『叫び』
目の前にある本棚をずっと探していたが、なかなか紙切れの上半分は見つからなかった。
「エリオット様、こちらは全て見終わりました。他に探す場所はありますか?」
「いや、ここだけだ」
部屋の奥から聞こえてきた声に振り返ると、エリオット様は四角い台の上にあるケースを眺めていた。
「エリオット様、何をご覧になっているのです?」
「森の洞窟で採れた石を見ていた──森に関係しているのではないかと思ってね」
四角いケースの中には仕切りがあって、宝石の原石の様なものや、鈍い光りを放つ小石が入っていた。
「きれいですね。これが家宝でしょうか?」
「うーん、どうだろう。これだけでは分からないな。この石に何かしらの力があって、魔力を加えると何かが起こるとかかな……」
「何かって何です?」
「さあ、なんだろうな?」
私たちは顔を見合わせると笑いあった。
「ははっ……。どう考えてもただの石だよな」
「オーベル様に聞いてみるのはどうでしょう? もしかしたら、何か知っているかも知れませんし……」
「そうだな。後で聞いてみるとするか──もうこんな時間か。アイリス、そろそろ戻ろう」
「ええ」
部屋から出ようとして振り返ると、そこには大きな絵が立て掛けられていた。
「きゃっ?!」
絵を見て驚いてしまった。壁に立て掛けるように置かれていた絵画は、想像以上に斬新かつ、大胆で目が奪われるものだった。例えようのない絵だったが、あえて例えるならば──ムンクの『叫び』だろうか。
「すごい絵ですね。びっくりしてしまいました」
「その絵は、魔力を押さえる力があるらしいんだ」
「魔力を押さえる力?」
「魔力が多すぎて、制御できなくなった者に見せると、魔力を鎮める効果があるらしい──本当かどうかは、分からないけどね」
「魔術具でしょうか? 魔素が少ない国では、あまり必要がないかもしれませんね」
「全くだ。おそらくは初代国王時代のものだろう。これが必要な人物は、我が国にはいないと思う」
「ええ。それにしても、すごい数の絵ですね」
「ああ。これでも入りきらなくて、処分出来そうなものは処分したんだよ」
「これでですか──あら?」
部屋の隅に置かれている、1枚の絵を見て既視感を覚えていた──気のせいだろうか。
「この絵。誰かに似てますね」
「その絵は、初代国王キースが描かれたものだ」
「え?! 女性ではありませんか?」
「初代国王は、実は女性だったらしいよ。実際に男性のような振る舞いをしていて──キース国王が生きていた時代も、側近以外には、あまり知られていなかったみたいなんだ」
「そうだったのですか……。あ!! 分かりました」
「何が分かったの?」
「この絵の人物を、何処かで見たことがあるような気がしていたのですが──今、思い出しました。この間、幽霊で出てきた女の子にそっくりです」
「幽霊?!」
「ほら、妹さんの話をした時に……」
「え?」
「この間──確か、妹さんじゃないかという話をしましたよね?」
「アイリス、本当にこの人物かい?」
「良く分かりませんが、その絵の隣に置かれている絵も、キース王なのではありませんか? 少女の絵ですが、キース王にそっくりです。幽霊で出てきたのは、その人物で間違いありません」
「確かに、これは初代国王の幼少時代の絵だが──でも、だとすると何故あのタイミングで出てきたのだろう?」
エリオット様は、難しい顔をするとぶつぶつと独り言を言っていた。
「エリオット様、余計な事を言ってしまってすみません。もうすぐお夕食の時間ですよね?」
「その前に一度、オーベルの所に行ってみないか?」
「いいですね、賛成です」
宝探しの続きができるなんてワクワクしちゃう──エリオット様は私を見て苦笑すると、手を差し出してきた。私はエリオット様の手を掴むと、一緒に部屋を出てオーベル様のいる部屋へ向かったのだった。




