償い
「母は幸せだったのでしょうか?」
「私に、幸せだったのかどうかは分からない。あの時の判断が正しかったのかと‥‥‥。今でも時々、考えたりするよ。ただ、子供は関係ないから、ミケーネの子は生かさなければならないと思った。特にこの辺りは、魔素が少ないと言われていたし‥‥‥。アーリヤ人には、住みにくいのだろう」
「私は一体、どうすれば‥‥‥」
「私達は、君に罪を償ってもらいたいと思っている。ただ、良かれと思いアーリヤ国に移住させたことが、クリスティにとって悲しい思いをさせることになってしまったのは、申し訳ないと思っている」
「‥‥‥‥‥‥はい」
エリオット様は隣で、心ここにあらずという顔をしていた。妹が生きていたということ以上に、両親の話は、今までに聞いたことがなければ衝撃的であろう。
「エリオット様‥‥‥。大丈夫ですか?」
「‥‥‥ああ。少し驚いただけだ」
王妃様は振り返ると、エリオット様に話し掛けた。
「エリオット、何か言いたいことはありますか?」
「いえ、私は何も‥‥‥。妹は、てっきり亡くなったものだと思っていました。今は‥‥‥。驚いています。これからの時間は、復讐などではなく、自分のために使ってほしいと思っています」
「そういうことですよ、クリスティ。あなたはまだ若く、時間がたくさんあるのですから‥‥‥。罪を償う間、これからどうするべきかゆっくり考えなさい。私も話を聞くことぐらいは出来ますから‥‥‥」
「ありがとうございます」
クリスティは更に俯き、涙ながらに答えていた‥‥‥。その後、しんみりとした雰囲気のまま、面談は終了した。部屋を出ると、エリオット様に呼び止められる。
「アイリス、少し話したいことがあるんだけど‥‥‥。私の部屋へ来てくれる?」
「はい」
まだ遅い時間ではなかったし、今日の予定は空けてあったので、そのままエリオット様の部屋へ向かった‥‥‥。部屋の中に入ると、侍従が奥の部屋から出て来て、温かいお茶を淹れてくれた。
「エリオット様、お疲れ様でした」
「アイリスもお疲れさま‥‥‥。疲れたね」
「王妃様のお話には驚きました。エリオット様はご存知だったのですか?」
「いや、私も初めて聞いたよ」
「エリオット様の妹は、生きていたんですね。何でもアーリヤ国では、公爵家に身を寄せていたとか?」
「ああ。ミケーネ妃が生まれ育った家らしいのだが、公爵家では他国の姫を、どういう扱いにしたらいいのか分からなかったらしく、いないものとして、同じ屋敷の別棟に住まわせていたらしい」