終息
「服従の魔術‥‥‥」
「アイリス様?」
王妃様を操る緑の光の中には、黒い色が含まれていた。
「オーベル様、あれを──光魔法をお願いします」
私が目配せをして頷いて見せると、オーベル様は何も言わずに手のひらを上へ向けた。
「何なの? 貴方たちは‥‥‥。ごちゃごちゃと、うるさいわね」
「ランブレ!!」
オーベル様が大きな声で叫ぶと、頭上に光が現れた。クリスティが太陽のような光の眩しさに目を細めている隙をついて、私は前に飛び出すと走り出した。
「なっ‥‥‥」
そのまま突進すると、クリスティの懐に突っ込んだ。クリスティがポシェットみたいにして肩から提げているボックスに緑の集合体が見えたため、そのボックス自体が魔素の発生源で間違いないと思ったのだ‥‥‥。魔素は無限に出てくるのか、絶え間なくボックスの中には光が溢れている。
私はポシェットを奪うと、床に叩きつけるようにして破壊した。途端に緑の光と見えていた煙は収束し、渦を巻きながら少しずつ消えていく‥‥‥。
「何? いったい何なの? 何てことしてくれるのよ!!」
途端に魔術が使えなくなったのか、王妃様が崩れ落ちたのが見えた。オーベル様が慌てて駆けつけて、異常が無いか様子を見ている。
私は泣き崩れながら、暴言を吐いているクリスティの前に立つと、これで終わりという事を『宣言』するために口を開いた。
「エリオット様の妹、クリスティ? 後で洗いざらい話してもらいますからね?」
*****
国王陛下と王妃様の体調が完全に戻ったのは、それから1週間後のことだった‥‥‥。沙汰を下す前に、国王陛下と王妃様、それからエリオット様と私の4人でクリスティとの面談を行う運びとなった。
4人だけでは何かあったときに問題なので、オーベル様と護衛のジル、それから近衛騎士数名に、入り口付近で警備に当たってもらっていた。
クリスティは意気消沈した様子で、明らかに事を企てるような様子はなかったが、彼女の手には魔術が使えない様にと手枷が嵌められていた。
「それで? 私に恨みがあったようですが、何か申し開きはありますか?」
王妃様が扇を開き、口元を隠しながら話している‥‥‥。クリスティは、身じろぎすると深く俯いた。
「何もありません」
「そう‥‥‥。分かりました」
「あの、王妃様‥‥‥。発言をお許しいただけますか?」
私がそう言うと、国王陛下と王妃様は振り返って、こちらを見ていた。
「‥‥‥許可します」
「ありがとうございます」
私はクリスティに向き直ると、俯いているクリスティに、なるべく優しく話し掛けた。
「クリスティは、『王妃様に復讐する』と言っていましたね‥‥‥。あれは、どういう意味だったのですか?」