契約書と利益のある遺産
「つまり、この紙は魔術の改変が出来ない用紙になります。殿下は判を押す時の紙が、特別な用紙を使っていると気づいていらっしゃいましたか?」
「魔術契約書だろう? そう言われてみれば、少しザラザラした用紙を使っているな」
「それは、魔術の制約を受けないために莫大なお金をかけて、紙自体に別の物質を混ぜ、何重にも結界を施して契約書の為に特別に作った用紙になります。普段使っている紙には基本的に紙に『魔素』が含まれていますので、契約の改変が簡単に出来てしまうのです。でも、この紙は普通の用紙で、魔術の改変に対する防御魔術も『プロテクト』のみで済みます」
プロテクトは『シールド』の簡易版で、簡単に使用出来る防御魔術だ。例えば研究する際に、手袋をしない代わりに手にシールドの結界を張ったりすることもある。もちろん魔術が使える者、限定での話にはなるが。
「つまり‥‥‥。材料費を安く出来るこの紙は、カルム国にとって利益のある遺産になる訳か」
「森では魔素が増え続けているので‥‥‥。現在、生えている木に限っては、有効だと考えられます」
「‥‥‥損害賠償の件は、何とかなりそうだな!!」
「エリオット様、あまり木を切りすぎるのも良くないのではありませんか?」
この世界での生態系は良くわからないが、森林破壊は良くないのではないか‥‥‥。そう思い、エリオット様へ尋ねると、代わりにオーベル様が答えていた。
「アイリス様、今の森は全体的に木が育ちすぎていますので、間引いても大丈夫でしょう。その方が木が育つかと思われます」
前世で聞いたことがある話だわ‥‥‥。確か『間伐』とか言ったかしら。古い木を間引くことで、他の木の成長を促すのよね。
「あれで‥‥‥。あそこから、間引いても大丈夫なのですね」
「はい、大丈夫です」
よく分からないが、オーベル様が大丈夫と言うのであれば、大丈夫なのだろう。
「さっそく会議にかけてみよう。オーベル、助かった。礼を言う」
エリオット様が頭を下げると、オーベル様は跪き、騎士の礼をしていた。
「また何かございましたら、お声かけください。最善を尽くしたいと思います」
部屋を出て外廊下を歩きながら、エリオット様と禁書庫の話をしていた。
「結局、紙の上半分は見つかりませんでしたね」
「見つからなくても、遺産は見つかって良かったよ。オーベルが言うには、この地図は改装前の禁書庫の見取り図らしいからな」
その後、エリオット様に部屋まで送ってもらったが、あちこち歩き回った事をサラに怒られてしまった‥‥‥。けれど、久しぶりに楽しかった私は、話半分にお説教を聞いてしまい、余計に怒られてしまったのだった。