彼女の想い
「私の母は、カルム国の王妃様が原因で──心労が祟って亡くなったと聞いております。私が病気を理由にアーリヤ国に亡命したのも政治的配慮が原因だったと聞きました」
「政治的配慮?」
「私の母は、王妃様に疎まれていると聞きました。それで、母の子である私が邪魔で、病気を理由にアーリヤ国へ追い払ったのだと聞いております」
王妃様のことは良くは分からないが、彼女や彼女の母親が、カルム国の気候や環境に合わなかったのではないか──という疑問が頭を過る。
「あなたを隣国へ連れて行ってもらったのは、このままカルム国にいても、環境の問題で身体が持たなかったからです」
「それでも……。記憶にない母が、どんな思いで嫁いでいったのか、それに母が『命に代えてでも産みたい』と言って産んだくれた私自身が、カルム国やアーリヤ国に、存在すらしていないことになっているのは、苦しくて──消えてしまいたくて、しょうがなかったのです」
「それは……」
「少し、私が説明させてもらってもいいかね?」
国王陛下が手をあげて、私達を見ていた。クリスティは俯き、身構えるように身体を強張らせていた。
「──はい」
「君の母、ミケーネが私の元へ嫁いで来たのは、本人の希望があったからなんだ」
「……」
「我が妃、コルネリウスの愛人になるために……」
(コルネリウス? 確か、周りにいるメイドや護衛達は、王妃様のことを『コリン様』と呼んでいた気がするけれど?!)
「コルネリウスは、私と年が近く学友であり、親友だった。昔から美形だったが、成長途中で何かが違うと思っていた──実は、コルネリウスは、男性でも女性でもない『中性』だったのだ」
「……」
「もちろん、そのまま生きることも可能だったが、その当時は社会に適応するために、どちらかの性に転換する必要があったのだ。それに侍医は、そのままの性、中性で生きていては、いずれ病気になる可能性が高いから施術を受けた方がよいと言っていた。それもあって、魔術による『性転換術』をコリンは受けたんだ」
「私は──そのことで随分と悩みましたが、王を支えていくのには、それが一番よい方法だと……。その時は、そう思ったのです。私がいた公爵家では、王家に尽くすことが当然でしたから」
王妃様はそう言うと、目を伏せていた。国王陛下は、一つ咳払いをすると話を続ける。
「国同士の交流が、まだ盛んだった頃──亡くなったミケーネ妃は、カルム国へやって来ては、私達の剣術の稽古を、いつも楽しそうに眺めていた。いま思えば、彼女はあの頃からコルネリウスが好きだったのかもしれない。彼女は、側妃でも構わないから、『どうしても妻の側にいたい』と言って、私の子供を産むことを条件にカルム国へ嫁いできたんだ」
クリスティは俯いたまま、国王陛下の話を聞いていた。




