番外編① 出会い
アイリスに会ったのは、僕が8才の時だった。
その日、アイリスは6才になったからと、父親のグレイ公爵と一緒に国王陛下のところへ挨拶に来ていた。
回廊で見かけた時、瞳がきれいな子だな‥‥‥。と思ったが、僕と年の近い子達は、いつもお世辞を言ってニコニコしているから、あまり近寄りたくは無かった‥‥‥。上っ面の関係しか築けない僕は、いつも灰色の世界にいる気がしていた。それに、関係が失敗が出来ない僕にとっても、高貴な身分の令嬢令息と一緒にいるのは息の詰まる思いだった。
王子だからと言われて、寝ている時間以外は、常に勉強か剣術をしていた。遊んだりする時間は無く、国王である父に言わせれば、「上に立つものは、それなりの努力と覚悟が必要」という事らしかった。
国王には兄上がなるのだ‥‥‥。僕には関係ない。そんな考えが頭を過ったが、いつ何が、どうなるか分からないという事も分かっていた‥‥‥。努力を怠ることは許されない。
勉強が終わって、剣術の稽古場へ向かう途中、さっきの女の子がこちらへ向かって歩いて来るのが見えた‥‥‥。父親とはぐれてしまったのか、回廊をウロウロしている。
「お嬢様、いかがなさいましたか?」
稽古場がすぐ近い事もあって、今日は侍従を連れていなかった。僕が王子だと気づいたら、他のみんなと一緒で気を遣うだろう‥‥‥。そう思って、何となく嘘をついてしまった。
「貴方は‥‥‥。城の人?」
「左様でございます」
僕は先日、稽古場で習った騎士の礼をしてみせた。うまく出来ているだろうか? そう思って、下げた頭をゆっくり上げると、彼女の綺麗な瞳は涙で、ゆらゆらと揺れていた。
「なっ‥‥‥」
「お父様、御手洗いの後どっかいってしまったの‥‥‥。探したんだけど‥‥‥」
「では私めに、探す役目をお与えください。お嬢様、お名前は?」
「あいりすぅ‥‥‥。アイリス・グレイよ。本当は、もっとちゃんと挨拶しないと駄目なの。後で叱られちゃう」
「心得ています‥‥‥。この事は、誰にも言いません。お約束致します」
「ほんとう?」
「はい‥‥‥。秘密です。私とアイリス様の」
「約束よ」
僕は彼女の手を取ると、来た道を戻っていった。彼女の話を聞いてみると、かなり探し回ったのか、だいぶ離れた場所へ来ていることが分かった。
「あなた、お名前は?」
「エリオットです」
「エリオット、よろしくね」
「はい、お嬢様」
僕は恭しく頭を下げると、彼女をエスコートした。