戦争が始まる理由
光はキラキラと舞い、ヘンリー様の映像は消え、周りは少しずつ騒ぎはじめていた。
今の魔術は、オーベル様の魔術を使ったものだ──実は今日に合わせて、出来る限りの魔術を身体の中に溜め込んでいた。必要があれば、エリオット様に付与も出来るし、オーベル様からどの魔術を使ったらいいか、通信機から指示も出してもらえるので完璧だ。
以前より三人で話し合って考えていた、あるかもしれない断罪イベント対策で、二人とも私の不安を解消するために、動いてくれたのである。
私が使用した魔術は光魔術『ランブレ』と言って、軽い暗示にかかっている人を正気に戻し、溢れ出る光で人を導く──と聞いている。
「あれ? ヘンリー様? 私、戦争だなんて……。なんてことを!!」
どうやらアンナ様は暗示にかかっていたらしく、辺りを見回していた。
「捕らえよ」
国王の一言で、アンナ様はあっけなく捕まり、連れていかれた。国王は顔色が悪く、溜め息をつくと会場を離れて、何処かへ行ってしまった。今の状況は──正直言って、頭が痛い。
「エリオット様」
「ジル、アーリヤ国に今すぐ釈明の為の使者を出せ。何としても戦争を止めなければ」
「はっ!! 承知致しました。アーリヤ国へ使者を出して参ります」
ジルが立ち去ると、エリオット様は私の側へ来て、通信機へ向かって話し掛けていた。
「オーベル、聞こえるか? 今、どこにいる?」
「聞こえております。少し気になったことがあったので、以前アイリス様と来た、森の中にある『塔』へ来ているのですが、塔の石碑部分に古代文字が刻まれておりまして──それを調べておりました。その内容が、どうやら今回の事態を招いた、要因の一つだったと思われます」
「どういうことだ?」
「全文は読めないのですが、石碑にはこう書いてあるようです。昔、アーリヤ国には偉大な王がいて偉大な魔術師だったこと。その息子は国王を越える大魔術師で、力が強すぎて世界を滅ぼせるくらいの力を持っていたことが書かれています。その大魔術師である息子が、暗殺者を返り討ちにした際に、力が強すぎた事が原因で、一般人も多く巻き添えにしてしまったみたいなんです」
「……」
「そのことを当時のアーリヤ国王は、重く受け止め、森から生成される魔素を抑制するための塔を建て、魔術を使用できない国を建国し、その初代国王に息子を就かせた。この塔自体が解除されれば『アーリヤ国は全力をもってカルム国を阻止し、滅ぼさんとする』と書いてありますが──エリオット殿下、キースという名前に心当たりはございませんか?」
「初代国王がキースという名前だ」
なんということだ。戦争のきっかけを作ってしまったのは、ヘンリー様の言うとおり私自身だったのだ。
「戦争のきっかけは、それだけでは無いと思うのですが……」
「ああ、私もそう思う」
青くなった私の様子に気がついたエリオット様が、私の側へ来て肩を抱き寄せていた。




