番外編③ サラのとある1日
(アイリス様の様子がおかしい‥‥‥)
私の主人であるアイリス様の様子が、最近おかしい‥‥‥。急に挙動不審になったり、午後のティータイムで出される3段ケーキスタンドに載ったスイーツを、食い溜めでもするかの様に、全て平らげていたり‥‥‥。エリオット様と一緒にいらっしゃる時間も最近、少なくなった様な気がしている‥‥‥。まさかとは思うが、エリオット様が浮気でもしてヤケ食いをしているのだろうか?
ケーキスタンドの残りは、だいたいメイドに下げ渡されるため、新人のメイドの子達にいつも分けてあげていた。アイリス様も、それをご存じのはず‥‥‥。どうして、あの量を全て食べてしまわれるのだろうか?
(いけない‥‥‥。考え事をしていたら、アイリス様が帰ってきたわ)
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「アイリス様、ティータイムの準備が整いました。」
別室で寛いでいたアイリス様に声を掛けると、アイリス様は微笑みながら、こちらへやって来た。
「ありがとう、サラ。あなたも一緒に食べる?」
「いえ、私は結構でございます」
「そう‥‥‥。残念ね。美味しいのに」
そう言って、次々と口の中へお菓子を放り込んでいった。
「あの、アイリス様‥‥‥」
「なに? やっぱり食べる?」
「いえ、そうではなくてですね‥‥‥。前は、太るからと、お菓子を控えていた様な気がしたのですが‥‥‥。ダイエットは、もうよろしいのですか?」
「‥‥‥」
「アイリス様?」
「えっと‥‥‥。『美味しいお菓子を食べられる時に食べられるだけ食べよう』って、思ったのよ」
「はぁ‥‥‥。結婚してからも、私がティータイムのご準備をさせていただきますが‥‥‥?」
「何て言ったらいいのかな‥‥‥。今、食べられるお菓子を明日も、また同じように食べられると思ってはいけないと思ったのよ」
「‥‥‥」
「今日‥‥‥。たった今、感じている幸福が明日も当然のように、そこにあると私達は信じて疑わないでしょう?」
「まあ、明日も同じ様な1日だと思って、生きてはおりますが‥‥‥」
「それが問題だと思うのよ‥‥‥。今ある幸せが明日も当然あると思って、生きてはいけないと思うの‥‥‥。後悔しないためにも」
「だから、ケーキスタンドのスイーツを全て食べる事にしたのですか?」
「そうよ‥‥‥。後悔しないために」
「私には、お菓子を全部食べるための口実にしか聞こえないのですが‥‥‥」
「見方を変えると、そう感じるかもしれないわね」
「アイリス様、ドレス着れなくなりますよ?」
「‥‥‥‥‥‥」
その後、少し太ってしまったアイリス様に、ドレスを着せるのが大変になってしまい────アイリス様は反省されたのか、ダイエットを決意したご様子でした。