馴れ初め
「馴れ初めと言いましても、幼い頃からの婚約者ですし‥‥‥」
「でも、愛しているのでしょう?」
「‥‥‥え、ええ」
(うーん‥‥‥。外交だから仲の良さをアピールするべきかしら?! でも明らかに小学生くらいの見た目の彼女に、どんな風に話していいのやら‥‥‥)
そんな事を考えていると、リン王女は胸の前で手を組み、テーブルから身を乗り出すようにして言った。
「エリオット様は、素敵ですわね‥‥‥。まるで、絵本の中から出てきた王子様みたい。私も妃に立候補していいかしら?」
「‥‥‥へ?」
ものすごく間抜けな声を出してしまった。胃の辺りにモヤモヤとしたものを感じる。
「フフッ、冗談ですわ。何でも、こちらの気候は私達アーリヤ人には合わないらしくて‥‥‥。到着する前に兄から、釘をさされておりますの。『この国には嫁がせない』と」
ああ、そうか‥‥‥。と思った。イル王は、きっとカルム国に魔素が少ないことを知っている。
(それにしても冗談って‥‥‥。私、揶揄われているのかしら?)
「どうかしまして?」
「いえ。あの、実はお聞きしたいことがございまして‥‥‥。カルム国の第一王子、ヘンリー王子は、ご存知でしょうか?」
私が不意に話を逸らすと、リン王女は首を傾げながら答えてくれた。
「ええ。知っていますわ」
「実は今、行方不明になっておりまして‥‥‥。アーリヤ国にいるのではないかと思われるのですが、何かお心当たりはございませんか?」
「‥‥‥私が言っていいのかどうか分からないのですが、アーリヤ国の───とある公爵家に、こちらから保護をお願いして、預かって貰っています。ただ、呪いをかけられていたせいか、ひどく混乱していて‥‥‥。もともと身体が弱かったのか、今は伏せっています。兄は時期を見て、お話するつもりだったと思うのですが」
まだまだ子供に見えるが、対応はしっかりとしている。真面目な回答に、私は面食らってしまっていた。
「いえ‥‥‥。お話いただき、ありがとうございます。無事と聞いて、ひとまず安心致しました」
「そう言っていただけると助かります」
「それと、言いづらいのですが‥‥‥」
「何でしょう?」
「いずれ分かることだと思うのですが、ヘンリー王子が戦争を仕掛けたのも、誰かに操られていたみたいなのです。その人物は、おそらくアーリヤ国にいます。誰なのか、どの国の者なのか、分からないのですが‥‥‥」
「こちらでも、ある程度状況は把握しております。おそらく、我が国アーリヤ国の一部の貴族と、カルム国の一部の貴族が、裏で手を組んでやっていたのでしょう。ヘンリー様に害を為した者は既に捕らえられて、罰せられておりますが、我が国には残念ながら好戦的な貴族が多く、関係者を芋づる式に捕らえれば、国の半数以上の貴族が捕まって、国の経営自体が立ち行かなくなるのです。本当に頭の痛い話です」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
お互い溜め息をつき、しばらく沈黙してしまう‥‥‥。これではいけないと思い、口を開く。
「そう言えば‥‥‥。リン王女は、芸術がお好きなのですか? 先ほどは熱心に絵画をご覧になっていらっしゃいましたね」
「そうですの!! 私、絵画や芸術品を眺めるのが好きで、描くのも好きなのですけれど、こうやっていろんな国でいろんな作品を見て、いろんな人と知り合って‥‥‥。将来は展示会を開くのが夢なんです!!」
「まあ、素敵ですわね」
「ふふ‥‥‥。出来れば、いろんな国のいろんな作品を、展示したいと思っておりますの。こうやって繋がりを作ったり、外交が今よりもっと盛んになれば、戦争なんてどうでもよくなるって、そのうち無くなるって‥‥‥。思えませんか?」
前世では、国同士の交流はとても盛んだった。でも、生きている間に戦争は起こった。私がいた日本では起こらなかったが、そんなに上手くいくとは思えない。でも何も出来なかった私よりも、すごいと思ったし、素晴らしい考えだと思った。
「素敵ですね。応援致しますわ」
「アイリス様も、是非ご参加ください」
「ふふっ、分かりましたわ。楽しみにしております」
その後も、お互いの国の文化について語り合い、すっかり日が傾いて会議が終わる頃、お茶会はお開きになった。