表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/82

違和感

 次の日の朝早く、アーリヤ国の人達は帰っていった。何でも魔術陣を使った、転移魔術を使えば一瞬で、自国まで帰れるらしい──どおりで、伝書鳩を送った数時間後に、こちらへ来れた訳だ。


「エリオット様、お疲れ様でございます」


 見送りをしていたエリオット様は、イル王が帰ると小さな溜め息をついていた。


「アイリス、本当に疲れたよ。お疲れ様」


「お疲れ様です。話し合いは、どうでしたか?」


「カルム国の国家予算1年相当の賠償で、手を打ってもらったよ。それには、あの紙の内容も含まれている」


「上手くいって良かったですね」


「ああ。ただ、兄上のことはあまり聞けなかった。無事なのは口頭(こうとう)で確認できたのだが」


 私達は来た道を戻りながら、話し続ける。


「ええ。私もリン王女からヘンリー様は保護されていると聞きました」


「どうしたものかな……。結局、キース国王時代のことは、聞けずじまいだったし」


「そうですね」


「兄上の容態が落ち着いたら、連絡すると言っていた。そしたら、誰かに迎えに行ってもらおうかと思っている──たぶんオーベルに、頼むことになるだろう」


(アーリヤ国の情勢は、落ち着いているのだろうか? 迎えに行くのも大変そうだ)


「分かりました。私も行きます」


「いや、アイリスは城にいてくれ。私が心配だ」


「分かりました」


「いろいろ言って、すまない。アイリスには、いつも助けてもらっているのに……」


 エリオット様は、渡り廊下の途中で立ち止まると俯いていた。


「エリオット様──どうかされましたか?」


「……いや、これで事件が全て収まった気になっているが、母上の毒殺未遂事件が、まだ解決していないだろう?」


「あれは……。確か犯人がメイドでしたよね? ヴァイオレット公爵が裏で指示していたのでは、なかったのですか?」


「今のところ、確証がない。でも、なんだか小骨が喉に引っ掛かっている様な、違和感があるんだ。何か見落としているような……」


「確かに。今までの事を思い出すと、不可解な点も多いですよね。アーリヤ国のスパイが全てやった事であれば、納得できるのですが」


「ああ。司教は自害してしまったし、聖女エレナは脅されていただけで、ほとんど何も知らされていなかったみたいだしな」


「……」


「……」


 私達は再び歩き出し──しばらく無言のまま歩いていたが、気がつくと執務室の前へ到着していた。


「今日は疲れただろうから、ゆっくりお休み」


 今日は半年ぶりの休暇だった。エリオット様は、私の身体をそっと抱きしめると微笑んだ。


「はい、ありがとうございます」


「アイリス、またね」


 護衛騎士を引き連れて、私は部屋へ戻った。警戒体制は、いつまで続けるのだろうと思ったが、そんなこと誰にも聞けないと──そう思ったのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ