惑わされる人々
パーティーは早々にお開きになったが、会場は騒然としていて、それどころではなかった。
「ヘンリー様は、一体どうしたというのだ?」
「ヘンリー様が、私たちを裏切るはずがない」
集まって来た人達の声は、だんだんと大きくなり、収拾がつかなくなっていった。
「やはりアイリス様が怪しいのではありませんか?」
そう声高に言いながら、人垣を越えて会場の真ん中へ現れたのは、アンナ様の父であるカーター・ヴァイオレット公爵だった。
「ヘンリー様は、おっしゃった。アイリス様が戦争計画に関係していると‥‥‥。そこの娘を、なぜ野放しにしているのです? 早く彼女も捕らえるべきでは?」
ヴァイオレット公爵は、周りにいる護衛や衛兵を煽りながらら、焚きつける様に言っていた‥‥‥。護衛の騎士達は、かなり戸惑っている。
「アイリス様が、本当に?」
「ヴァイオレット様が、仰るのなら本当なのかも」
「ヘンリー様も、何か言いかけておられましたよね」
会場の人々は、「あーでもない、こーでもない」と言っていたが、ヴァイオレット公爵の話を聞いて「アイリス様が怪しい。捕らえた方が良いのでは?」という雰囲気になっていった‥‥‥。ヘンリー様が、エリオット様に暗殺されかけたという話は、何故か棚上げされている。
「疑わしきは罰せずと言いますが、彼女は内に大きな魔力を秘めています。野放しにしておくのは危険すぎます。捕らえ尋問し、問題がなければ解放するのが、妥当ではありませんか?」
私がヴァイオレット公爵に危険物扱いされ、会場がヴァイオレット公爵の意見に傾きかけたその時、国王が広間へ戻って来た。
「静粛に」
ヴァイオレット公爵は、国王の前に跪くと頭を垂れ、何かを言おうとしている。
私とエリオット様は、何も出来ずに肩を寄せ合い、固唾を飲んで様子を見守っていた。
「国王陛下、恐れながら申し上げたき‥‥‥」
国王は、ヴァイオレット公爵の言葉を遮ると、言い放った。
「ヴァイオレット公爵、そなたには王家に対する反逆罪の疑いが掛かっておる」
「いや、そんな訳は‥‥‥」
「ここに証拠も揃っておる」
国王は書類を宰相から受けとると、広げて見せていた‥‥‥。見覚えがあったのか、途端に青ざめたヴァイオレット公爵は、逃げようとする。
「捕らえよ」
国王の命が下ると、ヴァイオレット公爵は警備の騎士によって、取り押さえられた。
「さて。あとはヘンリーについてだが‥‥‥。我が息子エリオットやアイリス嬢がヘンリーの暗殺未遂や戦争に関わってたという証拠はないし、全く根拠のないデタラメである。ここにいる者なら、言わずとも既に気がついていることであろう‥‥‥。アンナ嬢やヘンリーは、そこにいるヴァイオレット公爵に騙されておったのだ。自白剤によりアンナ嬢の言質が取れ、ヘンリーに仕掛けたと思われる暗示魔術の証拠も届いておる」
「なんとか間に合ったみたいで、良かったです」
通信機から、オーベル様の声が聞こえた。どうやら、証拠書類はオーベル様が用意してくれたみたいだ。