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精霊の存在

 数日後。中庭の四阿(あずまや)の近くでオーベル様と偶然すれ違った。日中暑かったせいか、彼は上着を脱いで脇にかかえており、上半身はシャツ1枚という涼しげな格好をしていた──私は一歩前へ出ると、淑女の礼(カーテシー)をした。


「お久しぶりです、オーベル様」


「アイリス様、お一人ですか? 珍しいですね」


「最近は、一人で出歩く事も多くなったわ。なんたって、事件は全て解決したんですもの」


「そうですね──ところで、アイリス様は、精霊の存在を信じますか?」


「急に何かしら? 精霊? 分からないけど、精霊みたいな声を何回か聞いたことがあるわ」


「本当ですか? どんな時に聞きましたか?」


「ええと……。危険が迫っている時かしら?」


「そうですか」


「どうかしたのですか?」


「いえ、最近の魔術研究で分かった事なのですが、古くから魔術は精霊の力を借りて行われていると信じられていたのですが──どうやら違うみたいだということが、最近の研究結果で明らかになりまして……」


「精霊は存在しないの?」


「いえ、精霊をそもそも見たことがありませんし、存在するのかどうかも分かりません。もしかしたら精霊による魔術もあるのかもしれませんが、最近発表された魔術理論では『精霊は存在しない』というものでした」


「……」


 私は驚きすぎて、言葉が出てこなかった。


「アーリヤ国の学者とも話し合いましたが、『いないのではないか』という結論に至りました。これからは科学──いえ、魔術でその真理を明らかにしていきたいと思っております」


「いいわね、目標があって」


「おそれ入ります」


 オーベル様を見ると、清々しい笑顔をしていた。本当に魔術が好きだという思いが、伝わってくる。


「オーベル様──私、結婚することに決めたわ」


「それはそれは──おめでとうございます」


「残念だったかしら?」


 私が冗談半分に言うと、オーベル様の目は残念な子を見る目になっていた。


「私としましては、メイドのサラが気になっていたのですが……」


(待って!! サラって、ジルがいいんじゃなかったっけ? えっと、えっと──どうしよう?!)


「オーベル様、世の中には、いろいろな女性がいると思うんです」


「それは貴方を見ていれば、よく分かります」


「うっ……」


 真実を突きつけられて、私はぐうの音も出なかった。


「大丈夫ですよ。無理強いなんて決してしませんから」


「当然です。サラは嫁に出しませんから」


「貴方は父親ですか?!」


 ひとしきり笑い合うと、オーベル様は研究棟に向かう途中だったらしく、「時間だ」と言って、笑いながら去っていったのだった。




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