国際会議へ向けて
それから数週間の間、アーリヤ国との話し合いに向けて会議が行われた。
エリオット様は、宰相や側近たちの意見をまとめる為に何回も会議を開き、細かいところまで話を詰めると、国王陛下に詳細を報告し、議会の承認を経て国際会議の申し入れを行った。後はアーリヤ国からの返答を待つのみである。
一段落したエリオット様は、昼過ぎのアフタヌーンティーの時間に合わせて、私の部屋まで来ていた。
「何だか久しぶりな感じがするね、アイリス」
「本当ですね。数週間ぶりなのに、何年も会ってなかった気がします」
エリオット様はハッとした顔になると、私の隣に来て優しく声を掛けてきた。
「寂しい思いをさせてごめんね、アイリス。これからは、なるべく毎日来るよ」
「嬉しいです‥‥‥。ありがとうございます」
(うーん‥‥‥。毎日って、エリオット様の仕事は大丈夫なのかしら? 執務室から、ここまで遠くはないけれど、近くもないのよね)
「国際会議は、どうやら自国でやることになりそうなんだ。当事者として、出来ればアイリスにも参加してもらいたい」
「もちろんですわ!!」
私が息巻いて返事をすると、エリオット様は引いていている様子だった。
「あ、うん。あまり張り切らなくても大丈夫だからね」
「エリオット様‥‥‥」
「何だい?」
「ヘンリー様は、まだ見つかっていないんですよね? アーリヤ国から何か情報を聞きだせれば良いのですが‥‥‥」
ヘンリー王子が見つかったという話は聞いていない。婚約パーティーの時に出てきた映像から、おそらくアーリヤ国内にある、ヴァイオレット公爵の屋敷ではないか‥‥‥。という話だったが、実際には分からずじまいだった。アーリヤ国との間に小競り合いが起こり、入国が制限されてしまったのが原因だ。
「ああ、そうだな。何日か滞在するだろうから、折を見て話を聞いてみよう」
「それから、機会があれば初代国王の事も聞いてみたいです」
「初代国王‥‥‥。キースか。そうだな、晩餐会の時にでも聞ければ良いが‥‥‥。イル王は一筋縄ではいかない人物みたいだからな。うまく話を聞ければいいんだが‥‥‥」
「そうですわね‥‥‥。まあ、いざとなったら、お付きのメイドの方に伺ってみようかしら?」
「アイリス? 勝手なことをしてはいけないよ」
エリオット様は私の髪を撫でると、人差し指で鼻先をチョンと突ついてきた。
「分かっていますわ」
私が鼻先を右手で押さえていると、エリオット様は私の左手を引き、頬に口づけをした。
「!!」
「そろそろ時間だ。執務室へ戻るよ」
呆気に取られている私を置いて、エリオット様は颯爽と部屋を出て行ったのだった。