなたも一緒に食べる?」
「いえ、私は結構でございます」
「そう──残念ね。美味しいのに」
そう言って、次々と口の中へお菓子を放り込んでいった。
「あの、アイリス様……」
「なに? やっぱり食べる?」
「いえ、そうではなくてですね。前は、太るからと、お菓子を控えていた様な気がしたのですが──ダイエットは、もうよろしいのですか?」
「……」
「アイリス様?」
「えっと、『美味しいお菓子を食べられる時に食べられるだけ食べよう』って、思ったのよ」
「はぁ……。結婚してからも、私がティータイムのご準備をさせていただきますが?」
「何て言ったらいいのかな──今、食べられるお菓子を明日も、また同じように食べられると思ってはいけないと思ったのよ」
「……」
「今日──たった今、感じている幸福が明日も当然のように、そこにあると私達は信じて疑わないでしょう?」
「まあ、明日も同じ様な1日だと思って、生きてはおりますが……」
「それが問題だと思うのよ。今ある幸せが明日も当然あると思って、生きてはいけないと思うの──後悔しないためにも」
「だから、ケーキスタンドのスイーツを全て食べる事にしたのですか?」
「そうよ。後悔しないために」
「私には、お菓子を全部食べるための口実にしか聞こえないのですが……」
「見方を変えると、そう感じるかもしれないわね」
「アイリス様、ドレス着れなくなりますよ?」
「……」
その後、少し太ってしまったアイリス様に、ドレスを着せるのが大変になってしまい──反省されたのか、ダイエットを決意したご様子でした。




