はじめてのお茶会
婚約者となってから、初めてのお茶会の日‥‥‥。アイリスはピンクのフリルがついたドレスを着て城へ来ていた。可愛いな‥‥‥。と思いつつも、『この間の事を謝らなければ』と思っていた。
「お初にお目にかかります、グレイ公爵家のアイリス・グレイでございます。以後、お見知りおきを。エリオット様」
「第2王子のエリオット・カルムだ。よろしく」
侍従がお茶を淹れて部屋を立ち去ると、アイリスは椅子から飛び降りて、こちらへやって来た。
「大丈夫でしたの? その、私を庇って‥‥‥。ケガとかは?」
「大丈夫‥‥‥。魔術具の御守りを持っていたからね。地面にぶつかる直前に結界が生じて、助かったんだ」
「助けていただいて、ありがとうございます‥‥‥。でも、それと『婚約』は、別だと思いますの」
「え‥‥‥。別?」
「ええ‥‥‥。だって、命を助けてもらっておいて、そんな事を言われたら、断れないじゃありませんの」
「ごめん‥‥‥。嫌だった? 何なら断っても‥‥‥」
「そんな事、ありませんわ‥‥‥。その、エリオット様は素敵だと思います」
アイリスは完全に、そっぽを向いて言っていた‥‥‥。何だか窓に向かって話をしているみたいだ。
(恥ずかしかったのかな?)
「頬が膨らんでるね‥‥‥。何か入ってるの? リスみたいだ」
「えっ、リス? そうですの、さっきまでクルミを仕込んでいたんですけれど、リスさんに会って、クルミを差し上げてしまったんですの。ですから、これはその名残です。クルミの跡がついてしまったんです」
分かりやすい嘘をついたアイリスは、更に頬を膨らませていた。
「それは大変だ‥‥‥。リスさんに優しいアイリスには、これをあげよう」
僕はポケットから、飴玉が入った包みを取り出すとアイリスの手の上にのせた。
「まあ!! キャンディですの!!」
グレイ公爵に、彼女は甘い物が好きだと聞いていた‥‥‥。それに、好きな人の心を掴むには、「胃袋を掴むといい」と侍従達が話しているのを、前に聞いたことがあったのだ。
彼女は包みを開くと、飴玉を口の中へ入れ、嬉しそうな顔をしていた。
「美味しい」
「アイリス、こんな僕だけど婚約してくれる?」
「もちろんですわ!!」
僕は彼女の笑顔に救われた‥‥‥。なら、僕はこの笑顔を守っていこう。正直なところ、『国のため』なんて言われても、ピンと来ない。それなら、誰かのために生きよう‥‥‥。王族としては、間違っているのかもしれない。でも、僕が国王になることはないだろうし、なったとしても、アイリス以外に思いを寄せることは、きっと出来ないだろう。
(アイリスがいなくなったら、その時はエリオット・カルムがいなくなるときだ)
この重い愛を、アイリスに気取られる事なく、アイリスの心を掴まなくては‥‥‥。
目標が定まった僕は、今まで以上に勉強と剣術の稽古に励んだのだった。
♢♢♢次ページからは『番外編②』になります♢♢♢
聖女エレナ様と騎士団長ライナス様のお話になります。