願い
目が覚めるとベッドの上だった。侍医が傍らにいるのを確認して、僕は起き上がった。
「あれ、彼女は? アイリスは?」
「帰りましたよ。大丈夫です。彼女はかすり傷一つ、負ってません。エリオット様、今日は安静に──って、エリオット様!!」
僕は侍医の静止を振りきって、廊下を走って行った。彼女に、もう会えないのだろうか? そう思うと悲しくて、涙が出そうになるのを必死に堪えていた。
普段、来てはいけない謁見の間まで来ると、側面にある扉から中へ入った。父に「急用がある時だけ使ってもいい」と、言われている扉だった。
「エリオット? 息を切らして、どうしたというのだ?」
「父上──お願いがあります」
「今日の仕事は、終わったからいいが──まあ、いい。申してみよ」
「アイリスを──アイリス・グレイを僕にください。勉強も剣術も今まで以上に頑張ります。だから、アイリスを僕のお妃様にしてください」
「……」
「あの、だめですか?」
「いや、構わんが……。もともと、そのつもりだったんだ。だが、珍しいな。お前が何かを『欲しい』と言ったのは、初めてだ」
「そうでしたか?」
「よかろう。本人の了承は必要だが、王族の婚姻の申し入れは、ほぼ命令みたいなものだからな──断る家はないだろう。お前は第二王子であることだし、好きに生きるがよい」
「ありがとうございます」
「一つだけ、言っておこう。相手の気持ちを、大切にするんだ」
「承知致しました」
僕は臣下の礼をすると、広間を後にした。嬉しいの半分、もう半分は不安になっていた。嘘をついたこと──正直に言ったら、アイリスは怒ってしまうだろうか……。アイリスは、謝ったら許してくれるだろうか。




