表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/82

二重スパイ


「昨年の聖女祭の時に、惚れ薬が入った飲み物を、私に渡していたでしょう?」


「……」


 司教様からの指示とはいえ、全く効いていないとは思わなかった。普通に考えても犯罪だ。いくら聖女とはいえ、許されないだろう。


「うちの家系は、代々騎士のせいか、ちょっとした魔術や魔術薬は効かないんですよ」


「すみません」


「それに、そんな事をしなくても、貴方は十分に魅力的だ」


「ありがとうございます?」


「教会からの指示なのですか?」


「……」


「そうか。あの、ゲス野郎ども──おっと、すみません。すぐに陛下に報告して……」


「待ってください」


 私が必死にライナス様の腕を掴むと、ライナス様は赤面していた。


「え、エレナ様?」


「実家に、父と母がいます。『言うとおりにしないと、両親の命はない』と脅されています」


「なんて卑劣な……」


「それに──王族と教会に亀裂が生まれるのも、よくないかと思われます」


「しかし……」


「ライナス様には、惚れ薬が効かなかった。そういう事にして──どうか、国王陛下には内密にしておいていただけませんか? 父と母には、何があっても生きていて欲しいのです」


「そういう訳には、いきません」


 やっぱり無理か──そう思い、泣きそうになりながら、ライナス様を見上げると、予想外にもライナス様は困り切った顔をしていた。


「では、国王陛下には、ご両親の身の安全が確認出来るまで、報告は見送る事に致しましょう。ここからは、私の独断になりますが……」


 ライナス様の話は長かったが、端的に言うと魔術薬にかかったふりをして、教会や司教様の悪事を暴きたいという話だった。


「私に二重スパイなど、務まるでしょうか?」


「なに──私以外に、誰も知らなければいいことです。いざとなったら、私を切り捨てて敵側に寝返ればよいのです。煮るなり焼くなり。私の事は、好きにしてください。貴方のためになら、命をかけても構わない。初めて、そう思える方に出会えたのです。自分の命と引き換えに、貴方が助かるなら本望だ」


「そんな……。私など──」


「騎士団長の代わりなんて、いくらでもいます。ですが、聖女様の代わりはいません。どうか、『私など』と言わずに、私を頼って下さいませんか?」


「そんな。本当に? 頼っていいんでしょうか?」


「もちろんです。私にお任せください」


 今までスパイ活動をさせられているなんて誰にも言えなかった。ライナス様の笑顔に気が緩み、私の中にある張り詰めていたものが決壊していくのを感じていた。いつの間にか涙が溢れ──視界は歪んでいった。


「ライナス様……」


「大丈夫。ずっと側にいて、私がお守り致しますよ」


 ライナス様は私を抱きしめると、泣き止むまで、ずっと側にいて抱きしめてくれていたのだった。




♢♢♢次ページからは『番外編③』になります♢♢♢

サラの城での生活──とある一日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ