一触即発
「殿下、他の妨害がないとは限りません。お気をつけください」
こちらへ戻って来たオーベル様が、エリオット様へ声を掛けていた。
「分かった」
そんな話をしていると、何処からか騎士の声が聞こえた。
「城壁の扉が打ち破られます」
「なに?! オーベル、旗は揚げたのか?」
オーベル様は困ったように、自分の揚げた旗を見上げていた。
「ええ、確かに揚げました。ですが、もう彼らの視界には入っていないのでしょう」
「「‥‥‥」」
「殿下!! 扉が打ち破られます」
1人の騎士が報告に来た瞬間、城壁の扉が打ち破られた。馬に乗った兵士達が入ってくる。
「え?」
敵の前衛に何人か魔術師がおり、先制攻撃なのか魔術を放ってきた。
「爆裂火炎魔法!!」
「爆裂火炎魔法逆行!! 特殊結界防御魔法!!」
間一髪のところでオーベル様が叫び、魔術を跳ね返し、広い結界を張った。最悪の事態は避けられたものの、跳ね返された魔術で何人かの敵兵が倒れている。
「アイリス、無事か?」
「はい、大丈夫です」
エリオット様は、立ち上がると一歩前へ出て名乗りを上げた。
「我が名はカルム国の王太子、エリオット。協定を結びたい‥‥‥。誰か、話し合いの出来る者はいるか?」
すると、負傷した兵士を抱えながら、こちらへ歩んで来る人物がいた。雰囲気や佇まいから身分や地位のある人物に違いないと思えた。
「我が名はアーリヤ国の国王、イルだ。その言葉、確かに承った。降伏ということでよろしいか?」
「いや、この度の戦には行き違いがあったようだ。そのことも含めて話し合いたい」
「‥‥‥‥‥‥分かった」
イル王は、抱えていた兵士を近くにいた兵士へ預けると、こちらへやって来た。近くに魔術師がいるのか、彼に防御結界が張られているのが見えていた。
いつの間にか、近くに簡易テントが出来上がっていた‥‥‥。騎士たちが準備したのだろう。話し合いは、テントの中で行われることになり、それぞれの護衛を連れて、中で会談を行うことになった。そして何故か、私もエリオット様に呼ばれ、参加することになった。
「‥‥‥はじめよう」
「今回の戦は、仕掛けられたものだった」
エリオット様が開口一番にそう言うと、イル王は顔を顰めて言った。
「それは私も分かっている‥‥‥。だが、戦とはそういうものではないのか? そちらが降伏ということで、よろしいか?」
居てもたっても居られなくて、私は口を挟んだ。
「待ってください。私達は話し合いの為の、黄色い旗を揚げました。その色を変えられたのです」
「アイリス!!」
思わず口を挟んでしまった私を、エリオット様が窘めた。
「それを、うちの兵士がやったというのか?」
イル王は底冷えした様な目つきで、私たちを睨んでいた‥‥‥。気のせいか、少し寒いような気がする。
「‥‥‥証拠はありませんが」
「間違って旗を揚げた上に、言い訳までするつもりか?」
「‥‥‥」
「イル王、我が国カルム国は戦争を望みません。それを踏まえた上で、お互いきちんと調査をして、もう一度話し合いませんか? ここは、ひとまず休戦協定ということで‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥よかろう」
*****
その後、暫くしてアーリヤ国の兵士達は撤退していった。状況が少し落ち着いた頃、エリオット様が私を呼び、オーベル様を探していた。
「オーベル!! オーベルはいるか?」
「エリオット殿下、お呼びでしょうか?」
「アイリスを城まで連れ帰って欲しい」
「かしこまりました」
「エリオット様?」
休戦協定にはなったものの、状況はまだまだ不安定だ。安心はできないし、エリオット様が心配だ。置いていきたくない‥‥‥。そう思って、エリオット様を見上げると、私の心を見透かしたかのように、エリオット様は微笑んでいた。
「大丈夫。片付き次第、私も城へ帰るよ」
オーベル様は、騎士の礼をすると、気の抜けてしまった私を馬に乗せて、城まで送り届けてくれたのだった。