異文化交流
私は城内を案内しながら、リン王女にカルム国の歴史について語った。もちろん、初代国王の詳しい話については、話を伏せて進める。どこまで彼女が話を知っているのか分からないし、初対面であれこれ話す訳にはいかないと思ったのだ。
回廊の至る所に飾られている肖像画や美術品の紹介をすると、目を輝かせて作品を眺めていた。小さい子のキラキラした目を見て、そういえば、私もこんな時があったなぁ──などと、遠い昔を思い出していた。
ひと通り案内を終えると、会議室の向かいにあるサロンへ、メイドや護衛騎士達と連れ立って移動した。サロン担当のメイドに、ティータイムの準備をしてもらう。
私が運ばれてきたお茶に口をつけると、リン王女お付きの侍女が毒味をしてから、お茶会が始まる。リン王女は、お茶を一口飲んでから話し始めた。
「城の中を案内していただき、ありがとうございました。大変勉強になりました。やはり、異国の文化を学ぶことは大変素晴らしいですわね。アイリス様は慈善事業に力を入れ、バザーの開催を後押ししたり、たくさんの施設に寄付をしていると伺いました。素晴らしい行いですわ」
「いえ、そんな──公爵家の者として、当たり前の活動をしているだけですわ」
修道院送りになる予定だったから、慈善事業というか、どっちかっていうと、これからお世話になりますっていう、『賄賂』みたいなものだったけどね!!
「噂では、国内すべての修道院に寄付をしているとか──とても真似出来るような事ではありませんわ。失礼ですが、そんなにバイタリティのある方には、お見えになりませんでしたの。尊敬致しますわ」
確かに悪役令嬢は、慈善事業を行うような人物には見えないだろう。私が愛想笑いをしていると、リン王女は「リン様!!」と、侍女に窘められていた。
「今日、私は十分な説明が出来ていたでしょうか? 何か分からないことがあれば、何でも仰ってくださいね」
私がそう言うと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「それでは、お言葉に甘えてまして……」
「何かしら?」
「アイリス様は、エリオット殿下と婚約関係にあると伺いました。その──どういった馴れ初めでしたの?」
「ぶっ!!」
私は飲んでいたお茶を、吹き出しそうになった。口にほとんどお茶を含んでいなかったのが幸いだ。
リン王女はテーブルに身を乗り出し、目を爛々と輝かせていた。きっと、恋バナに興味のある年頃なのだろう。
「リン様!!」
リン王女は、お付きの侍女に再び窘められて、頬を膨らませていた。そんな彼女へ微笑むと、私は扇を開いて口もとを隠しながら話した。




