王子の帰還
数週間後。イル王から連絡が入り、ヘンリー王子を迎えに行ったオーベル様は、エリオット様からの指示を受けて登城すると、城の客室にヘンリー王子を案内した。準備が整い次第、国王陛下に帰還の挨拶と無事の知らせをするとの事で──もう間もなく到着するという連絡を、伝令係の衛兵から受けていた。
国王陛下のいる謁見の間に続く廊下の前で、ヘンリー王子の帰りを待っていたエリオット様と私は、現れたヘンリー王子の様子に驚きを隠せなかった。
廊下の向こう側にある通路から、正装をして現れたヘンリー王子の表情は、にやついていた。ブロンドヘアの女性と腕を組みながらこちらへ歩いて来たが――何だか気持ち悪い。
ヘンリー王子が私達の近くまで来たので、私は一歩前へ進み出て挨拶をした。
「ヘンリー様……。心配しておりました。ご無事で何よりです」
すると、ヘンリー様は薄ら笑いを浮かべて、こちらへ向き直った。
「ああ、心配かけたな」
(まだ、呪いが解けていないのだろうか?)
そんな風にも思ったが──どういう訳か、エリオット様と話をすることもなく、ヘンリー王子とブロンドヘアの女性は、謁見の間へ入っていった。
オーベル様は、私達と一緒にその場へ残り、肩をすくめていた。エリオット様は怒っているのか、肩を震わせていたが、息を吐くと視線を上にあげた。
「オーベル、ご苦労だった」
「隣にいた女性は、ヘンリー様の婚約者みたいですよ」
「え?」
「何を考えているんだか……」
「ま、まあ。でも、お元気そうで何よりです」
「はぁ──アンナ嬢をほったらかしにしておいて、他国で婚約者をつくるとは、兄上は一体何を考えているんだ? 呪いをかけられていたとはいえ、兄上は戦犯みたいなものなのだぞ」
ヘンリー様の元婚約者、アンナ様は完全に操られていたかどうか不明なため、まだ軟禁状態だった。ヴァイオレット家が取り潰しになる事がほぼ確定しているため、もはや帰る場所も今は無い状況なのだ。
「殿下。ヘンリー様が婚約者だと言っている女性は、アーリヤ国の公爵家の方で、名を『クリスティ』と言うらしいのですが──上手くは言えませんが、何かがおかしいと思います」
「兄上は、また呪われているのか?」
「いえ。今は──そんな事は無いようなのですが、婚約者のクリスティ様には、何か含むところがあるように思われるのです」
オーベル様にしては珍しく、歯切れの悪い言い方をしていた。
「含むところ──誑かされているということか?」
「まあ、そうですね。そんなところです」
(そう言えば、リン王女は気候が合わないから、カルム国に嫁ぐことは出来ない。みたいなことを、言ってたわよね──お相手のクリスティ様は、その事をご存知ないのだろうか?)
「とりあえず、様子見だな」
「私も、それが良いかと思われます」
「オーベル、なるべく気をつけて見ていてくれ。何かあれば報告を」
「はっ!!」
オーベル様が騎士の礼をした瞬間、謁見の間から爆発音が聞こえた。




